第33回遠藤郁子ピアノリサイタル

2014年4月24日鎌倉の清泉小学校で遠藤郁子さんのピアノリサイタルが開かれた。ピアニストとして国内外で第一線で活躍する云わば大御所です。その遠藤さんが清泉小学校の全校生徒の為に33年に渡り演奏を披露されている。私立学校ならではの芸術文化教育の一環なのでしょうが、一流ピアニストを毎年御迎えし続けるには、大変な苦労もおありだと思います。学校には、全校生徒が収容できる大きなホールがあり。遠藤さん用のコンサートグランドが有ります。一年に1回だけ使用されるフルコン。ホールには、普段使われているグランドがもう一台ありますが、このフルコンは、遠藤さんの為に学校が33年前に用意したピアノである。遠藤郁子さんと言えば、ショパンがことさら有名で今年は、全曲ショパンでした。今年は、NHKアナウンサーの渡邊あゆみさんがコンサートの進行役というか曲にまつわるエピソードを朗読されて低学年の子供達にも解りやすく充実したコンサートになりました。さすがアナウンサーの語りは、絶妙で良く通る声に聞き取りやすい語り口。さすがとしか言いようがありません。また、所々で遠藤先生が曲のワンフレーズを弾いて「ショパンは、雨音をこういう音で表現しました。途中に怖い所が出て来ますね。それは、お屋敷でこの曲を作っているときにお化けを見てとても怖い思いをしました。それを表現しているんですね」といってそのフレーズを弾き始める。子供たちの表情を見ているとそのフレーズに引き込まれて興味津々。ただでさえ行儀の良いここの生徒達が真剣に耳を傾けて聞き入っている様子に関心すると共に大御所遠藤郁子さんがクラッシックの裾野を広げようと活動されていらっしゃる事に心を動かされます。仕事柄色んな演奏家の方々と仕事をしますが、大方ご自身のやりたい曲のオンパレード。そこにお客様の欲する物という概念はありません。しかも会場にあるピアノを我々が調整して当人は、艶やかなドレスやタキシードに身を包みただ舞台に上がって黙々と演奏するリサイタルは、昔も今も変わらず残念である。演奏者も自らの声でお客様に語り掛けせめて演奏する曲の解説など多少は、笑いを含めた人間性をアピールする必要があると考えます。遠藤郁子さん程の大御所ですら取り組んでいらっしゃるのですから。数年前、横浜コンサートホールの大ホールでテレビでおなじみの青島広志さんのコンサートが開かれてその調律を担当した時にあの大ホールが満席。その内容に「これは、人気があるはずだ!」と感心させられた事を思い出します。会場は、終始楽しさが広まり笑いと青島氏の巧みな話術でモーツアルトなどのエピソードを伝え演奏し歌い・・・お客様は、大満足のご様子でした。他のピアニストからは、タレントさんよね・・・なんて言われていますが毎回大ホール満席ですから、それにお客様の満足げな顔がその質の高いエンターテーメントを物語ります。

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さて一年に1回しか使用されないフルコン。これは大変です。33年物ですし一年ぶりに音を出すと鳴らないし音色は、バラバラ。如何せん学校ですから湿度管理など当然やっていないのでこれを弾けるようにするには生半可ではありません。遠藤郁子さんには、五家和夫さんという専属のkawai楽器の看板調律師がいます。さすがにこの状態のピアノを一人で準備するのは大変ですから、10年前位から私がお手伝いに行っています。とりあえず全てバラシてもう一度組み上げる・・簡単に言うとそんな感じです。若き調律師の為に少し詳しく説明すると、鍵盤関係は、ならし・あがき・バランス・フロントの調整は、特に入念に。バランスホールの調整だけで相当な時間と費やします。なぜならば、これにより全体のボリュームや音の響きに大きく影響するからです。アクション関係も同様ですべての接点における抵抗や感触を根気よく調整した後に整調の見直し調律と作業を進めます。その後に整音作業。これは、相当の経験が必要となりますが普段の積み重ねというか、音の聞き方の訓練を常日頃の仕事で訓練する事が上達の近道です。整音関係では、基礎的なやり方は大方理解していると思いますがメーカーによりその作業の進め方に違いがあります。色んなやり方を試すことが重要です。私は、運良くYAMAHA方式 STEINWAY方式 KAWAI方式とそれぞれの看板調律師と一緒に仕事をする機会が多々有った為にそれぞれの作業の進め方の違いが良く分かります。個人差とは違ったメーカーの伝統なんでしょう。どれが良いとかではありませんしそれぞれに良き伝統があります。ただ一口で整音と言ってもその作業は、同時発音からシフト整音から根気のいる仕事でその途中で音の発色など音を聞きながら整調を変える事もあり常に音を聞く姿勢を持たなければ出来ない作業です。しかしこの作業が一番楽しい作業である事も事実です。そんな中で五家氏の作業は、ことさら丁寧で緻密な所そして満足いくまで根気よく妥協しない姿勢は、長い付き合いと云えども未だに勉強させられます。この完璧さがピアニストの信頼を勝ち得るんだろうとうなずけます。作業に3日掛けて見違える?聞き違える音色を奏でるピアノになります。それだけ万全を期して準備しても毎年ピアニストから注文が付きます。指摘されて解るピアニストの優れた感性。一流のピアニストと言われる人達の音の理解には演奏者としての感性それは、揺るがない理想の音や指の感覚が頭にきっちりと基準として理解されているので その基準から外れるとクレームになる。我々も日々演奏者としての感覚を理解する為に努力をしておかないとなりません。今年は、遠藤先生からのご指摘もなく無事にコンサートを終えることが出来ました。

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この様な大掛かりなコンサートを公立学校で開催する事は、まず金銭的にも無理があるでしょうし何十年も続ける事は、出来ないと思われる。そこで調律師協会の横浜地区(2班)で私がプロジェクトリーダーとして公立小学校にピアニストを連れて「本物の音を広めたい」という企画でコンサート授業をする事となりました。最近は、圧倒的に電子ピアノが普及しているので調律師として本物の音、本物のピアノがいかに素晴らしいのか子供達に少しでも理解してもらえる様に企画したものです。その裏には、学校の音楽教室のグランドピアノをピアニストが弾ける状態にする必要がありますが、無償です・・・トホホ。まぁ若い調律師を引き連れて勉強会という事にして作業をして、当日の子供達の笑顔が報酬と心に言い聞かせて準備に励みます・・・・・頑張ります。

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