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60年前のピアノと戯れて

2023年9月,暦の上では秋と言えども今年は、特別に暑くて暑くてヘトヘト状態。地球の環境変化に伴う異常気象は、ここ数年は、町場の調律師の私ですら肌で感じ危機感を募らせる位に度を越えている。先日は、昼過ぎに目黒に仕事で出かけるとゲリラ豪雨に遭遇。約束の時間になっても豪雨と雷は、激しさを増し一向に収まる様子はない。しばし待機してやや小降りになった所でお客様宅へ。その後、横浜に戻る途中で横浜方面の空がピカピカしている。目的地は、正にピカピカゴロゴロ土砂降りの真下であった。その後、自宅へ帰ると今度は、鎌倉が雷ゴロゴロの土砂降り。どうやらこの日は、雷に導かれる様に雷雲から雷雲へと移動を繰り返した様だ。大事なくて良かったが途中の道路冠水や猛烈な雨で視界不良。何よりあの雷の音と稲光には何度も肝を冷やした。これから夏の仕事にあり方が変わってくるんだろうなぁ~なんて回転が著しく鈍った頭で想像した。さて今回は、私も過去に2度しか触った事の無い滅多にお目に掛れないピアノの調律や今では珍しいプリマトーンピアノを立て続けに2台調律したりと古い年代物のピアノに携わった様子を今回は記事にしたいと思います。

LA  LUNAピアノのマーク

この時代のピアノは、木材の質と乾燥が良いので狂いが少ない

ネコ脚で小洒落た存在感のあるピアノ

長年お世話になっているお客様から8月に電話が入った。「何時もお世話になってます○○区の○○です。」「あ~お世話になっております。お元気でいらっしゃいますか?」「はい、お陰様で元気にやってます。ところでもう直ぐ調律の時期ですよね?」「9月が時期ですね!」とお応えすると「お隣の方が調律をお願いしたいと仰っているのでご連絡差し上げました。日にちを合わせて同じ日に来ていただけますか?かなり古くて何十年も調律してないんだそうですって」私は、二つ返事で「良いですよ!ありがとうございます」と言ってお隣さんの都合も合わせて日程を決めた。お伺いするとリビングの奥の方にあまり見掛けないデザインだが小洒落た感じの黒いピアノが鎮座している。蓋を開けるとLA  LUNAと書いてあった。象牙鍵盤と2本ペダルが年式を物語っている。弾いてみると半音位音が下がっている。機械部分は、昔、湿気の多い所に置いてあったであろう修理の痕跡が沢山残っていて上手く行かなくて苦労した跡が至る所に見て取れる。お客様に「60年以上前のピアノだと思いますが本来は、色々と部品交換が必要でそれには、かなりの費用が掛かりますのでとりあえず今日の所は、音の狂いと調整でどうにか気持ちよく弾ける状態にして弾いて頂いてそれからの事は後々考えましょう!」「それでお願いします。」と早速作業に入った。この手の古いピアノの調律は、とにかく低音部の断線に気を付ける事で何回かに分けて少しづつピッチを上げて慎重に調律をする。ピッチ上げの途中に機械の調整や弦合わせや狂った所に手を加えながら作業する事4時間。どうにか綺麗に仕上がりました。この時代のピアノは、コストダウン前のピアノですから丁寧に頑丈に作られているので上手く仕上がるととっても良い音がする。この様なピアノに出会う度に、たとえメジャーブランドのピアノじゃなくても日本人が作ったピアノは長持ちするなと改めて先人の技術者の勤勉さに頭が下がる。何より名前からして響きが可愛らしい!

東洋ピアノ製のプリマトーンのマーク

中身は、慣れ親しんだアポロピアノ

初めてのお客様からメールで問い合わせを頂いた。45年前に購入されたプリマトーンで長年調律はしていないとの事。一度見積もりをお願いしたいとの事でしたので早速お伺いした。外観は、45年の年月を感じさせない3本ペダルの綺麗な状態。ちょっと弾いてみると半音位音が下がって弾ける状態ではない。パネルを外して中を見てみると綺麗だが中身は、東洋ピアノ製のプリマトーンだった。以前にもこのホームページでプリマトーンを2度くらい記事にしていますがこのプリマトーンは、シュベスターピアノ製やレスターピアノ製そして今回の東洋ピアノ製などなどピアノ製作メーカーに大塚ピアノ商会が依頼をしてプリマトーンブランドのピアノを作って貰って販売していた商品です。大塚ピアノ商会は、当時横浜元町にお店があって元町で生まれ育った私の友人達は、皆さん近所よしみでプリマトーンを購入した様です。日本で最古のピアノ屋さんとの事で横浜元町を地盤として当時は、かなりの販売台数を誇った様です。話は戻って45年前の東洋ピアノで機械などは、長年の放置で色々と傷んでいるが調律と調整をすれば弾ける状態になると踏んで金額を提示して作業日を決めた。作業当日は、手慣れた東洋ピアノですから何ら問題なく作業も修理も進み大方集中して3時間ちょっとで作業を終えた。

プリマトーンのマーク何とも可愛らしい

中身は、シュベスターピアノのモデル50かな?

先日お伺いしたピアノもまたまたプリマトーンだった。2本ペダルで年式は、分からないがきっと60年位経ってると思われるが定期的に調律が入っているのでコンディションは良い。このプリマトーンは、シュベスターピアノで作られたピアノでプリマトーンの中では高級なタイプ。以前シュベスターピアノに勤務していてピアノを製作していた友人に聞いたと所そのピアノは、ベーゼンドルファーを参考にしたピアノだそうで機械は、レンナー製で響板は、赤蝦夷松(最高級ピアノ響板で高価)が使用されているそうです。調律を終えて弾くと未だにふくよかで音が良く伸びて大きな音。象牙鍵盤が手になじんで少し弾いているだけで愛着が沸いてずっと弾いて居たくなるピアノ。きっと当たりピアノなんだな!良いピアノだ!ついでに中身のプリマトーンのマークがとっても可愛くてちょっと忘れられない良いピアノだった。プリマトーンがどれもこれも良いピアノという訳ではありません。大半は廃棄されているだろうし弾けるようにするには、かなり費用が掛かるであろう。また、オーバーホールとなれば新品ピアノが買える金額を軽く上回るだろう。しかしシュベスターピアノの熱狂的ファンが居る事実を鑑みるとコストダウン前の時代のピアノは、木材も部品も圧倒的に良い。ちゃんと手を入れれば一生の宝になる事でしょう。

昭和31年1月製造のYAMAHA  U3

昭和31年製造のヤマハピアノ。ここ30年位は、私がずっと管理しているピアノ。もともとマホガニー色だったが年代と共に枯れた色合いになって年代物の赤ワイン色になっているが全く現役状態。良いピアノです。ヤマハが丁寧に良い素材を使って作りあげたピアノは、他社の追随を許さない。ピアノはヤマハと言われる所以は、高い製作技術と高い精度の材料と技術者の情熱に会社の規模。先人たちの技術と情熱で仕上がったピアノは、沢山の思い出を詰め込んで一家の宝となる。私は、年代物のピアノに出会うと持てる技術を全て投入してこの状態をずっと維持する事が調律師としての使命だと考えます。この時代のピアノに触れると先人の技術者とピアノを通じて心が通じ合い技術で会話する喜びに心から調律師としての幸せをかみしめる。

 

 

 

 

 

 

2023年6月の雨に思う事!

ちょっと慌ただしく過ごして居ると6月も半分を過ぎてしまった。この時期に毎年起きる線状降水帯とやらによる災害。既に今年も河川氾濫や土砂災害より多くの被害が報告されている。被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。温暖化による異常気象のせいなのか?町場のピアノ屋には良く解らないが何だかおかしくなって来てるなぁ~くらいは分かる…気がする。そんな中、携帯の写真で昨年の今日とか3年前の今日とか出てくるが6年前の今日の写真が出ていた。今回は、そんな観点からの現在の弊社の様子を記事にしたいと思います。

まとわり着く湿度の中、一人スーツ姿で調律をした(笑)。

前回の記事の後に鎌倉プチロックフェスティバルは無事に出来ましたか?と沢山のお客様に聞かれた。何よりお客様が私のつたない記事を読んで頂いていると云うのがとっても嬉しかった。当日は、開催したんですけど時折降る土砂降りの雨に見舞われて大荒れのフェスティバルでした。天気予報では、週末は雨だったので中止かなぁ~?と想像していましたが準備は万全にしておかなければなりませんので数日前から当日使うピアノの調整はきっちりとしておきました。主催者からは、当日の朝の決定になるとの事で運送屋と連携を取って待っていた所、朝7時に携帯が鳴って「今日やりますのでよろしくお願いします。万一の事を考えてピアノを覆える大きめのブルーシートを購入してます。」と元気の良い声飛び込んできた。天気予報では、午前中曇りで午後雨の予報。9時に海浜公園にピアノを運び込んだ。飲食関係の店や物販のお店のテントでは、忙しそうに準備の真っ最中。私もピアノ調律を始めた。芝生は、雨でぬれていて物凄い湿度。横には大きな水たまりもある。潮風に雨に猛烈な湿気。生ピアノには、劣悪な条件です。時折パラパラと雨が降って来るが大型のテントが二つ用意されてピアノが直接雨に当たる事は無さそうだ。前日に万全の調整をしていたが雨になりそうなのでフェルトの湿度対策と塩害対策を施してどうにか一日問題なく演奏に耐えられるように考えられる全ての準備をした。

今にも降り出しそうに覆いかぶさる雲

フェスティバルは、悪天候にも関わらず大勢のお客様で賑わった。時折の土砂降りの雨では、お客様がテントに避難して演奏者と肩触れ合う距離で演奏を楽しんでいた。晴天の時の開催の賑わいとは行きませんがそれなりに皆さん楽しんで頂けたようです。ただ、出展者の方々は、それは大変だった様で野外フェスティバルの難しさを改めて浮き彫りにすると共に主催者と関係スタッフ達の苦労は、生半可では無いだろうと実感させられた。弊社は、引き続きこのフェスティバルの意を酌んで今後も支援を続けてまいります。

スタッフ4人で縦吊りで搬入した。

出荷調整は、1台3日は掛かるが2台同時進行。

さて6年前の今日の写真ですが、2017年6月18日は、お客様宅に最高級アップライトピアノの納品でした。一軒家の2階にクレーン搬入です。ところが現場でそうそう簡単に搬入出来ない事が分かって急遽応援スタッフ2名の追加要請して援護をしばらく待ってから無事に搬入した事をよく覚えています。その頃は、ピアノの金額が今より少し安かったのでピアノが沢山売れていて納品の最終調整で日々ピアノと格闘していた事を思い出させてくれた。まだたった6年前の事なんですがその後コロナの影響もあってかどうだか買い取り値段が更に高騰してなお、品数が大きく減って今では、大昔の様にピアノは高嶺の花になりつつある。

そんな中、はじめてのお客様宅で綺麗な普通の黒いピアノだけど初めて見る型番でバブル崩壊後の苦難の時代のピアノを調律した。あえてメーカー名や機種は、伏せますがピアノ調律師やそのメーカーの調律師なら一目で分かるでしょう。勿論沢山あるピアノの機種の中のかなり安価な機種なので私も今まで触った事が無くて今回初めて触ってビックリした。鉄骨に弦が張ってあるがフェルトや黒鉛など普通当たり前についている物が見事に何にもない。アクション部分は、写真は撮ったもののこれ載せると何だか直ぐ機種特定出来そうなので載せませんがここまでコストダウンをしなければならない会社事情や日本の金融機関の大混乱をこのピアノを見て感じ思い出される。長年放置されお客様が調律をやっていなかったピアノは、外観はそこそこ綺麗だがピッチがかなり下がっていて狂いに狂っている。それを調律したのですが、ピン味が悪い上に何とも言えない雑な品の無い音。何か違和感を覚えてよくよくピアノを見てみるとなるほどこんなにしちゃって良いのかなぁ~と思う最低限の仕様作られた楽器・・いや工業製品。楽器は、工業製品では無く芸術品ですから魂が込められないと良い音はしない。時代背景と言えどもこのコストダウンピアノでは、残念ながら良い音はしないだろう。とは言ってもお客様の大切なピアノです。縁があって私が調律にお伺いしたのですから今後、このピアノが少しでも良い音になる様に私が魂を吹き込んで行かなければなりません。今後の私に課せられた使命でしょう。良い音にする為に最短の方法を勉強する楽しみと喜びがあります。長年国内外色んなピアノに携わっていますがまだまだ触った事の無いピアノが沢山ある様です。年齢と経験を重ね理解度も増したつもりですが、さらに奥深い世界がある。だからこそ、やりがいは永遠に続く。最近その様に思える。