2020東京オリンピック?2021東京オリンピックじゃないんだ!なんて今更のんきな事を言ってる間にもう閉会してしまった。賛否両論あったこの世界大会も連日のメダルラッシュに夢中になって興奮して感動した。やはり一流の真剣勝負は、正に見ごたえ十分でした。参加アスリートとその関係者に心から感謝申し上げたい。さて今回は、先日久々にびっくりさせられてちょっと複雑な心境にさせられたピアノの事について近況を交えて書き記したいと思います。
ビックリさせられたと書いたが、もうこの歳になるとかなり鈍感になってビックリする事なんてそうそう無くなる。したがって久々にビックリと言うのは、思っていたはるか上の出来栄えの現実を突きつけられて愕然とさせられた。と言うのが正しい。初めてのお客様から電話が入る「ピアノの調律をお願いしたいんですけど」とお若い感じの女性で他県から移転してこられてまだ購入して2年程のピアノという事でした。「メーカーはどちらのピアノですか?」と聞くと「○○○?かしら?ヤマハとかカワイじゃないので鎌倉の塩害と湿度の多い環境でもピアノが大丈夫なのか置いてある状態も含めて見て頂きたいんですけど」とちょっと聞いた事のある様な無いような?結局どの様なピアノか素性が分からないままにちょっとワクワクしながらお伺いした。ピアノのある部屋に通されると何とも綺麗な立派な家具調ピアノが部屋のインテリアに良くマッチしていて何ともオシャレ。早速、鍵盤蓋を開けてみると○○○如何にもよくありがちだけど知らないブランドでした。弾いてみると音は多少狂っているけれど何か問題がある様子も無く良く鳴る明るい音のするピアノ。私は、「じゃ~調律を始めますね!」と言って何時もの様に上前パネルを外そうとするが???えっこれどうやって外すんだろう???ありとあらゆるピアノパネルの留め具を知っているつもりだったが初めてのタイプに戸惑った。たかだか留め具なので大した事は無いが慎重に懐中電灯で照らして眺めてしばしの時間が流れて恐る恐る試しに丸いボタンに触れるとカシャッと音がして留め具が外れた。「お~凄い!」思わず声が漏れた。がっちりとパネルがとまる様になっている。面白い!弱音装置も我々がよく知る構造とは違って斬新な構造で大いに理にかなっている様に思えた。面白い!内部に関してはとても綺麗に丁寧に作られていて木部の面取りから部品の間隔も綺麗に並んで質の高い新品のピアノといった感じ。これは、凄い!我々は、一応プロのピアノ調律師なので、ピアノをちらっと見て触っただけでそのピアノの素性が分かる(笑)。正に中国製のピアノでした。調律では、ピン味(チューニングピンを回す感触)は、全く問題のない良い感じのレベル。音に関しては、これも背の低いコンソールピアノですから日本の大手メーカーの製品と比べても遜色無し。内部に関しては、日本に輸入されて日本の業者がちゃんと手を入れている。棚やパネルが反らない様に新たに補強がされていたり、アクション整調・鍵盤調整も十分な仕上がりでハンマーを見るとかなり整音が繰り返されている事が見て取れる。何より外装・内部と申し分なく綺麗だ。何にも問題なく普通に調律を終えてお客様に詳しくお話を聞いた。地方のやや大きめのピアノ屋さんで私も良く知っている悪い噂の無い健全な販売店で購入されている。その時に「お店の方に中国製ですがメーカーにこだわらなければお勧めです。」と言われて購入したそうです。お客様は、「娘が使うピアノで何時まで続けるのか分かりませんが出来れば新品をと思って購入しました。このピアノどうなんでしょうか?」と聞かれたので私は、「全く問題なく良いピアノです。」と伝えると嬉しそうにニッコリ微笑まれた。「正直な所、私がビックリしています。輸入して日本で最終的に調整をしていると思うのですが、中国の生産技術がここまで進化したんだとちょっとショックを受けました。日本メーカーの同じ様な家具調インテリアピアノは、100万円位しますからその半分以下の値段でこのクオリティとなると、家具調ピアノでは、もう十分過ぎます。申し分ないと思いました。あまりにピアノがちゃんとしていたのでショックを受けちゃいました(笑)。」お客様とニッコリ笑いあって「安心しました、これからもよろしくお願いします(笑)。」と言って頂き気持ちよく仕事を終えてお客様宅を後にした。
中国は、近年世界一のピアノ生産国。その関係会社も300社とも400社位とも言われている。世界中の名立たるピアノメーカーが今では中国でピアノを生産している。以前弊社ホームページに「粗悪なピアノと秀逸なピアノ」という記事で中国製のピアノの事を記事にしました。あのピアノは、20数年前に生産された中国製のピアノ。思い起こせば、日本市場に輸入されて浜松のピアノメーカーが最終調整をして量販店で販売していた。同時に中国製グランドピアノも随分クレーム処理の調律や修理を依頼されたが、根本的な品質の悪さと作りの悪さにお客様を満足させるには程遠いレベルであった。しかしあのスタインウェイ社の第3ブランドであるエセックスは、中国のパールリバー社生産で発売が開始されて日本で販売が始まって14~5年は経つと思う。その間の技術指導から品質管理に至るまでこの20年余りの技術の躍進は、私の想像を遥かに超えていました。世界一のピアノ生産国ですからもう既に侮れない。日本では、マスコミなどで中国の事は、あまり良い報道や情報が流されていないのでついつい上から目線で中国を見てしまうが楽器ショウなどの中国製ピアノの斬新な(ちょっと常識を逸脱した)商品に驚きは、あるもののその発想力と新しい思考は日本には全く見られない新しい息吹を感じる。ピアノ調律師が使う専門工具や治具においても同じような事が言える。高価だがヨーロッパ製は、説明書が無くても直感的に使える物が多くしかも丈夫で長持ちする。中国の商品は、安価でヨーロッパ製そっくりなコピー商品が沢山出回っているが、中には何の為にどうやって使うんだろう?と言った一見意味不明な工具が思いもよらぬ荒業で一気に作業効率を上げる便利工具・便利治具だったりする。目から鱗のアイディアです。日本に置いて楽器業界は正に斜陽産業、しかし中国に置いての楽器業界は、成長産業。中国製ピアノの品質に驚きを感じてその成長に危機感を覚えると共に自由な発想のみなぎる熱いエネルギーに脅威とも嫉妬とも何とも言えぬ複雑な心境にさせられた暑い夏の出来事だった。