学校のピアノ壊れてるんだよ!

お客様宅で子供さんが「おじさん、学校のピアノ壊れてるんだよ。鍵盤押しても音が出ない所があるし音もワンワンしておかしいんだ・・・調律してないんじゃないかなぁ~!」よく聞く話です。僕は、「それは大変だ~ピアノが壊れちゃってるから鎌倉ピアノ芸術社で調律する様にと先生に言っておいで・・・。」と茶化すと「おじさんに頼む様に明日、先生に言ってくる!」なんて可愛い事を言って貰ってもその学校から依頼が来た例がありません・・・当たり前ですが。学校は、大方毎年、1月から3月にかけて学校のピアノ調律を行っています。卒業式や入学式などでピアノを使用する為にこの時期に集中します。我社も長年に渡り多くの学校のピアノの管理をさせて頂いておりますがこのお子さんの指摘は、我々ピアノ調律師が真剣に考えて取り組まなければならない事と思い今回は、学校のピアノ調律について書き記したいと思います。

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この写真を見て頂いて解る通り、ピアノにとって学校は大変過酷な環境です。何より使用状況が乱暴で埃が多くて湿度・温度管理は、全く期待出来ず予想できない破損やトラブルが起きるのが学校です。

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写真とは、全く関係のない10年前の話です。お昼過ぎにとある学校の音楽専科の先生から携帯に電話が入り焦った声で「梅根さん今日、時間開いています?学校の調律お願い出来ないですか?」と僕は、「いや~~今日の今日じゃ難しいなぁ~どうされたんですか?」と聞き返すと昨日調律して貰ったんですが、鍵盤が上がってこない所が沢山あって・・・明日、卒業式でピアノ使うんです」と困り果てた様子「調律した所に電話して来て貰えば良いんじゃないですか~」すると「今日は、定休日らしくて連絡が取れないんです。どうにかなりませんか?」と電話口から懇願されて「夜になっても良いのならお伺いします」と夕刻6時半位にお伺いしました。早速、体育館のピアノと対面するとほぼ88鍵スティック状態、湿気によるものですが機械の動きが悪く鍵盤が下がったままになっている所がいくつか有る。しかもピッチが低く、音も随分狂っている。僕は、先生に「ピッチも低いしあまり良い状態じゃないので調律までやり直して良いですか?ただ時間が掛かってしまいますが学校の方は、大丈夫でしょうか?」と聞くと「ちょっと聞いてきます」と言って先生が走って行ってしまう。体育館では、部活動でバスケットボールをやっているので調律といってもちょっとつらいなぁ~~と思いながら機械部分の修理をどんどん進めて行く。ハンマーは、台形状態にすり減っている。今まで何一つ愛着を持って作業をされた形跡が無い。この状態では、経験の浅い調律師が、上手く音を合わせる事は出来ないはずだ。そう思っている所に音楽の先生が校長先生を連れ立ってやって来た。「本日は、突然で申し訳ございません。どんな調子でしょうか?直りますでしょうか?」と腰の低い穏やかな感じの校長先生。「大丈夫ですよ。開けっ放しの体育館ですから朝から一日雨なのできっと一気に湿気が入ったのでしょう。ただピアノのコンディションは、悪いですね。このハンマーもこんな状態では」と言って校長にアクション(機械部分)を引き出してお見せすると校長先生が「本当は、どういった状態が正しいのでしょうか?」そこでハンマー1本をざっとファイリング(削り修正)してお見せすると「おお~~これが正しいんですね・・・解ります」そして音を出すとまたまた「おお~~全然違いますね。教員は、何名か残って仕事をしていますが私が最後まで残りますので宜しくお願いします」と即座に判断を下される所は、さすが校長先生だ。出来るだけ短時間で料金の負担の少ない様に作業する事にしました。バスケットも8時には、終わるとの事で一気にアクション関係の修理に取り掛かる。公立学校の体育館には、もちろん暖房なんて有りませんので寒さと時間との闘いとなり修理・整音・調律までの全ての作業が完了したのが9時30分過ぎだった。校長室でお茶を出して頂いて「本日は,本当にありがとうございました。いつもお願いしている楽器店の定休日だったので全く連絡がつかずに困っていました。ところで昨日やって貰った調律は、ひどいものだったのですね」と校長先生が仰るので僕は、「今回の事を楽器店にありのまま伝えて次回からは、国家技能検定合格者で調律師協会会員の経験豊かな技術者に来て貰うようにお願いされると良いと思います」とそう伝えてると「これからは、鎌倉ピアノ芸術社さんにお願いします。梅根さん来ていただけますか」と言って頂いてその後、5年位その学校とお付き合いが始まりました。体育館のグランドピアノは、本当に良い音に生まれ変わり、学校の芸術鑑賞の行事で某音楽大学講師のピアニストがそのピアノを弾いて「良いピアノですね!うちの大学のどのピアノより良い音がしますわ」とピアノを誉められましたと校長先生と音楽専科の先生が嬉しそうにお話してくれました。その後、両先生は相次いで転勤され、それ以降その学校から依頼が来なくなった。こちらからお電話すると事務の方が「今年は、もう調律終わりました。以前お願いしていた所にお願いしました。学校も予算的に厳しいので料金の安い所になってしまいますから」と。参考までに料金をお伺いすると我社より1000円安かった。やっとあそこまで仕上げたピアノなのに他所が1000円安いんですけど・・・その残念な選択に無性に腹が立った。そして、あのままいい状態を保ってくれると良いのだが・・・事の経緯を知っていれば他所に調律の依頼をするなんぞ常識じゃ考えられない・・・すこぶる残念な気持ちが記憶に刻まれた。勿論、先生方の転勤でも引継ぎが上手く出来ている学校とは、長く良い関係が築かれていますが、公立学校では、今回の様なケースが多いのも現実です。学校のピアノは、子供達の教育に使われる重要な楽器です。調律師は、持てる技術を投入して誠心誠意取り組まなければなりません。そして特に公立学校では、ピアノは皆さんの税金を使用した高額な学校備品です。コンディションよく長持ちさせる義務が生じるはずです。そういった所は、調律師も学校も決して御座なりにしては成らない事だと考えます。

その内また、別の学校で卒業式前に調律をしたらトラブルが起きて、その調律をした楽器店が定休日で・・・連絡が全く取れなくて・・・・なんてそんな事・・・・もう起きないな!