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第35回遠藤郁子ピアノリサイタル

平成28年6月3日金曜日に鎌倉の清泉小学校で「第35回遠藤郁子ピアノリサイタル」が開かれた。例年通り3日に渡りグランドピアノの調整をして本番を迎える訳ですが、過去2回に渡りその様子を記事にしておりますので今回は、別の切り口でお伝えできればと思いここに書き記したいと思います。

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清泉小学校でのコンサートのお手伝いをする様になって早12年。遠藤郁子さんの専属調律師五家和夫さん(河合楽器の看板調律師)との縁です。その縁とは弊社は、河合楽器製作所と正式の販売契約をしているもののSigeruKawaiの調律・管理をする為には、河合楽器のSigeruKawaiメンテナンスの資格を取得する必要があった。SigeruKawaiに関しては、資格が無いと調律が出来ません。つまり河合楽器もそれだけ神経を使って製作・販売をしてご購入されたお客様のピアノが何時までも良いコンディションを保って行ける様に社運を掛けて製作・販売に取り組んでいる国産最高品質のグランドピアノなのです。その時の研修・試験官が五家和夫さんでその時に初めてお目にかかりました。河合楽器の社員でも何でも無い者がカワイ竜洋工場のお休みの日に工場内の作業施設で一人一台のピアノを宛がわれて一から全ての工程の作業の手解きを受ける。そして最後は、調律までチェックが入る。とても楽しいひと時だったことを記憶している。内容は、専門的過ぎる事と守秘義務もあるので詳しく書く事は出来ませんが、ビックリした事もあってピアノ内部の機械の名称がヤマハとカワイでは、違う物があった。最初に五家さんが「すべり金具を上げて」と言った時に僕は、すべり金具・・・何だそれ?その時に日本各地から5人が受講していたが、誰一人質問する人が居ない。え~みんな知っているのかなぁ~しょうがなく「すみません、すべり金具て何ですか?」と思い切って質問すると五家さんが「え~と、すべり金具は他所では、そうそうベッティングスクリューでしたね」と教えてくれた。後で残りの4人に聞いてみたら全員河合楽器出身者だった。そんなスタートで充実した内容とカワイ流の調整の方法を学ぶことが出来た。最終日は、工場内の整調BOXで各自のピアノを調整している所に入れ替わりに3人の講師が訪問してピアノをチェックして指導して行く。その一人の講師が入って来るや否や「梅根さんてお父さんも調律師なんですか?」と聞くので「えっ違いますよ。父は早くに亡くなってますから」と告げると「いや~きのう帰ったら家の家内が鎌倉の梅根さん知ってるって言うんですよね。旧姓〇〇て言うんですけど、何度も電話でお話した事があるって言うもんですから?」僕は、「それ僕ですよ、僕の事です。〇〇さん、知っていますよ。上司の玉村氏が男性社員より仕事の出来るスーパーレディて言ってましたよ(笑)。注文とかのやり取りで〇〇さんには、お世話になりましたよ~奥さんだったんですか~?」そんなやり取りの相手が鈴木信道さんで今は、SigeruKawaiの最終調整を全て彼が担当している凄腕調律師です。そして次に五家さんが僕のBOXに訪問して来てバックチェックの調整をみて「いいね~いいね~」と誉めて頂いて「僕は、一年に一回鎌倉に仕事に行っているんですよ」と言うので「芸術館ですか?」と聞き返すと「遠藤郁子さんのコンサートを清泉小学校で毎年開いているんですよ。それで調律に鎌倉へ」僕は、「清泉小学校にホールあるんですか?」と聞くと「意外に立派なホールがあるんですよ。ただYAMAHAのCFなんですけど一年に一回しか使わない湿気の多いピアノだから大変なんですよね~(笑)。3日前に入って準備するんですよ」とにこやかな表情で言うもんですから「日にちが決まったら電話してくださいピアノ磨きでお手伝いします(笑)」と伝えると「本当ですか~じゃ~電話入れますね」と笑顔でBOXを出て行った。

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翌年になって五家さんから携帯に電話が入り「遠藤さんのコンサートの件なんですけど・・・」正直、すっかり忘れていたのですがそれが12年前だった訳です。日本でも指折りの最高の調律師にマンツーマンで一緒に仕事をさせて頂いて色んな事を学ばせて頂いております。年々ピアノも古くなって毎回コンディションが変わるピアノを分解して組み上げ遠藤先生の要求に応えるピアノに仕上げるには、毎回何らかの難題が持ち上がる。その度に五家氏の丁寧な対処を目の当りにする。他の研修では、まず遭遇する事の無い事例に調律師としてこの場に居合わせる幸せを感じ得る。そしてこの仕事の中で一番好きな時間は、遠藤先生のリハーサル風景です。当日演奏する曲をウォーミングアップしながら先生がピアノと対話している。ミスタッチがあると納得いくまで何度も繰り返し弾きなおす。どんどんピアノが目を覚まして会場の隅々まで響き渡ってくる。ピアニストのリハーサルは、それぞれのやりかたがあるが遠藤先生は、リハーサルにも関わらずその演奏にどんどん演者の思いが伝わってくるので音を気に入って頂けているのかタッチを気に入って頂けてるのか物凄い緊張感でドキドキしてそれが妙に心地良い。今年も何ら問題なく本番を迎え、遠藤先生が曲の説明を丁寧に生徒達にお話して演奏が始まる。前半は、ベートーベンソナタで月光・熱情。後半が全曲ショパンで最後が英雄ポロネーズ。最初の月光の1楽章を弾き始めると優しく静かな音と立体的に際立った音が歩調を合わせて会場全体に緩やかに広がっていった。

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人生、ひょんな所から色んな所で色んな方々と繋がりがあります。来月友人がSigeruKawaiを購入するので早速、鈴木信道氏に細かな音の注文の電話を入れて何台か用意して頂きます。そのピアノを竜洋工場に行って実際に弾いて聞いて選んでそのピアノを運んで貰います。これがグランドピアノを購入する時の選定販売てやつです。折角グランドピアノを購入するのですから工場見学もして楽器博物館にも行って鰻食べて・・・なんて話をしていたら仲間が「俺も行きたい・・連れてって」「俺も」「俺も連れてって、ピアノ工場なんて見た事無いからなぁ~」「どうせなら一泊で浜名湖に泊まって宴会して翌日ピアノ選んで帰ろうよ」なんて勝手な事を言い出す始末。「じゃ~皆で宴会兼ねてピアノ選びに行くかぁ~」と即時決定して「おいおいどっちが目的なんだよ‥(笑)」「宴会だろ!」「舘山寺温泉だろ!」まぁ良い仲間に恵まれました。

 

 

 

97歳になってピアノが楽しい!

今年も昨年に続きゴールデンウィーク明けの5月15日(日)に鎌倉プチロックフェスティバルVOL.2が開催された。当日は、天気に恵まれて昨年の倍のお客様にご来場頂き大盛況でした。この手作りフェスティバルは、地元鎌倉で商売をされているスポンサー70社余りの協力を得ているので鎌倉ピアノ芸術社もスポンサーになって協力をしました。昨年同様、由比ガ浜の海の真ん前、鎌倉海浜公園にピアノを運んで準備をした様子と長いお付き合いのご年配の女性が「この年になってピアノが楽しい」と言って楽しんでいらっしゃる事を記事に書き記したいと思います。

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電気を使わないロックフェスティバル第2回目。今年の2月位に実行委員長から「梅根さ~ん、ご無沙汰しております。今年は、5月15日に決まりましたので昨年同様宜しくお願いします。」と電話あった。昨年は、曇りのち雨で夕方からパラパラと雨が降り始めて無事に演奏が終わった後30分で88鍵全て鍵盤が上がらなくなって弾けない状態になってしまった。その後、一年間誰も弾いていないピアノですから当日の調律だけでは、当日ミュージシャン達の演奏には耐えられないだろうと思いゴールデンウィーク明けに前もって全ての修理・調整を済ませて本番を迎えようと作業に出掛けた。鎌倉の有名なお寺の近くにお住いの御宅の和室にそのピアノが鎮座している。恐る恐る弾いてみると全ての機械が湿気を帯びてスムースに動かない。音は、鳴らない。ただ昨年、潮風と湿気にさらされてプロが一日中弾きまくったピアノなのにピッチは、想像よりましな状態。やっぱり俺って天才?なんてちょっと有頂天になって作業に取り掛かった。鍵盤関係は、多分に湿気を含んでいて全ての鍵盤調整から接点の潤滑状態、そして調律まで当日また潮風にさらされても大丈夫なように細部に渡って入念に時間を掛けて作業をした。昭和43年製の古いピアノですが、やはり頑強に作られていて立派なピアノです。当日は、朝9時に運送屋さんがピアノを運んできてすぐさま調律を始めた。海の前の公園で周りの人々は、出店の準備で忙しくされている中、スーツ姿で一人黙々とピアノの調律をしていると場違いな感じがして昨年同様、妙に可笑しくて恥ずかしかったがピアノは、完璧に仕上がった。

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作業を終えて会場をぐるりと見て回ってピアノの所に戻るとギターを抱えた人達が準備を始めていた。1人の中年男性がピアノに座り何やら弾き始めたら「おっこのピアノ調律してある!」とニンマリしたので「朝9時から調律したんですよ」と告げると「えっここに調律師の人きたんですか?」と聞くので「そう、僕が調律師の人なんですよ(笑)」と答えると彼は、まじまじと僕を見て「すげ~」と言った。何が凄いんだろう?と思っていると周りに観客が大勢集まって来て演奏が始まった。お客さんの様子を伺っているとその中に車椅子に乗ったお婆さんと付き添いの女性がいる。周りの観客も一番前に彼女たちの場所を開けて気遣っている。車椅子のお婆さんは、終始ニコニコしていて、その姿は、とても楽しそうに見えた。その姿を見てこういった仕事をしているのに生前車椅子の母に音楽を楽しませる事を考え付かなかったな~と悔いが蘇った。彼女達は、フェスティバルの最後までピアノの有る所でその日一日ニコニコと演奏を楽しんでいた。これだけでも、この無料フェスティバル開催の意味があるな・・と改めて音楽の持つ力を実感させられた。

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毎年5月に調律にお伺いしている30年来のお客さま。ご夫婦で音楽の教員をされていたらしいが、最初にお伺いした時には、既にお二人共定年されていた。10年ほど前にご主人が病気で先立たれてその後、奥様一人で生活されている。いつもの様に今年も5月中旬にお伺いして調律を終えると軽い足取りでお茶とお菓子を運んで来てくれた。すると「私も年だから昔の様に弾けないけれど、毎日少しづつ練習していると弾けなかった曲もゆっくりだけど弾けるようになるのね~上手くないのよ(笑)。ピアノに向かってると今が一番楽しいと感じるの(笑)。」「それから来年は、4月に来てくださいね。」と言われて僕は、「来年は、何かあるんですか?」と聞くと「ほら私も歳だから来年生きてるかどうか解らないじゃない(笑)。だからこれから私が生きてる間は、1か月づつ早く来てくださいね」とにこやかに言われた。僕は「お母さん失礼ですけどおいくつになられたんですか?」と聞くと恥ずかしそうに「私、97歳よ~(笑)。」僕は、「97歳ですか~?いや~お元気ですね~ぜんぜん見えませんよ~背筋もまっすぐだし耳も遠くないし僕は、80代だと思っていましたよ」と言うと左腕を見せて「今年の初めに台所でつまづいて壁に左手ついたのね~骨にひびが入っちゃったのよ。もう大丈夫なんだけど一時ピアノ弾けなかったのよ。それになにせ97歳だからいつどうなってもおかしくないんだから、これからは1か月早めにいらしてね(笑)。」「じゃ~来年は、4月に入ったらすぐにお電話差し上げますね」と言って二人して笑った。帰りに玄関先で「くれぐれもケガだけは、気を付けてください」と言って家を後にした。とても97歳には、見えないお元気な奥様です。左右の指をバラバラに動かすことが如何に脳に良いかは、音楽療法などを考えると確かに相当な効果があるのだろう。今は、「ピアノに向かっているのが一番楽しい」とおっしゃる笑顔に何時までもお元気で居て欲しいと心から祈った。