第3回鎌倉プチロックフェスティバル

5月14日に第3回鎌倉プチロックフェスティバルが開催された。第1回開催時に主催者より「早朝に海岸の公園にピアノを運び込んで夕方の5時にピアノを搬出して欲しいんですけど・・雨の場合は、中止になります。朝6時に開催か中止か決まるのですが出来ますでしょうか?」と依頼がありちょっと躊躇した。しかし考えてみると横浜では、色んな奉仕活動や学校関係で一肌脱いでいるのに地元鎌倉であまり力を注いでいないなぁ~と瞬時に考え直して「協力しましょう!」とそれからのお付き合いです。「電気を使わないアコースティクサウンドのロックフェスティバル」主催者の熱意やフェスティバルの様子を拝見するととても素晴らしく素朴に音楽の楽しみがここにあると感じた。又、フェスティバル終了後にスタッフ総出で公園の掃除にあたる姿を見て私もこのフェスティバルに協力をしたいと思いスポンサー企業になりました。今回は、潮風にさらされたピアノの様子を記事にしたいと思います。

昨年は、天気に恵まれたのでピアノのダメージは、大した事がないだろうと思っていました。開催の5日前に毎年ピアノを提供して頂いているお宅へ出向いて調律調整をしました。「こんにちは!今年もよろしくお願いします」と言ってお伺いすると「はい、いらっしゃいお願いします。このピアノも誰も弾かないのに毎年ちゃんと調律してピアノも良くなって喜んでるわ~(笑)!」と3回目となるとお互いに慣れて来て作業をしていても居心地が良い。元々長年使ってない調律もしていない、しかも鎌倉の湿度にやられてひどい状態のピアノだったのが毎年準備調律に当日調律と念入りに調整しているのでピアノも蘇ってきている。早速ピアノを確認すると88鍵盤全ての鍵盤の動きが鈍い。内部のアクション(機械)は、動かない所がチラホラ。キャスターは、ザビだらけと短い時間ですが過酷な環境に置かれたピアノのダメージは、思いの外ひどかった。たっぷりと時間を掛けて鍵盤調整から機械の修理とザビを落として調律に入る。多くのミュージシャンが朝から一日力一杯弾きまくったピアノにしては、意外に音の狂いは少ない「やっぱり調律師の腕が良いんだな(笑)!」なんて心でつぶやいて上機嫌になったが45年程経つだろうかそのピアノの頑強さと昔のピアノの品質の良さのおかげか!と直ぐに考えを改めた。

フェスティバル当日の朝9時にピアノが搬入された。緩やかな傾斜地の芝生の上に設置するので大きめの板や角材で水平を出して設置する。昨年は、直ぐに水平が出て簡単に設置出来たが今年は、中々決まらない。しばらく四苦八苦して「こんなもんで良いかなぁ~?」と大きく妥協してようやく設置した。当日の天気は、前日の大雨を引きずって今にも雨が落ちてきそうなどんよりとした曇り。テントが飛びそうになる強い風に強烈な湿度で少し肌寒い。周りでは、スポンサーの出店準備が始まっていてみんな右往左往しながら活気に満ちている。どうにか天気が回復してくれることを願いながら調律に取り掛かった。5日前に完璧に調整しているので作業は、順調にと思いきや前日降った雨で地面が湿けっていて音の吸収が物凄い。まるで無響音室で弾いている様な状態。少し音色に幅を持たせるように調律を変えて調整する事にした。多少は、響きが良くなったが如何せん下は、砂地なのでピアノの音と言えども弾いた瞬間に音が吸われてなおかつ周りに音を反射する物が何一つ無いので圧倒的にボリュームが足りない。ここ数年の調整で相当に鳴るようになったピアノですが来年は、準備段階から何か工夫してあげたいな!と演奏者の真剣な取り組みに対して大きな宿題を課せられた気分になった。

 

毎年アーティストとして参加しているVAKENECO(バケネコ)さんという上手な女性ピアニストがいる。ちょうど2か月前に私の古いお客様のお寺の住職さんから頂戴したCDが「VAKENECO百花繚乱」であった。軽快な演奏に聞きやすいジャズピアノのCD。当日の演奏は、パーカッションとのコラボ演奏でしたが大勢の観客を沸かして大盛況であった。もっと良い条件で演奏を聴いてみたいと思い早速、住職さんに頼んでコンタクトを取ってもらい演奏の仕事を依頼して承諾を得た。今度は、私の友人宅ホールで真新しいSHIGERUKAWAI SK-5で演奏してもらう事になりました。響きの良いホールできっちりと整備されたピアノでどんなスリリングな演奏をしてくれるのか私の音楽仲間達と今から楽しみでならない。どこでどの様に人と人がつながって行くのか不思議ではありますが、音楽を通じて多くの方々と良い関係が築けていければ良いなと心から思います。こういった音楽を通じて良い人達とのネットワークの広まりにピアノ調律師として喜びを感じ得ます。次回の記事は、人と人の繋がりで来週5月27日に開催するクラッシックコンサートについて書き記します。まさに人と人の繋がりといったピッタリの題材に不思議な縁を上手く書き伝えられるか、またまた大きな宿題ですが是非、楽しみにしていてください。

フェスティバル主催者の竹内Kenさんから「スポンサー企業には、スポンサーTシャツが貰える事になっているんですよ・・サイズはいくつですか?」と昨年も言われたが、恐らく着ないだろうからいらないな!と思って貰いに行かなかった。今年、竹内Kenさんが鎌倉プチロックフェスティバルと書かれたTシャツを着ている。よくよく見たら背中に鎌倉ピアノ芸術社の名前が入っている!「Kenさん、毎回スポンサー企業の名前をプリントしているんですか?」と聞くと「当たり前じゃないですか~!」と「ひぇ~僕にもちょうだい(笑)!」

傷ついたピアノ

4月も半ばになってすっかり暖かくなり気持ちの良い日が多くなりました。倉庫のピアノを出し入れする度に外で舞い散る桜の花びらが倉庫に侵入してその度に掃除機で掃除。ピアノの出入りが多いこの季節は、忙しいが掃除機を手にするにも何だか気分が晴れやかだ!今回は、ピアノの大敵、湿気で傷んだピアノの事などについて書き記したいと思います。

お客様より「長年使っていないグランドピアノがあるのですが調律をお願いします」と電話が入る。「何年位調律やっていないのですか?」と聞くと「前に住んでいた方が持っていたピアノで良く判らないですね」と「メーカーは、どちらでしょうか?」と聞くと「YAMAHA・KAWAI・・・う~んYAMAHAかな?」と色々とやり取りをして日程の打ち合わせをしてお伺いしました。お伺いすると門から家まで40~50m?ビックリの大邸宅。家に入ると30畳以上はあろうか?大きなプレイルームの片隅にのグランドピアノが鎮座している。古い家を改築して以前の持ち主が置いていったピアノで中を見ても調律記録もない状態。製造番号から50年前のG3で音も半音以上は、下がっている。お客様曰く「2日後にここでピアニストを呼んで家のお披露目パーティを開くのでその時に取敢えず弾ける状態にしてください。もしピアノがもうダメなのならその後に考えますから」と言うのでとりあえずピアノの状態を観察した。ピアノを見てみると全ダンパー(音を止める装置)が不良。機構は、ちゃんと動いているが音がちゃんと止まらない。もっとよく見てみると響板がバックリ4本割れている。写真では、分かりにくいのですが鉄骨の下も割れている。ピッチの下がりは、このせいだなと理解出来たが「お客様、いや~参りましたねぇ~響板がこんなに割れているので大掛かりな修理が必要ですよ」と伝えると「2日後にどうにか使えれば良いのでお願いします。」私は「ピアニストが満足する様には無理ですね~もしよろしければ往復の運送代が掛かりますが私共の調整済のピアノを無料でお貸しますのでピアノを入れ替えて修理されては如何ですか?」との提案に「そうしましょう!」と早速、数社の運送屋さんの手配を試みるがなかなか今日の明日と言う仕事は、難しい。お披露目会パーティの早朝に入れ替えして事なきを得た。その家は、ピアノの鍵盤側のすぐ後ろの建具の中に大型のエアコンが収納されていてその吹き出し口がもろにピアノに向いている。距離にして1メートル。30畳以上の部屋をこのエアコンで温めているのですからピアノは、カラッカラに乾いて木が縮んで響板が割れた訳です。ピアノは、湿気に弱いと言いますが加乾燥は、致命的なトラブルになります。近年、全室エアコンや床暖房で一般家庭でも加乾燥によるトラブルが多くなっているのも快適な生活を送る為の便利機器が普及したせいだと言えます。

 

次に紹介するのは、加湿度の地下室に設置したグランドピアノです。友人から「昨日、飲んでて友達の奥さんがピアノの先生なんだけどピアノの調子が悪くて困ってるんだと誰か良い調律師知っていたら紹介してくれる?と相談されたんで梅根さん紹介するって言っちゃったんだけど行ってくれる?」と電話があった。「いいよ~!」と二つ返事で行く事に。行ってみるとレッスン室は、地下室で入ったと同時に湿度を感じる。ピアノは、ちょうど一年前に調律されていてピッチが上がっていてA444Hzある。先生は、「子供の頃からずっと同じ調律師にやって貰っているんですが調律しても直ぐに音が狂ってタッチも重たくて困っているんです。買い替えるにももうこの歳じゃ今から新しいピアノも考えられないしどうにか良い状態になってくれればとセカンドオピニオンで申し訳ないのですがお願い出来ますか?」私は、調律記録を見て購入当初から40年毎年同じ調律師にやって貰っている。ベテランの私より一回り位年上の名前を聞いた事のある調律師だった。お客様は、「実は、2度ほど他の調律師にお願いした事があるんです。一人は、調律しても酒場のピアノみたいになって全然だめでした。そして数年前にあまりに調子が悪いので講師仲間に紹介してもらってお願いしましたが、やはり気に入らなかったので昔からお願いしてる方にやって貰っているんです。」私は、ピアノをよく弾いて確認してみるとピッチが上がっているがアクション(機械)に不具合が無いのでコントロール出来ない湿気では無いなと思ったが音がベッタリと、とに角響きが悪い。これは、ハンマーが変摩耗してるな!と思いアクションを引き出して見てみると全てのハンマーに見事に深~い弦溝が刻まれている。それに鍵盤の動きがぎこちない。これじゃ~良い音なんか出ないな!調律記録には、ここ数年の作業に整音と書かれているがちょっとこれは・・・と困惑した。しかし色々と問題はあるがピアノ自体のポテンシャルは高いと感じた。「ちゃんとフルメンテナンスをすればいい状態になりますよ。ただそれには、時間と費用が掛かりますが・・」費用や時間の事を伝えると先生は「今日は、この後にレッスンが入っているし今日は、調律だけでお願い出来ますか?そして中身のメンテナンスは、費用の事もあるので主人と相談して後日でも良いですか?」と言うので「もちろん大丈夫ですよ。」とその日は、でA442Hzにピッチを下げて整調(機械の調整)をやって仕事を終えた。先生は「わ~綺麗な音になったわ!」と喜んで「メンテナンスの日程は、まる一日開けられる日をご連絡します。」とにこやかに先生宅を後にした。その後、先生から電話は掛かってこなかった。

翌年になって調律の時期になったので恐る恐る電話をしてみると「もうそろそろかな?とお待ちしておりました。メンテナンスやると言って中々時間が取れなくて一年経ってしまいましたが調律と一緒にメンテナンスをお願いしたいんですが?」と私は、「ピアノの調子は如何ですか?」と聞くと「毎日、とても気持ちよく弾いています。メンテナンスするともっと良くなるんですか?」と聞くので「ビックリする位変わりますよ!楽しみにしていてください。」と伝えて後日お伺いした。ピアノは、ピッチも下がっていなくて音の狂いもわずかであった。湿度が高いとピッチが上がるがこの程度なら音律は、きっちりと管理出来るな・・と思い早速作業に取り掛かった。最初に体力のいるハンマーファイリング(弦の溝のついたハンマーをやすりで綺麗に削る)から取り掛かる。天気の良い時に外で風に吹かれて88本のハンマーをバサバサと削る。次は、シャンクローラーのへたりを修正して鍵盤関係に入り次々と作業を効率良くこなして行く。何時もやっている作業で手慣れているつもりですがあっという間に時間が過ぎていく。この後、整調に調律に整音と順序良く作業を進めて行くが以前変摩耗したハンマーに幾度も針を刺している形跡があるので整音に随分時間を取られたが作業を進めるに当たってどんどん良い音に変わって蘇っていくと楽しくてしょうがない。ようやく全て終えたら19時を回っていてヘトヘトに疲れた事に気付いた。「終わりましたよ~」と先生を呼ぶといそいそとお茶を持って来られた。「あら~お茶菓子も何も手を付けなかったんですか?」と「あら!申し訳ないすっかり忘れていました!」作業していて私もすっかり忘れていました(笑)!先生に早速弾いて貰うと「あ~全然違いますね~こんなに弾きやすくなるんですね~鍵盤が指に吸い付く様になるんですね~弾きやすいわ~音も凄く綺麗に変わりましたね~(笑)!」と先生の終始笑顔で満足された様子で一向に弾くのを止めない!その姿に疲れも一気に吹き飛んだ!

あの豪邸のお客様から電話が入り「この前は、ありがとうございました。お披露目会も無事に終えてピアニストがとても良いピアノだと言っていました。本当に助かりました。ところで仕事が今とても忙しくなったのですが、どうせなら新品のピアノを買おうと思っているのでもう少しこのグランドピアノ借りていて良いですか?落ち着きましたらピアノの購入の話を進めたいと思いますので宜しくお願いします。」と嬉しい電話!でも来年とかにはならないだろうなぁ~と・・・・ちょっと心配(笑)!

 

 

 

Kamakura piano artistry corporation | Tel : 0467-47-1502

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