学校のピアノ調律について

2021年、新年を迎えたら緊急事態宣言になってあれよあれよと気が付いたらもう月末。あっという間に一月が過ぎ去った。何をしていたんだろうと思い返すとまぁまぁ例年通りに忙しくなって来た。昨年の緊急事態宣言と違って学校は、お休みでは無いのでご家庭の生活リズムは、通常通りに刻まれている様で唯一リズムを乱しているのは、ご主人様や社会人のお子様がリモートワークで自宅に居る為に奥様の生活リズムが大いに乱されてストレス!ずっと食事つくってるわよ!とご機嫌ななめ(笑)!話がそれてしまったが、我々の仕事は、1月から3月にかけて学校調律の時期に入る訳です。今回は、今月に行った学校のピアノ調律について書き記したいと思います。

SNSが皆さんの生活に深く入り込んで誰もが情報の収集や遠く離れた見ず知らずの人達とも気軽にコンタクトが取れて知りたい情報を教えて貰ったり意見交換が出来たりと想像を超える便利な時代になった。昨日、ピアノ調律師のSNSで「学校のピアノは、どうして良くならないのか!皆さんの意見を聞かせて欲しい。」と問い掛けがあった。ピアノ調律師やピアニスト・ピアノ講師・ピアノ愛好家の集いなので色んな意見が交わされていますが、それぞれ年齢・経験や立場の違いによる意見の食い違いが有る様で私がそこに書き込んで変に誤解されて炎上するより、弊社ホームページに私の考えや経験や弊社の方針を書き述べた方が良いかなぁ~とこの時期にベストタイミングの問い掛けだと思った次第です。2015年2月9日にアップした「学校のピアノこわれてるんだよ!」に学校調律の問題点に少し触れていますが今回は、その問い掛けに多少沿う様な形でピアノの様子と作業内容などを書き記したいと思いました。一つ申し上げて置く事は、弊社は学校調律の入札には一切参加しておりません。さて昨年夏位からいくつかの公立学校よりピアノ調律のSOSの連絡を頂きました。内容は大方、「とにかくピアノがガタガタで音が直ぐに狂ってタッチや音色もひどいんです。一度見て頂けませんか?」といった内容で何か壊れて弾けないとかそういった事ではありませんでした。まぁ~よくある話なのでその時は、この酷暑の影響かな?なんて思っていました。

今年、1月に入り連絡を頂いた学校に順次お伺いする事になった。初めての学校で音楽室にグランドピアノ・音楽準備室にアップライトピアノ・体育館にグランドピアノを朝から一日掛けて作業をする事に。ここからは、専門的な用語が少し出てきて技術的な内容になります。専門用語ですから訳が分からない方もどうか勘弁して頂いて読み進んでその雰囲気をご理解ください。まず、朝9時30分よりアップライトピアノからの作業。納品されて6年程の真新しいピアノでピッチを測るとさほど下がっていないが全体的に緩んで随分だらしない音がしている。鍵盤は、カラがひどい・レットオフも大方10ミリ以上という事は、過去に整調は、全くされていないと予測出来るのでこの短時間で良い状態にする優先順位を決めてまずは、弦合わせ作業をして鍵盤カラ取りに入る次に下調律でピッチを上げた。簡単に鍵盤ならしとあがきを見て次にレットオフを全て合わせて調律を合わせて全体の整調を見て最後にペダルを合わせをして掃除。最後に試弾をするともの凄く良い感じに仕上がって満足満足・・・終了!。直ぐに隣の部屋のグランドピアノに取り掛かる。年式の浅い学校のピアノとは思えない綺麗なピアノですが、ピッチを測ると15セント下がっている。全く反応の無いタッチは、全く整調(機械の調整)を行っていない事が分かる。レットオフが中音部で8ミリほどドロップは、全く機能していない。ベッティングもパコパコ音がしている。「音楽教室でこんな新しいピアノでこれじゃ~可哀想だなぁ~!」と11時位から作業に入った。まずは、アクションを引き出して掃除してベッティングスクリューを合わせて打弦距離を合わせた。その状態で下調律でピッチを上げる。レットオフからドロップスクリューなど整調関係を調整して多少バラツキの有る弦合わせしてハンマーを整える。次に大まかに鍵盤ならし・あがきをみてバックチェックを合せる。そこで13時を回ったので急ぎ車に走り車内で昼食とお昼休みを20分取った。13時30分からまた作業に取り掛かり調律をして同時発音とざっと整音をして念入りにレペティションレバースプリングを調整している所に音楽専科の先生がいらっしゃった。「大丈夫ですか?こんなに時間かけて頂いて・・・」「いや、もう少しで終えます。まぁ~ビックリする位に変わりましたよ。でもまだやる事は沢山あるんですが、まだまだ良くなりますから少しづつやって行きましょう!」と言って作業を終えたのが15時40分位でした。

急ぎ体育館に行くが学校という所は、階段を上ったり下がったり廊下を延々歩いて重い鞄を持って意外に骨が折れる。早速、ピアノを触ると「おっ!ピッチは下がってないじゃん~ルンルン!」でもステックが数カ所あったので早速、修理して一連の作業工程で調律を始める。体育館は、湿度が高い上に使用頻度が少ないので意外に音は、狂わない。しかし湿気の具合で機械の動きが悪いとかハンマーがたっぷり湿気を吸って残念な音になってしまう。サクサクと作業を進めて中音部の一音に3本針を押し針で数カ所刺した。すると音にボリュームが出て太い音が含まれて遠くに音が飛んだ!「良い感じじゃ~ん!もうちょっと刺したろか!」と極寒の体育館で独り言をピアノに発して適所に数回針を刺した。「お~良いねぇ~良いじゃない~!完璧じゃ~ん~!」とピアノに語り掛けて「よしこれに合したろ~!」と凍える手で延々と楽しく整音作業を繰り返し繰り返し鼻をすすりながらやってると先程の音楽専科の先生がいらして「寒い中、ありがとうございます!もう、全然違う!凄い良い音になって嬉しいです!」と興奮気味にお話された。「こっちのピアノも相当良くなりますから楽しみにしていてください!」と言ってまた作業に没頭した。針を刺す度に開花する様に音が生き生きと蘇る様は、この上ない面白さ楽しさで、このピアノとの対話は調律師だけが経験出来る至福の時間です。ただ技術と経験が足りなくてピアノがへそを曲げて手に負えなくなった時は、地獄の時間となります。この歳になるとそうそう突飛な事も無くて調律前に比べるとボリュームも大きくなって遠くに音が飛んで行く感じで音の膨らみは肌理(きめ)が細かく尚且つ華やかで見違えるいや聞き違える感じのピアノに仕上がった。が時間は、18時30分を回っていて外は、真っ暗でことさら底冷えがした。ようやく一日の仕事が終えた。これだけの作業内容と時間を鑑みると通常では相当額の技術料を請求する事になるが、公立学校の調律代は、一般家庭の定期調律代より安価で請け負っている。それを考えると途端に足腰立たなくなって疲れがどっと押し寄せる。しかし大層に疲れはしたもののとっても楽しかったからまぁ~良いか(笑)?

学校のピアノは、とにかくひどいんだ!学校調律は、料金が安いから調律師が適当な仕事をしているからガタガタになるのは当然だ!とか学校の体質が悪いんだ!とか安いから新卒の経験の無い調律師が練習の為に出向いている。とか色んな立場の人が色んな事を責任を取らない安全な所から正論を吐くが、どれも当たらずとも遠からずと言った所でそれぞれに事情がある。学校側のピアノ調律に対する理解の問題や発注に関わる書類のやり取りなど長い年月のやり方を一変させる事は、公立学校の場合は、無理でしょう。また、安い料金に見合う仕事という事も理解できない訳ではありません。しかし弊社としては、私を探して指名してSOSの依頼をして頂いた公立学校に関しては、ボランティアだと思ってその場で出来うることを精一杯取り組む事にしています。そもそもSOS依頼は、学校側の事情では恐らくルール違反の苦肉の策であろうとお察しします。そこにも色んな事情、社会の事情が有るのですから、そこまでしてご依頼を頂いたのですからそれ相応の覚悟で仕事に取り組む事が社会人としての礼儀だと思っております。公立学校のピアノは、皆さんの税金で購入された大切なピアノです。ピアノ調律師として、いつも良い状態に保って使って頂きたいものです。料金的に全く採算が合わなくても公立学校の場合は、それで良いじゃないかな!なんてちょっと格好つけています。長年このピアノ業界で生きて来たからこそピアノの事でほんの少し社会に貢献出来た気になって調律師冥利に尽きて妙に善人になった気になっちゃう。何とも単純で愚かだなぁ~と笑えるが、それで皆丸く収まっていれば、そんなんで良いみたい(笑)!