97歳になってピアノが楽しい!

今年も昨年に続きゴールデンウィーク明けの5月15日(日)に鎌倉プチロックフェスティバルVOL.2が開催された。当日は、天気に恵まれて昨年の倍のお客様にご来場頂き大盛況でした。この手作りフェスティバルは、地元鎌倉で商売をされているスポンサー70社余りの協力を得ているので鎌倉ピアノ芸術社もスポンサーになって協力をしました。昨年同様、由比ガ浜の海の真ん前、鎌倉海浜公園にピアノを運んで準備をした様子と長いお付き合いのご年配の女性が「この年になってピアノが楽しい」と言って楽しんでいらっしゃる事を記事に書き記したいと思います。

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電気を使わないロックフェスティバル第2回目。今年の2月位に実行委員長から「梅根さ~ん、ご無沙汰しております。今年は、5月15日に決まりましたので昨年同様宜しくお願いします。」と電話あった。昨年は、曇りのち雨で夕方からパラパラと雨が降り始めて無事に演奏が終わった後30分で88鍵全て鍵盤が上がらなくなって弾けない状態になってしまった。その後、一年間誰も弾いていないピアノですから当日の調律だけでは、当日ミュージシャン達の演奏には耐えられないだろうと思いゴールデンウィーク明けに前もって全ての修理・調整を済ませて本番を迎えようと作業に出掛けた。鎌倉の有名なお寺の近くにお住いの御宅の和室にそのピアノが鎮座している。恐る恐る弾いてみると全ての機械が湿気を帯びてスムースに動かない。音は、鳴らない。ただ昨年、潮風と湿気にさらされてプロが一日中弾きまくったピアノなのにピッチは、想像よりましな状態。やっぱり俺って天才?なんてちょっと有頂天になって作業に取り掛かった。鍵盤関係は、多分に湿気を含んでいて全ての鍵盤調整から接点の潤滑状態、そして調律まで当日また潮風にさらされても大丈夫なように細部に渡って入念に時間を掛けて作業をした。昭和43年製の古いピアノですが、やはり頑強に作られていて立派なピアノです。当日は、朝9時に運送屋さんがピアノを運んできてすぐさま調律を始めた。海の前の公園で周りの人々は、出店の準備で忙しくされている中、スーツ姿で一人黙々とピアノの調律をしていると場違いな感じがして昨年同様、妙に可笑しくて恥ずかしかったがピアノは、完璧に仕上がった。

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作業を終えて会場をぐるりと見て回ってピアノの所に戻るとギターを抱えた人達が準備を始めていた。1人の中年男性がピアノに座り何やら弾き始めたら「おっこのピアノ調律してある!」とニンマリしたので「朝9時から調律したんですよ」と告げると「えっここに調律師の人きたんですか?」と聞くので「そう、僕が調律師の人なんですよ(笑)」と答えると彼は、まじまじと僕を見て「すげ~」と言った。何が凄いんだろう?と思っていると周りに観客が大勢集まって来て演奏が始まった。お客さんの様子を伺っているとその中に車椅子に乗ったお婆さんと付き添いの女性がいる。周りの観客も一番前に彼女たちの場所を開けて気遣っている。車椅子のお婆さんは、終始ニコニコしていて、その姿は、とても楽しそうに見えた。その姿を見てこういった仕事をしているのに生前車椅子の母に音楽を楽しませる事を考え付かなかったな~と悔いが蘇った。彼女達は、フェスティバルの最後までピアノの有る所でその日一日ニコニコと演奏を楽しんでいた。これだけでも、この無料フェスティバル開催の意味があるな・・と改めて音楽の持つ力を実感させられた。

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毎年5月に調律にお伺いしている30年来のお客さま。ご夫婦で音楽の教員をされていたらしいが、最初にお伺いした時には、既にお二人共定年されていた。10年ほど前にご主人が病気で先立たれてその後、奥様一人で生活されている。いつもの様に今年も5月中旬にお伺いして調律を終えると軽い足取りでお茶とお菓子を運んで来てくれた。すると「私も年だから昔の様に弾けないけれど、毎日少しづつ練習していると弾けなかった曲もゆっくりだけど弾けるようになるのね~上手くないのよ(笑)。ピアノに向かってると今が一番楽しいと感じるの(笑)。」「それから来年は、4月に来てくださいね。」と言われて僕は、「来年は、何かあるんですか?」と聞くと「ほら私も歳だから来年生きてるかどうか解らないじゃない(笑)。だからこれから私が生きてる間は、1か月づつ早く来てくださいね」とにこやかに言われた。僕は「お母さん失礼ですけどおいくつになられたんですか?」と聞くと恥ずかしそうに「私、97歳よ~(笑)。」僕は、「97歳ですか~?いや~お元気ですね~ぜんぜん見えませんよ~背筋もまっすぐだし耳も遠くないし僕は、80代だと思っていましたよ」と言うと左腕を見せて「今年の初めに台所でつまづいて壁に左手ついたのね~骨にひびが入っちゃったのよ。もう大丈夫なんだけど一時ピアノ弾けなかったのよ。それになにせ97歳だからいつどうなってもおかしくないんだから、これからは1か月早めにいらしてね(笑)。」「じゃ~来年は、4月に入ったらすぐにお電話差し上げますね」と言って二人して笑った。帰りに玄関先で「くれぐれもケガだけは、気を付けてください」と言って家を後にした。とても97歳には、見えないお元気な奥様です。左右の指をバラバラに動かすことが如何に脳に良いかは、音楽療法などを考えると確かに相当な効果があるのだろう。今は、「ピアノに向かっているのが一番楽しい」とおっしゃる笑顔に何時までもお元気で居て欲しいと心から祈った。