ラニーニャ現象とピアノ

皆様、2018年犬年を迎えまして如何お過ごしでしょうか?本年も鎌倉ピアノ芸術社を何卒宜しくお願い申し上げます。昨年は、特に11月・12月は忙しくて新たな記事をアップ出来ず昼夜問わず仕事に追われて気が付いたら大晦日。それもこれも昨年の夏の連日の雨と冬の寒波が関東のピアノに大きく影響していました。今回は、昨年の天候がどの様にピアノ影響したのか書き記したいと思います。

昨年は、8月に連日雨続きでテレビの天気予報のおじさん達は、ラニーニャ現象が起きているだのいないだのと何だか良く判らないがエルニーニョが赤道あたりの水温が上昇してラニーニャがそのあたりの水温が低いとか、それによって日本の気候も大きく影響を受けると・・詳しい事は、分かりませんがどちらの現象も日本にとっては、良い事が何一つ無いらしい。現実に昨年の関東の8月は、梅雨の様に来る日も来る日も雨雨雨。場所によっては、観測史上初の大雨による大洪水が発生して多くの方々が被災し未だ多くの方々が仮設住宅で過ごしそこで新年を迎えられたというニュースが報じられました。被災した皆様に心よりお見舞い申し上げると共に一日も早く復興する事をお祈り申し上げます。それにしても昨年は、人間にとってもピアノにとっても厳しい気象条件でした。しかしその最中にピアノのトラブルの報告は、全くありませんでした。ピアノは、湿度が高いと音も大きく影響を受けますが一般家庭の場合は、鍵盤が戻ってこないとか鍵盤を押しても小さな音しか出ない所があるとか色んな機械的なトラブルが出てきます。実際に湿度が高いとどうなるのかと言いますとピアノ木部に湿気が入り込んで木部が膨らむ。ブッシングクロスなどフェルト類にも湿気が入り込んで膨らんで機械の動きが悪くなる。響板や駒も湿気が入り込んで木部の圧力が上がってピッチが上がってしまう(音が狂ってしまう)。その様に湿度が高い事によるトラブルは、この日本に置いては毎度の事で我々ピアノ調律師は、毎年の調律の時にそれぞれのご家庭の様子に合わせて作業していますのでそうそう大きなトラブルになる事は、ありません。しかし昨年は、冬になって急激に気温が下がり暖房器具フル回転。おまけに今は、床暖房や一軒全館空調などで一気に乾燥が進んで大きく体調を崩したピアノを心配してお客様よりSOSの連絡を多く受け取りました。

10月の半ば過ぎに初めてのお客様より電話が入る。私は、他の仕事で外出しておりましたが、会社より大至急連絡を取って欲しいと携帯に連絡が入ったので仕事先より直ぐに電話を入れると「今週末にライブを開くのですが今日ピアニストが来てピアノを弾くと音が凄く狂っているので調律して欲しいと言われてお電話差し上げました。4月の終わりに調律したばかりなのですが、ピアノの調律をお願い出来ますか?」との事で後日早速お伺いすると自宅を改造した眺めの良い喫茶店でピアノは、YAMAHA C3で比較的年式の新しいピアノで年2~3回の調律がされているがピッチが3Hz上がっている。夏の長雨の影響です。アクションも湿気を帯びていて動きの悪い所が多数ある。オーナー様が今回のピアニストは、一音一音を大切に弾く有名なJAZZピアニストで追っかけのファンが居て地方からの申込みで既に満席らしい。ならばとじっくり時間を掛けて無事調整を終えた。

12月のある日電話が入る。「先日は、ありがとうございました。急で申し訳ございませんが明後日コンサートなのですが調律をお願い出来ますか?」と同じオーナー(お客様)からでした。私は「明後日という事は、今日明日のどちらかですね?いや~困りましたね、既に予定が一杯です。もしよろしければ今日の夜遅い時間ですがどうにかお伺い出来ますが」とお答えすると「はい、今晩お待ちしております。急で申し訳ございません」と夜にお伺いした。早速、ピアノを触ると2カ月前に調律しているので弾いて大きく違和感が無いが2Hz位ピッチが下がっている。私は、「暖房は、どうされていますか?」と聞くと「エアコンですけど」と言って遠くの2カ所を指差してくれた。「あの2台ですか???」あの距離ならば大して影響がなさそうだが?と思いながら「前回のコンサート当日は、台風でしたけれど無事開催できたのですか?」とお聞きすると「え~皆さん遠くから大雨の中いらして頂いたんですよ。ピアニストがピアノがとっても素晴らしいと言って喜んでおりました。」「そうですかそれは良かったです(笑)!前回から2か月でこれだけピッチが下がったのは、この夏の長雨とコンサート当日の台風の大雨で沢山湿気が入ってここの所の寒さに於ける暖房の影響で乾燥して音が下がってしまったのでしょう~でもエアコンがあの距離ですからね~???まぁ~とりあえず調律を始めます」と言って腑に落ちないまま調律の準備を始めると。「そうだわ冬のコンサートの時は、その薪ストーブをずっと燃やしています。」と言ってピアノの目の前の薪ストーブを指差されました。「え~これ使っているんですか?(笑)!原因が判りました(笑)!薪ストーブを燃やすとお客様は、大喜びでしょう?」「そうなんですよ。皆さん喜んでまた暖かいんですよ」とにこやかに、私も原因が判って安心して作業に没頭した。この薪ストーブは、前回の調律の時にその存在は、気付いていましたが、てっきり使っていないのかな?と思った位にとても綺麗に掃除されていた。原因は、夏の調律の時は、湿度が高くピッチが上がっていたのだが、寒くなって暖房に薪ストーブしかもピアノから2メートルの所、その放射熱でピアノが温められて乾燥が進んでピッチが下がった訳です。調律を終えて冬場のピアノの管理方法を提案して夜の仕事が無事終えた。

12月は、こればかりではなく、ホテルやレストラン・ライブハウスなど緊急の飛び込み仕事がとても多かった。今年のイベントの多さとどの会場も満席と聞くと世間では、景気が良くなったんだなと実感させられます。コンサートホールにおいては、コンサートの度に調律を行っているのでこの様な大きな狂いが出ることはありません。実際ホールでは、ピアノの湿度管理は、徹底されているので天候の影響も最小限。しかしその他の会場やライブハウスなど暖房のキツイ所は、途端にピアノも悲鳴を上げる。この状況によく似ているのが最近多くなった、老人施設。ご高齢の方々の為に24時間冷暖房と床暖房で快適に過ごす事が出来ます。しかしピアノにとっては、もっとも過酷な環境だと言えます。夏は、涼しく冬は、暖かくと技術の進歩も著しいが、それは、温度に関して言えばの話でもう一歩進んで快適温度と快適湿度の管理まで考えられた製品が普及してくれるとエルニーニョでもラニーニャでも何なら両方いっぺんに来ても人間もピアノもどちらも快適なのに・・・いやいや、そんなんじゃ日本各地で観測史上初の災害が多発しちゃうから、どうかその難しい名前の現象はもう起こらない様に!そうじゃないと急な仕事で忘年会ドタキャンが続くともう呼んで貰えなくなっちゃう~!