ピアノ調律師の仕事を伝える

3月の中旬に横浜市の中学校で「校内職業体験学習」が開かれる。その講師として2時間の授業をする事になっている。小学校には、「本物の音を広めたい」と題してピアニストを連れて活動を続けていますが中学校は、これが2度目。昔、ピアノ調律師の仕事の講話は、経験しているが2時間で体験となると???どうしよう?当日は、消防士から銀行員からツアーコンダクターなどなど多種多様な16名の社会人講師がやって来る。ツアーコンダクターの面白話や消防士は、消防車連れてくるんだもの僕が聞きに行きたい位だ!しかし「ピアノ調律は、面白くなかった!」何て事になるとピアノ調律師協会の古堅に関わるのでしっかりと準備しなければならないと思っております。そこで準備の一環として今年に入って楽しい仕事を思い出しながらここに一つ書き記したいと思います。

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昨年の夏にピアノの先生から「私の友人のピアノの先生がグランドピアノを私のピアノと同じ大きさの物にに入れ替えたいと言っているんだけど予算がが無いの…相談に乗ってあげて!」と話を持ち掛けられてた。今お持ちの小型グランドを買い取ってその値段に見合うグランドとなると結構古い物になるし商売的には、さっぱりな話。何よりピアノの先生が使うとなると音が良くてタッチも良くてあまり使われていないピアノ。そんなの中々無いよなぁ~と思いながら良い出物が出てくるまで待って貰う事にして、何台も何台も同じ大きさのピアノを買い取っては、見てみましたが良い物は、予算に合わなくてその他は、どれもこれも状態が悪い、音が悪い、そして弾き潰れたピアノばかりで中々条件に見合うものは出てきません。ようやく今年に入って1台見つかったので直ぐに外装の手入れをして1月に我社のショウルームに入れました。直ぐに先生に電話をして「良いピアノが見つかりましたよ・・・今月末には、全て仕上がりますので弾きに来てください」と告げると「ありがとうございます。1月は、ちょっと忙しくて2月○○日なら行けますのでよろしくお願いします。」とうれしそうな声。私もルンルンでピアノの調整に入った。

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本来ならば外装も塗装をしたいのですが、予算的に塗装を入れると大幅にに予算オーバーになるのでクリーニングで仕上げて内部に重点を置くことにした。以前の持ち主があまり上級では無かった様で使用頻度も大した事は無く部品の消耗も少ない。音の鳴りは良いが、以前の管理があまり良くなかった様で音色は、さっぱりである。全部をバラシて全調整して見違える音に仕上げる・・・これは、ピアノ調律師の仕事として労力は、大変ですが最も楽しい仕事。まずは、ピアノと対話をする意味もあって、ざっと調律をして鍵盤調整からハンマーファイリング整調、整音、摩耗部品の交換、そしてまた整調して調律してまた整音。作業が進むにしたがって見る見る内に音が良くなって笑いが止まらない。するとピアノの先生から電話が入り「2月○○日は、都合が悪くなって行けなくなりました。申し訳ございません、もしどなたかそのピアノが欲しいと言う人がいたらどうぞそちらに売ってもらって構いませんから」とテンションの低い電話が「解りましたでも、先生の為に探したピアノですから買う買わないは、一度弾いてみてからそれから考えれば良いじゃないですか。気に入らなければ断っても大丈夫ですよ。無理やり売りつけたりしませんから安心して弾きに来てください」と告げると「解りました○○日に変更してください」とちょっと様子が変でした。まだ一度しかお会いしていない先生なので不安になるのもうなづける。まぁ良い音に仕上げて是が非でも欲しいと思う様に仕上げれば問題無し!まぁこのピアノなら直ぐに売れるな!と気を取り直して調整を始めた。調整の最終日は、朝から一日掛かりで調律から整音まで夜までかかった。弾くと輪郭のはっきりとした気持ちの良い音に仕上がりフォルテで弾くと迫力がありピアニシモで弾くと暖かく粒立ちの良い音が立体的に広がる。「あぁ~良い音だ!俺って天才!」と有頂天になって一日の疲れが一気に吹き飛んだ。

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2月の約束の日に先生が来店した。えっこんなに若くて綺麗な先生だったかな?まぁ半年前に一度お会いしただけだからなぁ~と思い直して早速ピアノを弾いて頂いた。「わ~良い音~!弾きやすい!それに綺麗ですね」と頬が緩んでいる。ピアノの説明や色んなお話をすると先生が言いにくそうに「本当の事、言って良いですか(笑)。実は、私の持っているピアノと交換となると凄く古くてボロボロのピアノになるんじゃないかと色んな人に言われて心配になっちゃって・・・でも、この音大好きです。このピアノ欲しい(笑)!」こう言って無事に商談が決まりました。帰り際に「今日は、ありがとうございました。今日来て良かったです。」とペコリと頭を下げて帰る姿が目にしみた。ピアノ調律師として目利きをしてピアノを仕入れて修理をしてお客様に納得して頂ける状態に仕上げて、販売と一連の業務が報われた訳です。今後、末永く良い状態で使って頂ける様にピアノを管理してピアノの先生の要求に応える。ピアノ調律師の仕事の一部分ですが楽しくてやり甲斐のある仕事です。この楽しくてを中学生にどうやって伝えようか頭を抱えてこれから悩める日が続くんだろうなぁ~!生徒に仕事で辛かったことは?何て聞かれたら、この日を迎えるに当たって辛くて眠れませんでした(最近よく眠れるが)・・とでも言って笑いを取りに行こうか?若くて綺麗な女性ピアニストやイケメン男性ピアニストと仲良くなれて楽しいですよ~とでも言っておこうか~いやいや、そんな適当な事言ってると若くて綺麗なモンスターペアレントからクレームが来るな!誠心誠意、眠れない日々を存分に楽しもう!

 

気が付いたらもう2月中旬?

慌ただしく日々を過ごしているともう2月。えっ2月中旬!この間正月肥りしたばかりなのに~。新年からテレビでは、連日の株安にベッキーにスマップに甘利さんに清原に日銀マイナス金利など2016年早々に荒れる世間に翻弄されながら忙しく日々を過ごしております。今年に入って未だ休みも取れず新たな記事のアップもご無沙汰してしまいました。つきましては、この1か月半の近況を何回かに分けて記事にしたいと思います。まずは、1月30日に開かれたコンサートについて書き記します。

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1月30日(土)は、鎌倉は特に寒い日でホールに着くと会場もロビーもピアノも深々と冷えている。舞台には、ピアノが鎮座しているが温度を測ると15℃。ピアニストが12時位に来てウォーミングアップしてリハーサルが13:30から15:30までとの事前打ち合わせだったので午前中に調律をして本番前の調律もたっぷりと余裕があるのでピアノを温めるために舞台スタッフに暖房と本番の照明をお願いした。ピアノの調子を確認して作業スケジュールを組み立てて余裕だな・・・とのんびりとピアノを弾いて温まるのを待った。お客様の入っていないホールを貸し切り状態でスタインウェイを弾けるのは、ピアノ調律師の特権でしょう。静まり返った会場に響くつたない演奏。間違えても何を弾いても許される格別の時間ですが、残念ながら音が狂っているから気持ちが悪い。温度もそこそこに上がって来たのでさっそく作業を始める。予定通り作業も進んで良い音になったが、この音の鳴りでは、ピアニスト津山知子さんは、絶対に文句を言うなと思いアクション整調など細かく作業を進めた。時間通りにピアニストが来てすぐさまピアノを弾き始める。すると「この辺鳴らないわね~」と予測通り言うので「ピアノがまだ眠っているのでリハーサルまでちょっと弾いて起こしてあげて・・・後は、どうにかするから心配しないで」と伝えるとちょっと不満そうにガンガン弾き始めた。私は、すぐに客席に行って音の響きを確認すると予測通り客席では、すごく良い音が届いている。安心して後は、リハーサルでヴァイオリニストとのバランスを聞いて問題解決出来ると確信した。今回は、ラジオでも放送される様で録音エンジニアや撮影スタッフ、マネージャーから色んな人が入って来て騒々しくなってきた。そんな中、延々とピアノを弾いている津山さんの姿を見て微笑ましく思えた。ヴァイオリニストが到着すると直ぐに曲合わせに入った。その状態でピアノの位置やボリュームのバランスなど決めるのだが今回のピアノの位置決めには、ちょっと手こずった。ピアノをちょっと縦に振ってピアニストの顔がどの角度からも見えるようにして弾き手に音が良く聞こえる様にそして2人のアイコンタクトが取れる様にと試行錯誤してようやくベストポジションが決まった。写真は、音合わせの段階で最終ポジションは、慌ただしくて写真に収める暇がなかった。

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13時30分にゲネプロ(本番と同様のリハーサル)始まりの予定だったが、オープニングCDの確認作業や舞台照明の段取り確認などなどさっぱり始まらない。結局始まったのが1時間遅れになり16時15分まで掛かった。16時30分開場なので最終調律の時間が15分しかない。直ぐにピアノに駆けより確認すると津山さんの凄いタッチにいくつか音が狂っている。作業を始めて、必死で本番前の微調整をする。お付きのお姉さんが「梅根さん開場16時30分なんですけど」と心配そうに声を掛けてきた。「大丈夫ですよ」と答えたが正直ちょっと必死だった。本番が始まりゲネプロであれだけモタモタしたのが嘘のようにラフマニノフが会場に響き渡った。オリジナルの火の鳥や展覧会の絵のアレンジ編など新たな取り組みも見事に成功した。しかし私が一番驚いたのは、会田桃子ヴァイオリニストであった。リハーサルの時は、マスクをして小柄な何だかそこら辺の垢抜けないお姉ちゃんがアルゼンチンタンゴのヴァイオリン弾いてるてな感じでしたが、本番では、素晴らしい演奏に何だか二回り位大きくなった感じだった。ピアソラなどのタンゴヴァイオリンは、私も大好きで多くのレコードやCDを所有している。その中で世界でも著名なヴァイオリニストのキドン・クレーメル氏のピアソラへのオマージュ1・2は、特にお気に入りで他のヴァイオリニストの様にやたらとテンポを早くしたり雑にアドリブを決めたりするのではなくクラッシックの基礎テクニックの上に成り立つ最高の安定感と丁寧な演奏と表現力が魅力で擦り切れるまで?聞き込んだものです。今回初めて目の当たりにする会田桃子さんの演奏は、それを超えたと言っても良い情熱とエネルギーが私の全身を包み込んで生演奏の妙技に圧倒された。2人の絶妙の演奏は、満席のコンサート会場に響き渡りお客様も大層に満足されたに違いない。寒い舞台袖で凍えながらステージを見守っていた私に熱いものが走った良いコンサートだった。そしてもう一つ今回のコンサートの全てを網羅して準備に翻弄していた津山知子さんのお付きのお姉さんが舞台袖で成功を祈るように目を閉じて心配そうに演奏を噛みしめている。その姿にやさしく暖かい好感が持てた。細かな気遣いの出来る一所懸命な感じの良いスタッフです。良いスタッフに囲まれて津山さんも幸せだ!演奏が終えて、彼女に「それにしてもここは、寒いね」言うと「ええ寒いです、演奏どうでした?」と「素晴らしかったね!」と答えるとにっこりと嬉しそうに笑った顔が目にしみた。

Kamakura piano artistry corporation | Tel : 0467-47-1502

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