Ballindamm(バリンダム)FRITZ KUHLA(フリッツクーラー)APOLLO というピアノ

毎年3月は、受験に卒業そして転勤と何となく慌ただしくスケジュールが乱れる時期ですが今年も横浜市立中学校に「校内職業体験」のピアノ調律コースの講師として2時間の講話をしてきました。昨年は、全員女子生徒でしたが今年は一人男子生徒の参加があり講師としてちょっと嬉しかったりして(笑)。その生徒に「どうしてピアノ調律を選択したのですか?」と聞くと「ゲーム音楽とか好きなのでピアノにも興味があって中身を知りたいと思いました。」と答えてくれた。私は、「ゲーム音楽は、以前コンピュータ音楽で打ち込みで作られる事が多かったのですが最近は、ゲームの世界も変わってピアノやヴァイオリンなど生楽器で生演奏録音が主流になって来ましたね!」と言って講話を始めた。本来ならば、ここでデジタルと生音の違いなど色んな話をしたくなってしまいましたが、ピアノ調律コースですからピアノ調律を全員体験して貰う必要がある。2時間の時間の制約内ではとグッとこらえた。ピアノ調律体験では、音楽室のグランドピアノのユニゾンを各自2回に分けて一人1音を仕上げるという段取り。生徒達は、音の唸りを聴くことは何の指導も無く良く出来る。吹奏楽部に所属している生徒はともかく楽器未経験の生徒も問題なく体験をこなすことが出来た。いや、想像以上の出来栄えに私の方がビックリさせられた。何より生徒達が2時間休みなしで真剣に私の話に耳を傾けてくれた事に音楽好きの生徒達の好奇心の高さと質の高さに心より感心させられた。

さて、本題となるピアノの話ですが以前から書こうと思いながら今頃になってしまいましたが、日本で3番目に大きなピアノメーカーで今でも現存する東洋ピアノです。このメーカーは、APOLLOというブランドが主力メーカーですが、バリンダムやフリッツクーラーといった大手販売店からの注文で多くのブランドも生産しています。この東洋ピアノは、面白い事に多くの新しい技術開発にも盛んに取り組んでいてアップライトピアノにグランドピアノと同じソフトペダル機構を取り込んだり弱音ペダルのワンタッチ化を図ったりと意欲満々のメーカーである。ここでは、バリンダムとフリッツクーラーのピアノを取り上げますがこの両者のピアノは、関東地域で扱う事が多くその年代に応じてメーカーが開発した新たな試みが採用されていてピアノ調律師として大変興味を注がれるピアノです。アポロもバリンダムなども基本的には同じピアノでピン味やタッチも程良く音は、きっちりと調整をすると深く華やかに良い音を奏でる良いピアノです。

私が思うに東洋ピアノの製品で他社と大きく異なるのが時代に応じてアッパーブリッジの構造が変わる事だと思います。現在生産されている物がどうなのかは知りませんが、通常鉄骨のアッパーブリッジからアグラフに代わるメタルブリッジ(メタルメッキされたグランドのアリコートの様な個別ブリッジ)。これは、ブリッジ自体が少し柔らかい様で調律時にピン味に影響を及ぼしている気がする。ブリッジに弦の溝が最初から刻まれているので弦間隔の修正などは、大変難儀するがこの特性さえ理解をすると物凄く良い音がする。残念ながら短期間での仕様だったがお客様でこの方式のピアノを所有している方が数名いらっしゃって、どれも大層に輝きのある深い素晴らしく良い音を奏でている。その後には、鉄骨自体に駒形のアッパーブリッジ(カットブリッジ)が採用されてこれは、ピン味も滑らかで調律も調整もやり易く大きく改善された様でしたが個人的には、メタルブリッジの方が気難しいが音はお気に入りで希に「メタルブリッジのバリンダムが欲しいのですが」とマニアからの問い合わせがあるが残念ながら中々良いメタルブリッジに巡り合えないのが現状です。気長に待って頂いております。その後、外装デザインやロゴも変えられて響板は、ルーマニア産スプルースを使用した。張りのある華やかな大きな音がするピアノでハンマーを見るとニューヨーク方式なのかな?と思うほど硬化剤で固められている。お客様の要求で整音をするときは、ニューヨーク方式の整音を知っていないと全く音が変わらない。ただその方式を知っていると根気はいるが何ら問題なく対処ができて深みのある良い音になる。

思えば東洋ピアノの商品では、色んな勉強をさせられました。今では、普通にこなす仕事でも初めての時は、随分頭を抱えて考えたものです。先輩・友人などに相談したりしながら対処法を学んだり、他社の対処法を応用したりとバリンダムを調律していると遠い昔の事が懐かしく蘇って来ます。今では、時折中古ピアノとして弊社で再生して私がきっちりと楽しみながら調整を繰り返して商品にします。ただ、本当に良く使って頂ける方にだけにしか売りたくないピアノなのです(笑)。そんな殿様商売では、儲からないなと分かっているのですが、そこが職人なのでしょうか?まぁ~そんなお客様が毎月問い合わせてくれたら問題ないか!