最盛期の勢いを感じるピアノ

今年の10月は、週末に台風が2週連続でやって来てテレビで観測史上最大級の台風だとか?確かに水害など日本全国あちらこちらで被害をもたらした。私共も2週連続の台風ですから・・まぁ~予定もピアノの納品も全てが狂いに狂って仕事が押せ押せになっています。そんな中で久々に出会ったピアノの紹介です。

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お客様より電話で「古いピアノなんですけど調律お願い出来ますか?」と問い合わせがあり「ピアノのメーカーは、どちらでしょうか?」とお伺いすると「ヤマハとか、そういったピアノでは無いんですけど・・」と何だか声まで小さくなってしまった。「両親が買ってくれたピアノなのでこれから大切にして行きたいと思ってお電話しました」と・・・。早速、お伺いしてみると黒く立派な大きなピアノがリビングに鎮座している。今では、あまり見かけ無い古いタイプのピアノ。鍵盤蓋を開けるとYAESUと書いてあるYAESU?僕の知っているYAESUとはちょっと佇まいが違う。八重洲ピアノとは、僕の記憶ですと有名な調律師(故)鈴木陽一郎さんの経営する会社で多くの調律師の養成から日本ピアノ調律師協会にも多大な貢献をされ、誰しもが認める人間的にも優れた人格者であったと記憶している。その名の付いたピアノでこのタイプは、見たことが無い・・・早速パネルを外して中を見てみると何とBELTONだった。このベルトーンというピアノは、ライオンマークで有名なピアノで富士楽器製作研究所という所のピアノで昔は、良く依頼を受けて調律をしたものです。最近では、めっきりその姿を見ませんが、僕のお客様でお二人ずっと調律管理をしているピアノがあります。古い上に長年使用されずに調律もやっていない保管状態があまり良くないピアノが大半で正直ちょっと手を焼くピアノという印象があります。

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早速、作業に入るとやはり長年調律をしていないが全体にしっかりとした印象。大きくピッチの下がったピアノですがピン味も良くタッチは重く古めかしい感じだが鍵盤調整をすると象牙鍵盤が随分敏捷になった。調律をしていてちょっと感じた事が中高音のユニゾンの音色が違う。通常ピアノは、一つの音に3本の弦が張ってありその3本を合せる事により一つの音を作り出す。1本の弦をU字引っかけて2本にするので6本一組の2音階という事になる訳です。ちょっと難しい説明ですが皆さんも自宅のピアノを見てみるか調律師に説明を求めるとな~んだそういう事か・・と言った簡単な事です。話を戻して下パネルを外してピアノ構造を見てみると1つの音にU字に張られている弦と一本張の弦でワンセット。すなわち中高音の一番右の弦は、全て一本張りとなっていました。ベーゼンドルファーやデイアパーソンのグランドでは、総一本張りのピアノが存在し純粋に音の伸びや調律の合わせやすさに優れた名器がありますが、アップライトピアノでしかも混在しているのは、今となれば珍しいと言えるでしょう。解りやすくベーゼンの一本張りの写真もアップしておきます。

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ついでに鉄骨は、今までのベルトーンでは、見た事の無いお金の掛かった鉄骨・・ロゴまで入っている。

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当時は、ピアノ全盛期で作れば売れるといった時代ではありましたが、ベルトーンのブランドでの生産台数が如何ほどだったのか販売台数は?と想像しても合点が行かない。思うにYAESUピアノの(故)鈴木陽一郎氏が富士楽器さんに発注するにあたってこだわりの特別注文であったのでは・・と想像する。その証拠に今までみて触ったBELTONとは、出来栄えが全く違う立派なピアノであったからです。ピアノ業界が潤沢に儲ける事の出来た良き時代に良い素材と良い製作技術を惜しみなく注込む事の出来た活気みなぎるピアノ。これから調律・整調・整音と僕も持てる能力を全て注ぎ込んで良い音にして大切に後世に残して行かなければ・・・と楽しみでなりません。今回は、ちょっとマニアックな記事になってしまいましたが、長年色んなピアノに触って来てもなお未だ日々新たな発見がありピアノの奥深さに驚かされる事は、まさに調律師冥利に尽きる・・・としか言いようがありません。