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冬の出来事

今の所、私の住む鎌倉にこの冬幸いな事に積雪はありません。毎年一度や二度雪が積もって雪かきをして仕事もこれ幸いとお休みにして子供時分に戻ってそんな日がまるで無いとちょっと寂しかったりして(笑)。今回は、1月から3月の毎年恒例の仕事と冬ならではのピアノのトラブルについて書き記したいと思います。

暗くて寒くてラップ現象?におびえ耐えて作業終了

2月のある日、お客様から「全然連絡がありませんけど、どうされているのかしら?」と聞き覚えのある声で電話が入った。「あの~どちら様でしょうか?」と聞くと「○○です!いつも1月に調律して貰っている○○ですけど連絡が無いから具合でも悪くされているのかと思って!」とちょっと声が怒っている。「あっ○○区の○○様ですね。いつもお世話になっております。梅根でございます(笑)僕は、元気ですよ。ご連絡ありがとうございます。何回もお電話差し上げていた所なんですよ。中々お出にならないので私の方こそ何かあったかなぁ~と心配していた所なんですよ~!」「そうなの?電話頂いていたんですか?大体いるんですけどね~」「ええ、もう何回も何回もお電話しましたよ(笑)!」「そうなの、それで何時なら来れるのかしら?」とまだ声が少し怒っている。日程を決めて電話を切ろうとすると「あっ電話番号が変わったんでした(笑)。」何でも光回線に変更した時に電話番号が変わったとの事ですっかり誤解も解けてにこやかに問題解決でした。そんな1月~3月初めまでは、学校の調律のシーズンに入る。卒業式前に集中する訳ですが、この時期の体育館は、極寒で指は凍え耳は寒さで痛いし鼻水は垂れて来るし最悪の作業環境。そんな中である学校では、ピアノ保管庫の蛍光灯が切れていて暗黒の作業。グランドの接近調整に使うライトの明かりを頼りに調律を始めると意外や意外作業効率が一気に落ちて物凄く時間が掛かる。そうこうしていると部屋のあちらこちらからパキ・カチ・メキメキと色んな音が聞こえて来た。最初は、気にもならなかったがあれ!これってラップ現象?と思ったらもうその音が段々激しくなって聞こえてくる。もう調律どころじゃありません!とっとと終わらせようと作業を急ぐにも如何せん暗くて手元が良く見えない焦りと寒さと言いようの無い恐怖に色んな所が縮み上がってしまった。

過去に何度も漂白された形跡があり慎重に作業する。

そんな中、象牙鍵盤の漂白作業。天気が良くて紫外線が強いと作業効率が非常に高い漂白作業。過酸化水素水の濃い物を使うのだが昨年急に手に入らなくなった。今まで購入していた薬局が取り扱わなくなったとの返答に「どうして?」と聞くと「薄いオキシドールはありますが、濃い物は化学薬品で知識のある人が悪用して危険な物を作って逮捕されたりと事件が連続して起きたので取り扱いが難しくなったみたいですね~!」結局薬局では、手に入らずに製造元から卸元を紹介して貰って販売店を紹介して貰ってと面倒な紹介紹介を繰り返して無事手に入った。象牙は、今では輸入禁止なので新品のピアノに使われる事は、ほとんどありませんが昔の高級ピアノには、惜しげもなく象牙鍵盤が使われていた。漂白作業は、削ったり液を塗ったり磨いたりと地味な作業ですが結果綺麗になるので終えた時の達成感は、とても気持ちいい!その作業と並行して100年前のスタインウェイのダンパー修理を行った。日本製のダンパーと違って少し構造が違うので覚悟を決めて全て分解してダンパーオーバーホールの作業。同じ作業をしても日本製だったら恐らく3分の一の時間で出来たであろう。しかしピッタリ決まると俺って天才!と有頂天になって疲れが一気に吹き飛んでしまう!その位、ちょ~気持ちいい!

ダンパーを全て取り外した所
想像通り一番面倒なタイプ・・・当然か(笑)。
温風が直接当たると湿度がビックリする数値になった。
ピアノは、いたる所にネジが!この全てが緩んでいる。

近年の住宅は、密閉性の高く断熱効果が高く、床暖房にエアコンに全室空調などなど快適生活商品がどんどん採用されている。その影響でここ数年必ず数件トラブルの電話が入る。「この前調律して貰ったんですが、かなり音が狂ってしまってまた見て貰えますか?」とか「音が全く出ない所があるんです。」といった具合です。最初の音の狂いですが多くは、床暖房やエアコンやガスストーブなどの温風が直接ピアノに当たっているケースです。あるお客様宅では、お伺いして作業を始めるに当たって普段の暖房をしてくださいとお願いをしていざ調律を始めると温度は、どんどん上がって25℃湿度11%と想像を絶する乾燥。この調子だと木部の割れを招くので対処方法を伝授して様子を見る事に。この対処方法は、加乾燥しない方法なのですが各家庭の生活環境や間取りが大きく関係するので一概にこうすればと安直にここに記載できないので同じ悩みを抱えている方は、経験豊かな調律師にお願いをして相談する事をお薦めします。次に音が全く出ないケースも必ず同じ原因とは限らないので一概には、言えませんが暖房による急激な温度変化や湿度変化によりトラブルが発生します。加乾燥による木部の痩せによる影響、金属部の膨張収縮でアクションの至る所のネジが緩んでハンマーバットフレンジのセンターピンが横にずれてしまうケースは、調律師であれば必ず経験があると思います。この対処方法は、センターピン交換やお客様に温度湿度管理方法のアドバイスはもとより、つまるところ面倒でも緩んだビスを丁寧に適正トルクで締めるといった単純作業になる。330本以上あるネジを締めた後に色々と調整しなくてはなりませんから根気がいるかも(笑)?でもピアノがカチッとした感じになって音にメリハリがついてピアノが喜んでいる感が味わえて何より弾くと気持ちが良いとなれば作業も楽しくなります。便利な時代になって快適に生活できるのは、良い事ですがピアノにとっては、快適暖房の風より昔の隙間風の方が快適なのかもしれません。

2019年1月覚悟の作業スタート

世界中で異常気象が報告されて関東も今晩あたりから雪と予報されて何だか底冷えする。気が付くと1月も今日で終わり。あ~なんて早いんだろう!お正月休みが随分前の事の様に感じられます。というのも昨年末から今年に掛けて大変な仕事がいくつも舞い込んで気が焦るばかり。とてもありがたい事ですがやらなければならない仕事に事務仕事も。今回は、そんな言い訳を記事にしたいと思います。

世界の名器ベヒシュタインのフルコンサートピアノ

私の学生時代のピアノの恩師から譲り受けたベヒシュタインのフルコンサートピアノ。昨年九州から運んで半年もずっと梱包したままでした。長さが2メートル75cmとさすがフルコンとてつもなくデカイ!梱包を解くにもこの大きさのピアノを広げるには、かなりのスペースがいるので中々開包する事が出来ずにようやく昨年12月に開包しました。

さすがに世界の名器ベヒシュタイン。ピアノの最も重要な所は、さして問題無いのですが、あっちこっちの木部の痛みがひどく、割れや剥がれに脚は3本ともほぼ壊れている。あ~これは大変だぁ~!ただただ呆然。塗装も割れているし鉄骨は、舶来ピアノに良く見られる緑青が出てる。覚悟を決めて完全修理する事にしてさぁ~ピアノ解体です。ピアノは、弦が220~230位ありますがフルコンともなるともっと多い。そして如何せん弦が長い。弦の太さは、それぞれの音域で変わるので通常のピアノではピアノ本体に弦の太さが記載されている。しかしこのベヒシュタインには、何処を探しても記載がされていません。「あ~しょうがない!一本一本採寸して外すしかないなぁ~!」とまたまた、覚悟を決めて作業に入る。マイクロメーターで測りながら弦を外してピンを抜いての作業。途中電気ドリルから煙が噴き出したりと大層に難儀をしながら普通のピアノなら半日で終える作業もフルコンともなるとまるまる二日掛かった。よりによって二日とも寒い日に当たって指先は凍えて鼻は真っ赤っかでお手々に肩から首からもう~色んな所が痛い!これから木工修理に響板・鉄骨・全塗装の作業がスタートする。先が長いぞ~!

そうこうすると見積り依頼のメールが入る。早速お伺いすると東京の一等地のマンションの一室。とても日当りの良いガラーンと何もない広い部屋の片隅にアップライトピアノが!一目見た瞬間に「ありゃ~ダメかも!」随分放置された感が見て取れて鍵盤蓋を開けるとそこには、プリマトーンと書かれている。音を出すと「べローン」とおよそピアノの音になっていない。下のパネルを空けて響板を見ると大きく3本?パックリと割れている。BASS弦も何故か一本切れている。アクションもガタガタだしピン板も割れている事が想像できる。お客様に「ここまでくると修理ではなく一台ピアノを作るって感じですかね~いやもっと手間が掛かりますね(笑)!」お客様は「実は、他に何社もピアノを見て貰ったんですが皆さんお手上ですと言って帰られました。」私は「それは、どんな所に見て貰ったのですか?」と聞くと名だたるメーカー数社の技術者に見て貰った事が分かった。そして「十数年前に鎌倉からこのピアノを運んでその折に実家も処分しましたので唯一鎌倉との繋がりを残す品物がこのピアノなんですよ!どうにか修理してこれからは、大切にして行きたいと思っています。最後の頼みの綱として鎌倉ピアノさんに見て貰って判断したいと思っています。」そう言われると何だかどうにかしてあげたくなって、またまた覚悟を決めて「費用と時間がかなり掛かりますが宜しいですか?」とある程度の具体案を提示してピアノをお引き取りする事になった。あ~ちょっと安請け合いしちゃったかなぁ~?でも最後の頼みの綱と言われるとやるしかないでしょう。ここは、覚悟を決めて頑張ってお客様をビックリさせてやる~!

プリマトーンだが何処にも製造番号が見当たらない!
バックリと割れた突板。ピアノの各所でこの状態が見られる

そんなこんなの最中に弊社のホームページのアールウィンザーというピアノの記事を見て問い合わせが続いた。一件目は、365日雨戸の閉まった部屋に27年間放置していたアールウィンザーw113の黒いピアノ。中の調律記録を見てみると昭和61年に購入して最後の調律が平成4年調律師名の欄に梅根と書かれていた。「え~僕が調律に来てますよ!え~ここに僕来てたんですかね~?僕の事覚えていらっしゃいます?」と聞くと「いいえ、初めてです!」ときっぱり「え~????」と首をかしげると「このピアノは、妹が持っていたピアノなんです。昔、妹家族が転勤で海外赴任するのでその時にここに運んで来て誰も弾く人が居ないのでそのままになっていたんですよ。」「妹さんは、なんていうお名前ですか?」「○○で横浜の○○に住んでいたんですよ!お分かりになります?」「何となく覚えがあるような無いような??あの細い階段上った途中の右側の所ですか?」「そうそうあの細い階段の所」とちょっと話が盛り上がって何だか27年ぶりのご対面のピアノにちょっと懐かしくて嬉しくなって弾いてみると27年も何も調律していないのにそんなに滅茶苦茶ではない。心の中で「いや~俺って天才!」なんて有頂天になった。ただ、湿気の多い所なので機械の動かない所や鍵盤が上がってこない所が多数あった。何だか気分良くよ~しと覚悟を決めて全部丁寧に修理してあげようとたっぷりと時間を掛けて作業をしたらビックリする位に綺麗な音を奏でてくれた。疲れて帰る足取りも軽やかに終始気分の良い仕事だった。

そうこうしているとまたもや実家からピアノを運びたいんですけどピアノが使える物なのか修理と移動で費用はどの位掛かるのかと問い合わせ。早速お伺いすると、またまたアールウィンザーw112のマホガニー色。保管場所が良くて中身も傷みもほとんどなく外装もいくつかの傷はあるものの程度はとても良い!お客様は「あんまり掛かる様だったら電子ピアノ買った方が良いかな?と思って」と言うので「こんな立派なピアノがあるのにちゃんと調律と調整して外装もちょっと綺麗にしてあげるとまだまだ何十年も使えますよ!良い音に仕上げてあげますから!」というと「宜しくお願いします。」と二つ返事で了承して頂いて無事にお届けした。

クリーニングで綺麗に仕上がったウェインザー

昨年は、1月5日の仕事始めにインフルエンザにかかって新年早々に寝込んでしまったが今年は、新年早々、ピアノを通じて新たな出会いや昔懐かしのピアノと再会など幸先の良いスタートが切れました。今年もどんなピアノに出会えるか今からワクワクです。あの大修理ピアノやフルコンの修理などなど手間が掛かり悪戦苦闘するであろうその様子は、またここにアップして行きますのでどうぞ皆様、お楽しみに~!