ピアノがもたらす縁

昨年の4月は、緊急事態宣言発令。2021年、一年後も状況は収束するどころか更に悪化しているなんて誰も想像していなかっただろう。ようやく日本でもコロナウィルスのワクチン接種が始まりました。医療関係者から順次にと言えどもお医者さんや看護師さんそして高齢者と一人一人に2回の接種は、生半可な仕事量ではありません。とてもスムースに事が運ぶようには思えないが、ただただ順番の来るのを静かに待つのみです。このコロナ騒動でご自宅に居らっしゃる時間が増えてまたピアノを始められたという方が大勢いらっしゃいます。我々ピアノ関係者にとっては、とってもうれしい事です。今回はコロナ禍の中、新規のお客様との出会いとそのやり取りを書き記したいと思います。

弊社のホームページを見てメールでお問い合わせを頂きました。数年前に他所で中古ピアノを購入されてその時に消音システムを取り付けて購入したとの事。何度か調律の度に不具合の修理をして貰ったが同じ症状がまた出るので調律もお願いしなくなって数年が経ってしまったとの事。ちょっと遠いけれどいらして頂けますか?とSOSの様なメールでした。直ぐにお電話差し上げて様子をお聞きするとピアノは、EARLWINDSOR W115Nで色々と不具合トラブルを抱えているが大方の事は、想像がつきましたので問題なく修理が出来るなと思いお伺いする事にしました。一つ問題だったのが、消音ピアノユニットが付けてあるのですがその機種は、弊社では扱った事の無い無名の機種でした。予めその機種の取り付け並びに調整方法を仲間に聞たりして取り付け解説書から取説まで取り寄せて準備万端でお伺いしました。早速ピアノを見てみるとピッチは30centほど下がっている。弾くと何やらカチカチと数カ所雑音がする。タッチは、バラバラであがきが浅い。消音にするとダンパーペダルが全く効かない。WINDSORのペダル機構は、全て木製にしてある。使用頻度の高い場合は、必ず軸がずれる。解決方法は、適正位置を割り出しペダルの台座の位置を調整するかズレない軸に交換するかなどなどピアノ個体差を見極めて色んな対処法がある。しかしこの作業は、面倒なので大方の調律師さんは、やりたがらない。その結果、ペダルを踏むと異音がする、ペダルが機能しなくなる、弾く気がしなくなる。この様なピアノのトラブルは、こうすれば直ると言った解決方法でくくれないケースバイケース。僕も未だに一番苦労するトラブルで非常にデリケートなのです。調律師は、その分真摯に向き合って解決の努力をして解決に導かなければなりません。そもそも、このピアノを中古ピアノとして販売するに当たって鍵盤調整が全くされてなく、あがきは8.5mm場所によっては8mm。消音ユニットの消音バーは、正確に取り付けられていないのでレットオフも20mmと何だか出血大サービス状態。当然ペダルの不具合は見過ごす事になっている。

作業は、ピアノの様子を見る為にざっとピッチ上げ調律をしながら不良部分にマークを入れて行く。アクションの接着は、膠が使われているがハンマーの膠切れでの異音は、かなりの数があって全て接着しなおす。ペダルも消音ユニットのセンサーの確認から修理をして鍵盤調整に消音バーの取り付け位置の修正とやる事まんさいの作業でしたが最終的にお客様に満足頂いて丸く収まった。元来、通常より弦が細く張力が低い設計でボリュームこそ大きくない(といっても十分に大きい音ですが)が中々深みのある華やかな良い音色。調整さえちゃんとできれば弾き心地が良く気持ちの良い音を奏でる。ただ張力が低く弦が細いので調律は、かなり神経を使う事になる。特にこの一番大きいピアノは、調律の精度が如実に表れる。その分完成度の高い作業を施すと何時までもずっと弾いて居たくなる良いピアノ。我ながら良い仕事をしたなぁ~と自己満足!いやいやお客様も大層に喜んで頂いたぞ~(笑)!

4月のある日、初めてのお客様より電話が入る「ピアノを試弾させて頂けますか?」とお若い女性の声で私はちょっと戸惑いながら「はい、グランドピアノですか?アップライトピアノですか?」と聞くと「アップライトピアノです。明日は、如何でしょか?」と言われるので「明日は、別件の仕事が入っておりまして○○日では、如何でしょうか?」と伝えると快く承諾して頂いた。しかしお話の内容は、その方が使うのではなくて姪が使うピアノで設置は、どうのこうのとちょっと話が良く見通せなかった事とお住まいがちょっと遠い事。そして誰の紹介でもなかったので正直半信半疑と言うか本当に来るのかなぁ~とちょっと思った。しかしあんなに可愛らしく綺麗な声だしなぁ~と訳の分からない事を思いながらちゃんと準備はしておこうと準備に取り掛かった。約束の時間が近づいてきて本当に来るかなぁ~?と思ったら時間ピッタリにいらっしゃった。「初めまして梅根でございます。」挨拶すると「はじめまして○○です。本日は、お忙しい所ありがとうございます。」と「お一人ですか?」と聞くと「はい、私一人です。」とマスクをしている物の明らかに美しく若い女性が一人で運転していらっしゃった。早速案内すると弊社の汚い倉庫が一気に華やいだ!詳しくお話を聞かせて頂くと姉の娘が義兄の実家に帰った折に弾く為のピアノを選びにお姉さんから一任されている。当然、姉の自宅にもピアノがある。私は、「どちらの家にもピアノが有るのなら馴染みの調律師に相談したらいかがですか?」と聞くと「相談はしたんですがあまり良い物が無くて・・・」つまるところお姉さんの旦那さんの実家にピアノを買うので妹が一任されてピアノを探しているという事です。早速、在庫のピアノをお見せして弾いて頂くとある一台の前で「どれも綺麗に整備された沢山のピアノでこのピアノがとても気に入りました。」と仰って色んな曲を弾き始めた。さすがにお姉さんに一任されているだけあってとても情緒豊かに上手に演奏されている。その様子から本当にピアノが好きなんだなぁ~!と見て取れる。「写真と動画・・いや演奏を録音して良いですか?」「もちろんご自由にしてください」と少し離れてると携帯で一曲延々と録画をして写真を撮ってお姉さんに送信している。折角だからと弊社が在庫しているグランドピアノを弾いて貰ったりピアノの表や裏や材質並びに構造の話を現物を前にするととても興味深く聞いて頂いて2時間近くいらっしゃってお帰りになられた。早速、その夜にメールであのピアノに決まりましたと連絡を頂いた。それから再度出荷の前にピアノをもっと良くしてあげようと再度調整を繰り返して昨日お届けした。初めてお会いするお姉さんが「妹にピアノ選びを頼んだら色んな所を6社位見て弾いて回って気にった物が無くて最後に鎌倉ピアノ芸術社さんに行って良いピアノが見つかった!てそこで色んなピアノに触れてお話が聞けてとっても楽しかったと言ってました。」なんとも嬉しいお話です。最初は、冷やかしかなぁ~なんて思ったのに(笑)。6社も回って弊社で即日決めて頂けたなんて、そして僕が念入りに調整したピアノを良い音だと気に入って頂いた事は、この仕事をしていてこの上ない喜びです。弊社のホームページを見つけて頂いて訪ねて来られてこれも何かのご縁なのでしょう。決して若くて美人でピアノが上手だからじゃなくて(笑)なにしろ今は、マスクしているから顔の半分は隠れているし・・と言い訳をしながらこのコロナ禍の中で新しいお客様とのご縁を素直に喜んだ!