皆さんも経験がおありだと思いますが、喫茶店に入るとお客さんは、誰もいない。暇そうにしてたお店の店員さんがにっこりと笑顔で席に案内してくれる。するとすぐさま次から次へとお客さんが入って来て見る見るうちに満席になり行列状態。その様子に新たなお客さんは、入店を諦める始末。まるで僕がお客さんを連れてきたのかな?僕って福の神?なんて思ったりして。しかし、お客さんも重ならずに分散してまんべんなく都合よく来てくれるとお店も助かるだろうなぁなんて考えてもそれが商売なんでしょう。不思議でなりませんが、そういった事は我々の仕事でもあります。そんな近況を書き記したいと思います。
ありがたい事に「ホームページを読みました。」と言って仕事のご依頼を頂くことが増えました。大方は、ピアノ調律の依頼ですが、この春位からは、修理依頼が増えて6月7月になっても未だてんてこ舞いの嬉しい悲鳴です。まずは、日本在住のアメリカ人ピアニストが所有するスタインウェイM型のオーバーホールです。およそ70年前のニューヨークスタインウェイで以前アメリカ人の調律師がオーバーホールしたピアノを購入して日本に運び込んだピアノ。日本に来て30年程経ちますが88鍵スティックでソステヌートの金具は、壊れて紛失していてまぁ~まともに音が出ない状態。もう一台グランドをお持ちなので問題は、ありませんでしたがそろそろちゃんと修理して弾きたいとの事で修理依頼がありました。お客様の希望で外装と響板、鉄骨は、そのままにして修理して欲しいとの申し出に僕は、「そこまでやるのだったらついでに外装も含めて全てやりませんか?」と問うと頑なに「外装は、そのままじゃないとオリジナルじゃなくなっちゃう。鉄骨も響板もオリジナルじゃないといけません」ときっぱりと断られた。いざピアノを引き取ると下見した時には、解らなかった響板の割れが数カ所見つかり。尚、鉄骨・響板に以前修理した時にマスキングをしてなかったのかと思う位に黒い塗料が至る所に着いている。いずれにせよ響板の割れを修理しなければならないので全てを分解して外装以外の全ての修理をする事にせざる得なかった。
修理作業も無事終えると想像を絶するピアノの音に僕自身ビックリ。さすがスタインウェイこの表現力に驚かされる。出来上がったピアノを我社のセレクションルームに入れて約1か月掛けて最終調整をする事にした。というのも弦・ピン・ハンマー・アクション部品も交換してあるので少し弾いて弦を伸ばして整調・整音を繰り返して少しなじませてからお届けします。その間、我社のピアノの先生やピアニストに来てもらって弾き込んで貰っています。この気持ちの良い音とタッチは、不思議と何時までも弾いていたいそんな気持ちにさせられてさっぱり作業が進みません(笑)。さぁ8月の納品に間に合う様に最終仕上げに入ります。いや~ここまで良い仕上がりだとアメリカ人ピアニストのお客様は、どんな反応をするのだろう?今から楽しみでならない!
そんな中、仙台からEarl Windsorの修理依頼があってこれまた並行して全修理。外装の塗装から内部の部品交換と手間のかかる仕事です。このピアノを修理していると製作時に色んな所の寸法がズレていてこれを全て正常な状態にする作業から始まった。作業を進めているとどんどんと交換した方が良さそうな部分が出てきて少し作業が遅れているが只今進行中で80%位仕上がっています。このピアノの事については、改めて記事にしたいと思っています。
そしてそんな中、実家に放置していた30年程前のYAMAHAの高級機種を孫の為に修理して調整してお届けするという仕事。調律師の皆さんならばお解りだと思いますがこの時期のピアノは、バットスプリングコード(バットフレンジコード)が経年変化で切れてしまいます。これを88鍵全て交換。そして23年ぶりの調律をして整調・整音を繰り返してお届け。これも細かな仕事です。ただ仕上がるとさすがに抜群に良い音になります。この音とタッチで一気に疲れが吹っ飛んでしまう。
そしてそんな中のそんな中、立て続けに消音ピアノユニットの取り付け依頼が入る。毎年の調律のお客様の仕事に音楽会の調律など普段こなしている仕事に加え修理ピアノが重なりおまけに消音ピアノユニットの取り付け。そしてこの年になると色んな役職が回って来ていて会議を仕立てたりとちょっと頭がパニック状態。消音ピアノユニットは、頑張って取り付けても半日はかかる。規格が合わないピアノに取り付けて調律まで含めると1日がかりの仕事です。こちらのお客様は、もう30年のお付き合いで娘さんの為に購入したのだが娘も独立してお母さんが習い始めて20年。とうとうご主人様が定年して家に居る事が多くなると思い切ってピアノが弾けないと消音ピアノユニットを取り付ける事に。取り付けの日もご主人が旅行に出かけている日に合わせて日程を調整した。当日、朝お客様宅にお伺いすると「私、友達とランチの約束があるから出かけるの、適当にやっててちょうだい。夕方には、戻るから宜しくね」と僕は、「はい、しかし僕もお昼を食べに出掛ける予定なんですけど・・・」すると「あ~そうね鍵預けるから勝手にやってて大丈夫よ」と言い出す。「いやいや鍵は、ちょっと困ります。じゃ~今、コンビニに行って何かお昼を買ってきますからちょっと待っててください」と言うと「大丈夫よここに鍵置いとくわ。もし良かったらここにカップラーメンとかパンとか少しあるから冷蔵庫の物も適当に食べて良いからお願いね」と言い残して出かけて行った。いくら長いお付き合いのお客様といえども勝手に冷蔵庫をあさる訳にはいかず、かといって鍵に触れるのは大いに気が引ける。いや~まいったなぁ~まぁお茶菓子と飲み物も用意して頂いているのでまぁ~いいか~と作業を進めた。順調に作業が進んだ所でピンポーンとチャイムが鳴る。直接玄関に出向くとお蕎麦屋さんが「出前で~す」と僕は、「ここの家の方、今お出かけになっていて誰もいませんよ」と告げると「〇〇さんに12時ピッタリにピアノの調律師さんに出前持って行ってくれと頼まれました。」僕は、ありがたくそのかつ丼を戴いて30年の長いお付き合いとその人柄に心から感謝した。われわれピアノ調律師は、一年に一度の訪問ではありますが、良い関係が築けると何十年と長い関係が続きます。ましては、お客様宅にあがり込む訳ですから常に誠実でいなければなりません。私も未だ尚、そうある様に身を引き締めて仕事に励まなければならないと考えます。そうしていればまた美味しいものにありつけるかも(笑)!