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ピアノ貸しましょうか?え~買い替えます?

今年もあっという間に過ぎ去り残すところあと一日。今年最後の仕事もようやく終えて残すは、掃除とここに記事をアップする事です。本年もこのつたないホームページの記事を読んで頂きまして誠にありがとうございました。また、弊社ホームページをご縁に新しいつながりが出来ましたお客様、そして古くから弊社を御ひいきにしてくださるお客様にこの場をお借りして心より御礼申し上げます。

毎年ピアノ調律師は、12月のコンサート。ピアノ発表会、クリスマスイベントとありがたい事に目の回る忙しさ。そんな中にちょっと珍しい出来事がありましたのでここに書き記したいと思います。

古くからのお付き合いのピアノの先生より12月の初めの頃、夜8時位に携帯が鳴る。「レッスン中に生徒が突然鍵盤にモドシ(吐いた)ちゃったんです。大丈夫でしょうか?」僕は、「先生グランドですか?アップライトですか?」と聞くと「アップライトの方です。」「鍵盤のどの辺ですか?」すると「ちょうど真ん中あたりで鍵盤が上がってこない所がいくつもあるんです。どうしましょう?」僕は、ちょうど打ち合わせ中で東京に居たので「とりあえず鍵盤を拭いてください。明日、朝一番でお伺いしますので」と言って電話を切った。今年は、ノロウィルスが猛威を振るっているので手袋・マスク・除菌剤・キッチンペーパーを大量に用意して翌日の早朝にお伺いした。早速ピアノを見てみると既に綺麗に拭き取られていて一見問題無さそうだが鍵盤は水分を含んでパンパンに膨れて中音部は押しても下がらない状態。取敢えず作業に入り鍵盤を外すと鍵盤下の棚に粘着性の嘔吐物が大量に溜まっていて僕の想像を遥かに超えていた。いったいどんだけの量を吐いたんだろう?綺麗に拭き取っていくと中音部鍵盤のフロントブッシングクロスが全て剥がれてしまっている。一夜でこうなっちゃうのか・・・子供と言えども人間の体液て凄いなぁ~ちょっと呆然としながら作業を進めるが、強烈な独特の匂いは取れそうにない。すると、「先生が来週末にここでクリスマス会を開くんですけどノロウィルスだったら他の生徒にうつってしまうでしょ?困ったわ~どうしましょう!」僕は「じゃ~防音室のグランドをここに運んでアップライトは、引き取って修理しましょうか?」というと「ここにあのグランド入れるとこのリビングに生徒が入りきれないわ」「じゃ~このピアノを引き取って代わりに修理が終えるまでピアノをお貸しますよ」と伝えると「じゃ~その方向でお願いします」と先生の家を後にした。先生宅は、防音レッスン室にYAMAHA C5LAとリビングに先生が子供の頃に使っていた49年前のYAMAHA U3Eのアップライトそして実家に学生時代に使用していたYAMAHA  G3と3台ピアノをお持ちになられて全てのピアノの調律保守点検を僕が任されている。その日の夜に先生から連絡が「色々考えたんですけど、あのピアノも古いのでこの際だから買い替える事にしたわ!中古で良いピアノで予算は〇〇万円迄でどうにかなりませんか?」僕は「大丈夫ですよ。それだけの予算を組んで頂けたら何でもありますよ。でも一度弾きに来た方が良いですよ!」と伝えると「クリスマス会に間に合いますか?梅根さんの都合さえ良ければ今からでも・・・」僕は「それでは、今からお迎えに行きます」と言ってその日に弊社の倉庫にご夫婦をお連れした。何台ものピアノをざっと触ってた後に僕が手塩に掛けて大事に再生した誰が見て触っても新品にしか見えないYAMAHA UX50を触るとそこから離れない。予算が大きく上回って困り果ててしまったがご主人様が一緒だと何かと話が早い。事情が事情ですしどうにか両者歩み寄りという事で円満に問題解決で無事クリスマス会に間に合った。この件を色んな調律師に聞いてみると一人先輩調律師にグランドピアノに生徒が吐いた経験があったと聞いた。とっさに横を向いてごくごく少量が最高音部に飛び散った程度で簡単に拭き取れたとの事で問題は無かった。ましては、その頃はノロウィルスと云う言葉も知らないと言った具合です。その他は、全員経験無。僕の調律師人生でも初めての事でした。長年この仕事をしていると大抵の事は経験しているつもりでしたが、このノロウィルス騒動に後押しされて高価な僕の一番のお気に入りピアノが売れた訳ですから何が転んで儲かるのか分かりません。もしグランドピアノだったら・・・いやいやグランドピアノじゃ無くて良かったと胸を撫でおろす慌ただしさでした。

 

そんな中、11月・12月とピアノ発表会が目白押しですが弊社もピアノ発表会を開催した。一年間の成長をご父母の皆さんに見て聞いて頂いて写真やビデオを撮って良い思い出にして頂く一大イベントという訳です。少子化の影響で何処の教室でも生徒が減少しているので生徒の出番が複数回になり色々と志向を凝らす事で盛り上げる訳ですが、その分、当日のリハーサルも入念になります。朝9時に調律師は会場入りして調律を始める訳ですが冬は、気温が下がっていてピアノも会場も冷えているので本番用のライトでピアノを照らして暖房を入れて温まるまでしばし待つ事になる。リハーサルが終えて本番前にもう一度温度上がった事による音の狂いを修正して本番に。これってプロのピアニスト相手のコンサートと同じ待遇です(笑)。上手く弾けます様にとドキドキしながら舞台袖で見守っていると色んな所に力が入って妙に疲れますが、最後の写真撮影の時のご家族の満足そうな顔を拝見すると今年も開いて良かったなぁ~と達成感。11月12月と何度となく発表会の調律をしましたが、発表会と言えども子供達の成長を披露する重要な一大イベントです。どの発表会もちゃんと調律をして良い状態のピアノで弾かせてあげたいものですね!

ピアノ販売で感じる時代の流れ。

ここ十数年でピアノ販売価格は、大きく変わってきました。新品の定価は、年々上がって来てそれにつれて中古ピアノの値段も上がる。しかし理由は、それだけではありません。今回は、ピアノの値段について書き記したいと思います。

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ピアノの先生から電話で「中古のピアノを探している生徒がいるんですけど何か良い物あります?」とご紹介の電話が入る。「良い物だけ沢山ありますよ(笑)!ご予算て聞いています?」すると「30万円位でどうにかならないでしょうか?いやね~最初は、デジタルピアノを買うって言うもんですから本物のピアノじゃなきゃだめよ!て薦めたの・・・大丈夫かしら?」「いや~大丈夫じゃないですね~(笑)。ご承知の通り昔と違って今は、中古と言えども高いんですよ・・もうちょっと予算を組んで頂けると助かるんですけどね~?」とお答えすると「連絡先をお伝えするから直接お話して頂ける?」その後、色んな雑談をした後に「用意が出来たら私も一緒にピアノを見に行きますわ。いつも丸投げでごめんなさいね~宜しくお願いします(笑)。」と言って電話を切られた。

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昔だったら中古ピアノ30万円と言えば比較的高年式のピアノが買えましたが、今では、ちょっとそういう訳には行かなくなりました。まず昔に比べると新品ピアノの年間販売台数が大きく落ち込み、年間国内生産台数は、最盛期の十分の一位になっている事でメーカも販売価格を上げる。もちろんメーカーもただ値段を釣り上げたのではなくコストカットを繰り返し努力を積み重ねての事ですので苦肉の策であります。その代わりデジタルピアノ販売は、好調で電化製品ですので大量生産で安いものは、10万円以下そして20万円代~高級木製鍵盤使用などの30万円以上の物と大きく3グループに分かれる。メーカーも生産拠点を海外に移したり利益の上がる商品を大量に生産する為に色々と苦労がある事でしょう。しかし以前の記事で「ピアノは、ズワイ蟹よ」でご紹介した通りデジタルはしょせんデジタルで本物のピアノと比べると音・音色・タッチどれをとってもまるで別物です。弊社もこの業界人ですので詳しい内情については色んな所に差し障りが生じて来る為にさすがに露骨にホームページに書き込む事は、出来ません。詳しく知りたい方は、弊社でピアノを購入するかピアノ調律をお申込み頂いて調律にお伺いした折に楽器業界の裏話をする事にしましょう(笑)!

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ピアノの先生からご紹介頂いたお客様にお電話差し上げて予算的なお話をして少し予算が上がりました。と言うのも昔と違って今は、8%の消費税が掛かります。何十万の8%と言えば消費税だけでも万単位。それにピアノ専門の運送屋さんも随分淘汰されて規模の縮小を強いられて搬入金額も上がりました。それに加えてテレビCMで聞き及びのある「ピアノ売ってちょうだい」と眠っているピアノを買い取りますの宣伝で使ってないピアノを大量に買い取ってそのまま輸出をする業者が増えました。お客様も賢くなって当然買取金額の一番高い所に売る訳ですから当然そこに競争が生まれて中古ピアノの価格の高騰が起こる訳です。加えて近年では、中国資本の業者が巨大資本で高値でピアノを買い漁っていく。すなわち中古ピアノの販売価格も当然上がってしまう訳です。そして、だんだん日本国内に良いピアノが無くなっていく。ピアノ技術者にとっては、心の痛む事態です。

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お客様の希望に合うピアノを数台見つけて塗装から内部の修理・調整を終えて弊社のセレクションルームに入庫しました。ここで最終調整を数日間かけて完成させますが、これはピアノ調律師にとって最も楽しい時間で調律・調整を繰り返す度に際立って音が良くなる。お客様と先生に弾いて頂いてあまりの音の良さにビックリして買わずにいられなくしてやろうと色んな細かい調整を積み重ねる。今回は、黒のピアノ2台とマホガニー(赤)のピアノを用意する事にした。色付きのピアノは、ご家庭のインテリアによくマッチするが黒に比べると数が少ない上に値段が高い。昔は、マンションなんかもカーペットの時代でしたのでマホガニー(赤)のピアノが売れたものですが今は、皆さんハウスダストの問題からフローリングの時代なので圧倒的に茶色のピアノを所望される。しかし意外や意外中古ピアノのマホガニーは、一目見ると皆さん素敵と言って直ぐに売れてしまう。かえって珍しいのか不思議でならないが茶色のフローリングにマホガニー色の重厚なピアノは、格別に高級に見える事は間違いないようです。やはりピアノの持つ存在感が際立つのでしょう。今回もきらびやかさの中にふくよかさを持たせた音にに仕上げたマホガニー色のピアノを気に入って頂いた。デジタルピアノ全盛の時代に我々ピアノ調律師は、どのピアノにも真摯に向き合い最高の技術を投入してそのピアノを何時だれが触っても「本物のピアノって違うわね~!」と言って頂ける位に良い音とタッチに仕上げなければなりません。「うちの子にも本物のピアノ買ってあげなきゃ!」なんて上手い事になるように希望を持って楽しく技術の向上に努めなければなりません。しかし、そんな声よりも「もっと安くしてよ~」なんて声に悩まされるんだろうなぁ~。