日本が誇った高品質なピアノ。

2022年9月に入った途端に最高気温も下がり過ごしやすくなって来たが6月7月8月の35℃36℃などの異常な暑さの後では、31℃は、過ごしやすい。人間の経験値とは凄いものだなぁ~なんて変な感心を抱いていると台風シーズン。これは、何度も経験して詰まる所、人間は無力だと思いしらされた経験値なんでしょう。昨日から沖縄九州に猛烈な威力の台風が上陸してこれから日本全土を横断するらしい。今日は、大人しく息をひそめて自宅でパソコンに向かっている。今回は、そんな9月の様子を記事にしたいと思います。

3年余り我慢に我慢を強いられていた音楽家の方々がようやく大手を振って活動を始められた。ピアノ講師の先生も遠慮なくコンクールに発表会にと前向きな話が飛び交う。弊社もコンサートにレコーディングに発表会とどんどん予定が埋まっていく。コロナ前と同じとは言えないまでも皆無だった時期を経験するともう大繁盛の様な錯覚に陥る(笑)。これは私の愚かな経験値たる物なのでしょう。しかし、それが錯覚であったとしてもとっても気分が良い(笑)。もうそんなちょっと浮かれた日々を過ごして居るとまた新たな仕事も舞い込んで来たりしてちょっと楽しい。そんな調子に乗っている所に電話が入って「調律をお願いしたいのですが?」「はい!お伺いしますよ。」すると「かなり古いピアノで他所で見積もりをして貰ったら40万掛かると言われたんです。」「ピアノのメーカは、何でしょうか?」と聞くと「即答でYAMAHAです。ただアメリカで購入した物なんです。」「それは、背の高さが低い118cm位の木目のピアノでしょうか?」と聞くと「そんな感じです。」過去に何台も輸出用のYAMAHAを調律した事があるので大して問題は無いだろうと想像したが他社で40万円の見積もり???何だかその中途半端な金額に違和感を抱きながら「とりあえずお伺いしてピアノを見てみましょう。それから考えましょう!」と言って後日お伺いした。

立派なお宅の奥の方の部屋に鎮座しているピアノは、シンプルでとっても素敵なデザインのYAMAHAでした。お客様がアメリカ転勤の時に中古で購入したピアノで年式とか全く記録が残っていないが中の使用部品を見るとそんなに古い物ではありませんでした。と言っても30数年、いや40年近い位前のピアノだと思われるが湿度の関係でアクション(機械)の動きが悪く鍵盤が下がったままの所が沢山ある。音は、半音の半分位、物凄くピッチが下がっているので弾ける状態ではありませんでした。しかし40万の見積もりをひねり出す要因が何一つ見当たらないのでお客様に「そんなにお金を掛けなくても大丈夫ですよ。3万円に消費税、33.000円で今日、とりあえず弾ける状態に出来ます。3~4時間位、お時間掛かりますが・・・お時間は、大丈夫ですか?」と告げると「お願いします。」と即答して頂いて集中して作業に没頭した。コンソールピアノ(背丈の低い,弦長の短い)ですが、そこはさすがYAMAHA、アクション(機械部)の精度は抜群に高く耐久性も抜群修理や整調(調整)もすんなり進む。ピッチ上げの調律も何ら問題なくあっという間にピアノが仕上がった。まぁ~鍵盤調整とかハンマーファイリングや整音などなど、やる所は沢山あるが、まぁ~それは追々お客様のご要望に応じてでとりあえず、きれいな音で普通に弾ける状態になってお客様も大層に喜んで頂いた。やっぱり昔のYAMAHAは、良いなぁ~いい仕事してるなぁ~と改めて日本製品の質の高さに舌を巻いた。

9月の初めにピアノ修理でハンマー交換という作業があるがその真新しいハンマーに適切な角度の穴をあける。私は、この穴あけ作業が特に好きで電動工具と戯れながら道具を使いこなして完璧に綺麗に仕上がった真新しいハンマーの並んだ姿が何とも言えずに好きなのにそんな時に限って携帯電話が鳴る。何時もの友人からなのでちょっと忙しそうに不機嫌に出ると「おっ、今忙しいんだ!でもちょっと良い?今、友達んちに来てるんだけどボロボロのピアノがあって調律やって無いって言うからやってあげてよ!直るでしょ?」と言うので「ボロボロのピアノじゃ~やだよ!あんたが見てボロボロと思うんだったら完全にボロボロだろ。」「友達に凄い調律師が居るからそいつなら何でも直るって言っちゃったよ~(笑)!」「何のピアノなの?」「奥さん曰く、有名なピアノ製作者のピアノとか言ってるよ・・・おっカタカナでディアパソンて書いてある」「カタカナ?」そんなこんなのやり取りで友人のそのまた友人宅にその友人と共に伺った。見ると本当にボロボロのキークロスにカタカナでデイアパソンと書いてある。日本のピアノ史に名工として名高い大橋幡岩氏設計のピアノです。古くてボロボロでアクション修理をしているとピアノの中からボロボロに錆び付いた調律工具のクロスリーマーが出て来た。昔、調律師が作業した時に工具をピアノの中に忘れて行った様です。また、切断したセンターピンのカスが沢山あった。その数からして相当悪戦苦闘したんだなと想像できた。残された工具を手に取りどんな人が持って居たんだろうと想像しながら悪戦苦闘してようやく調律修理を終えた。本来ならばオーバーホールしなきゃならないピアノでしたが案外深い音を奏でてとっても趣のあるピアノだった。さすが大橋幡岩さんのピアノ、毎年ちゃんと調律してたら物凄く良いピアノだったのになぁ~!残念(笑)。それから数日後に初めてのお客様から調律の依頼があった。今まで来て頂いてた調律師が廃業されたとの事で私に依頼があった。お伺いして見るとOHHASHIピアノだった。何でも大橋幡岩さんのご親戚の方だそうで毎年調律された大橋ピアノ。贅を尽くした作りのピアノでとても良い音を奏でてる。何でも昔の物が良いとは言わないが名器と言われるものにはそれなりの理由がある。高品質な材料をふんだんに使い手間を惜しまずに丁寧なつくり。職人の誇りが詰め込まれたピアノは、芸術品です。ちゃんとした調律師が手を入れていただけあって何ら問題なく伸びやかな良い音がする。大橋ピアノは、生産台数が4500~4600台位だったと思うが現存しているピアノが何台あるのかは、分からない。元々の台数が少ない希少なピアノだからこそ、このピアノをきっちりと管理してまた後世に残す様にとピアノが私に訴えかけている様でもある。残りの調律師人生は、質の高い仕事を追求しながら楽しく沢山稼がなきゃ!なんて、年取ってちょっと欲張りかな(笑)。