2024年9月7日土曜日にDiscover QUEEN in覚園寺が開催された。天気に恵まれチケット完売の満席。日本各地からお集まり頂いた大勢のお客様に最高のパフォーマンスをお届けした素晴らしいコンサートでした。今回の記事は、この特別なコンサートの調律を担当するに当たり弊社で色々と試行錯誤しながら準備した様子からコンサートの裏の様子などを2回に分けて記事にしたいと思います。
随分前の事ですがDiscover QUEENの西脇辰弥氏が事務所社長と共に弊社にいらして「フレディの誕生日にフレディ・マーキュリーとピアノというちょっとマニアックなイベントを開催したいのですが、梅根さんに是非協力して頂けないかと思いまして?」と打診を受けた。あの著名な西脇辰弥氏がわざわざ私に声を掛けてくださるだけでも大変光栄な事なのにと思い嬉しくて大して深く考えもせずに二つ返事で引き受けた。その時に「キラークイーンという曲で使用されているピアノは、プリベアードピアノもしくはタックピアノを使用したとされているんですが、どう思います?」と聞かれたのでその場ですぐにステレオでキラークイーンを掛けて聴いてみた。出だしの音からチェンバロとピアノの音が混じった様な音で和音を刻んでいる。50年前の曲ですから久しぶりに聴きました。私は、「確かに確かに!」とうなづきましたが私の経験からして「これはタックピアノじゃないと思いますけどなぁ~??」と最後の語尾に力なく微妙な返答をしたが私なりの根拠があって50年前の楽器や録音機材を想定しても他の方法だと私は思った。そんなやり取りから月日が経っていよいよ今回の日程が決まった。再び西脇辰弥氏が弊社を訪れた様子は、前々回の記事にアップしている。
40年前に先輩調律師3名と共にタックピアノを製作した事を克明に記憶している。先輩調律師がチェンバロピアノ(タックピアノ)の部品をヨーロッパで購入して来たので作ろう作ろうと盛り上がったのでした。流石に販売しているピアノを改造する訳には行かないので倉庫で廃棄処分するMATSUMOTOピアノに装備する事にして4人掛かりであっという間に完成した。さぁ~いざ弾いてみるとチャリーンとしたチェンバロの様な音がしてとっても面白かったのですが連打が難しい、弾き方によっては2度打ちしたり2度目・3度目の音が出なかったりまた、連打の時に音粒がそろわない。4人で知恵を絞って調整調整を繰り返すが問題が改善に至る事は無かった。まぁ~チェンバロだからやたらと早い3連符の和音なんて無いしチェンバロと違って若干強弱が表現できるなんて慰めを言い合いながら「なんちゃってチェンバロピアノ」を代わるがわるバッハなどを弾いて先輩達はそれなりに満足をした様子だった。私も弾いてみて正直「楽器としては、とても使えないな!」と口にすると先輩に「まぁまぁ~おもちゃみたいな物なんだから真剣に評価するな!」とやんわりとガツンと叱られて先輩に対してその言動を大いに恥じた事を強く記憶している。その使えないと判断したタックピアノをあのクイーンがレコーディングで使用したのか?楽器としてとても使えないと評した代物を。まずはそこが引っ掛かった。もしそのレコーディング調律師が僕だったらと考えてキラークイーンの音合わせで演奏した時にピアノの音がブライアンのギターの音に被っちゃうね!フレディの音域に被っちゃうね!これチェンバロが良いんじゃない?とかピアノにチェンバロを上から被せる?とか色んな案が出たんだろうなと思う。そこでフレディがタックピアノ試してみたいから持ってきてよ!てな感じになったんじゃないかなと勝手に想像した。その時に担当調律師が私なら「はい!良いですよ。直ぐに用意します。でもちょっと高いですよ~!」なんて言いながらもメンバーの納得の行く方法を3つ位模索して用意すると思う。①物凄く念入りに調整をしたタックピアノを用意する②小型のアップライトピアノのハンマーをニューヨークスタンウェイ方式でハンマーをガチガチに固めて甲高い音にした後コンプレッサーで叩いて録音してノーマライズした後にイコライザーやフェイザーなどで最終的に音色を決める③中高音の一音3本の所を2本しか弾かない様に弦合わせをして端の部分だけに直に鋲を打つ。等の方法をレコーディングの為に準備する。僕ならそうするかな?と想像した。しかし想像を繰り返すだけではと思い8月の暑い暑いお盆休みに意を決してタックピアノを作ってみる事にした。
40年前と違ってタックピアノの部品が何処をどう探しても無いので代用品を吟味したり40年前の失敗を繰り返さない様に色々とテストを重ねてお盆休みなのにAmazonに発注して当日・翌日に部材全てを取り揃える事が出来た。さすがAmazon凄すぎる!てな具合で弊社の商品に改造して取り付けてみた。いざ弾いてみると「お~良いじゃん良いじゃん~!これ使えるな!」40年前と違ってYAMAHAのピアノに取り付けたという事が大きく精度の高いピアノに正確な取り付けと調整を繰り返してキラークイーンの音と演奏を見事に再現する事が出来た。意気揚々と西脇辰弥氏に連絡を入れると直ぐに弾きにいらした。「お~これですよ!フレディのジャングルピアノですよ!」と言って完成を喜んでしばらく弾いて動画を撮って当日のコンサートで上映する事になった。実際にジャングルピアノ(タックピアノ)を作ってみて新発見や製作のコツも分ったし何よりとっても面白かった(笑)!西脇辰弥氏にもお墨付きを頂いてキラークイーンはタックピアノを使用した事がここに証明出来た訳です。もう一台作ったら更に完璧なフレディもビックリのジャングルピアノが出来るだろう。このデジタルの時代に今更タックピアノを真剣に作るなんて世界広しと言えども僕だけかな?と何だか不思議と充実感と笑いが込み上げた。次回VOL.2は、コンサート前日のピアノの調律・整音と西脇氏とのやりとり。そして感動の本番の様子を近日中に記事にします。お楽しみに!