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60年の年月を嚙みしめて!

2023年10月に入ってようやく秋めいてきましたが、何だか今日はとっても暑い。急に寒くなったり暑くなったり体がビックリしているみたいだ。そんな中、今朝のテレビで「今日は、電球が発明されて144年が経つ日なんです」私は、まだ144年ぽっちなんだ!ちょっとびっくりして調べると1879年10月19日にエジソンが電球を40時間点灯させたとあった。何だ今日じゃないじゃん一昨日じゃん!何て思いながらピアノの発明が1709年ですからざっと314年前。どちらも生まれた時から普通にあった訳ですが生活必需品便利グッズの普及は、あっと言う間です。音楽を聴いて楽しむ道具の普及率は、若者を中心に誰しもがいくつか持ち合わせているでしょうが演奏を楽しむ楽器の普及は、色んな事情からしてちょっと難しい。そんな難題の解決の糸を見出す努力は、多くの仲間達や音楽関係団体の協力して取り組まなきゃなぁ~なんて普段考えもしない事を脳裏をかすめ思わず我に返って今回は、前回の60年前のピアノの続きの記事にしたいともいます。

LANGER ピアノ 

ブランド名も入って居たら、中々良いセンスのマーク

前回の「60年前のピアノと戯れて」を公開した数日後から電話やメールで「古いピアノもそちらならちゃんとやって頂けるとブログに書いてあたので・・・」皆さんそう仰られて私も聞いた事がないピアノだったりの新規の申し込みが数件ありました。その中で私も初めてお目に掛ったピアノ「LANGER」。マホガニー色だったピアノも艶消しの様に塗装が劣化しているが弾いてみるとちゃんと音は生きている。中を見てみるとその造りからして東洋ピアノで製作させたピアノだろうと思われる。かな(笑)?長年調律はやられていないのでピッチが半音近く下がっている。アクション(機械)の方は、動きの悪い所が少しでしたがハンマーと弦の弦合わせが酷い状態で高音部の30数鍵は、3本の弦の2本しか打弦しておらず低音部の二本張りは、隣の弦を同時に叩いている。東洋ピアノ製ですからまぁ~大丈夫だな!と気合を入れて作業に取り掛かった。さぁ~とりあえずざっと弦合わせしてスティクを修理しながら色んな事を同時進行しながら調律を進めた。ピアノの感じからして正に東洋のピアノで作業を進める度にどんどんピアノが蘇って3時間余りの作業時間でしたがそこそこ良い状態に仕上がった。後は、これから徐々に色んな事をしながらピアノを育てていくことになります。

この小さなネジのサビでプレートを外すのに大苦戦

ブライドルテープは、適正寸法に切って取り付ける

鍵盤下からタイムカードが

前回の記事のLA  LUNAピアノのブライドルテープのチップ部分が沢山ちぎれていたの全て交換する事に。アクション(機械)を引き取ってお預かりしての修理です。まぁ~簡単な修理なのでチャンチャンと綺麗に仕上がる予定でしたが大誤算(笑)。大昔、ご実家の近所の調律師さんが何だか全てを分解して色んな事をしたみたいですが一体何をしたのかその修理の形跡は、全く見当たらない。ここからは、ちょっと専門用語と調律師にしか分からない事が続きますがちょっと我慢して読み続けてください。最初にダンパーアセンブリーからウィッペンそしてご丁寧にハンマーアセンブリのバットにも全てに手書きでナンバーリングされている。ハンマーには、最初からナンバーがスタンプされているのにバットにナンバー???何なんだろうと意図が分からなかったが、その謎が作業を始めて直ぐに分かった。バットプレートのネジが幾つも潰れて外れない。いや~困ったなぁ~!色々とよくよくアクション全体を眺めると全てのネジの山が舐められていてメッキが錆で剥がれかけている。サイズの合わないドライバーを力任せに使用するとこうなる事は、私も若い時分に経験している。以前の調律師は、このプレートを緩めてハンマーを外してブライドルテープをボロボロにしてしまったという訳か~。妙に納得したが色んな所を外して何をしたのかはいまだに謎でただ分解して遊んだのかな(笑)。あっという間に外し終える作業も予定外の時間を要して尚、錆び付いたビスの錆取りという余計な作業が増えてしまったが綺麗に仕上がった。前回の記事には書き忘れたがこのピアノ鍵盤下の紙パンチングは、当時自前製作していてこのピアノには、タイムカードが使われていた。従業員がポンチで大量に打ち抜いて作ってたんだなぁ~と時代を感じさせる先輩方の足跡に妙な愛着が沸いて来る。これから先輩達の足跡に恥じない技術を投入して良いピアノに仕上げて行こうと自然と気が引き締まった。

年代を感じる外観だった。

中の鉄骨には、機種・製番など何一つ記載がなかった

次の依頼がBRUEGHLというピアノ。名前は聞いた事はあるが実際過去に触った事があるかどうかは、ちょっと定かでない。調べると坂本ピアノ製造とあるが昔数台管理していたモルゲンシュタインによく似たピアノの様な気がするが何とも定かではありません。以前の調律師さんが調律中に中音部の弦が2本切れて交換せずにとりあえず弾く事が出来る状態にして弦交換しないで帰っちゃったらしい。その後、ピアノは、放置された状態でしたが、奥様がまたピアノを弾きたくなったのでとの調律の依頼でした。とりあえず切れてポッカリ無い状態の所に新しい弦を張った。次に弾ける状態修理の弦にちょっと触れると「バ~ン」爆音がして弦が切れた。当然、そこも新しい弦に張り替えて全体重を掛けて弦を伸ばした。まぁ~高音部ならまだしも中音の交差している所の弦交換は、どんな調律師もやりたくない作業だからまぁ~しょうがないな!とも思える。「まぁ~今日、おじさんが綺麗に元通りにしてあげるから楽しみにしておいで!」と小さな声で呟いで作用に没頭した。このピアノは、ピアノのマークも機種の記載も一切なかったある意味珍しいピアノともいえるがどうにか良い音に仕上がった。

鍵盤下のパンチングクロスも全て新品に

88個一つ一つ古いスプリングを取り払って綺麗にする

新しいスプリングを膠で取り付ける

ハンマーの穴あけ作業

いよいよ嫁入りの準備完了です。勿論椅子の同色に仕上げてます。

今年5月の「コロナ騒動の影響!」という記事にアップした60年前のピアノのお嫁入です。昨年から外装の木工修理から全塗装に加え暑い暑い夏も作業を続けて数カ月掛かっての作業でした。木部を除いてすべてを新品に交換です。特に機械部の細いスプリングは、さすがヤマハの商品、未だにしっかりとテンションが掛かっている。他所じゃこれ交換なんてしないだろうなぁ~とちょっと楽な方を頭に過ぎるが如何せん60年経ってますから面倒臭い細かな作業ですが全てを交換します。接触部分のフェルト類も全て交換となると古いのを取り払って新しいのを取り付ける訳ですから一手間二手間増えてとっても時間が掛かりますが、綺麗に仕上がると何とも言えぬ満足感に満たされるから止められない。新品のハンマーは、それぞれの角度を採寸して穴を空ける訳だが私は、取り分けこの作業が好きで詰まる所、電動工具を駆使して綺麗に仕上げる。結構時間が掛かるが、新品の穴の開いたハンマーが並ぶ光景が特に好きなのです。その後は、地獄の第一整音の針刺しです。一つのハンマーに太い一本針を100回位刺しては抜いてを88個繰り返しますから、もうお手てが痛くなります。60年前のピアノですから如何せん木材の精度が違う。頑強な6本支柱でピアノのねじれはも無く兎に角良いピアノ。色々と手を尽くして全てを交換して仕上がると何ともボリュームのある大きな音に太くふくよかな音に包まれて煌びやかなで明るい音。現代のキンキンした音とは、明らかに違う品のある正に良い音に仕上がった。弊社の倉庫にいらしたお客様も大層に気に入って頂いていよいよお届けとなりました。あ~ちょっと寂しくなるがまだ次から次へとピアノが首をなが~くして待っているから何時までたってものんびりゆっくり仕事なんてましては、完全週休二日なんて無理だな~!なんて浮かれてちょっと思ったりすると「もう幾つになったと思ってるの!いい年なんだからね!いい加減にしなさい!!」妻のとっても怖い顔が浮かんで心臓がきゅっと悲鳴をあげて身が引き締まった。あ~昔は、とっても優しくてかわいかったのに(笑)!60年の年月を噛みしめた。

60年前のピアノと戯れて

2023年9月,暦の上では秋と言えども今年は、特別に暑くて暑くてヘトヘト状態。地球の環境変化に伴う異常気象は、ここ数年は、町場の調律師の私ですら肌で感じ危機感を募らせる位に度を越えている。先日は、昼過ぎに目黒に仕事で出かけるとゲリラ豪雨に遭遇。約束の時間になっても豪雨と雷は、激しさを増し一向に収まる様子はない。しばし待機してやや小降りになった所でお客様宅へ。その後、横浜に戻る途中で横浜方面の空がピカピカしている。目的地は、正にピカピカゴロゴロ土砂降りの真下であった。その後、自宅へ帰ると今度は、鎌倉が雷ゴロゴロの土砂降り。どうやらこの日は、雷に導かれる様に雷雲から雷雲へと移動を繰り返した様だ。大事なくて良かったが途中の道路冠水や猛烈な雨で視界不良。何よりあの雷の音と稲光には何度も肝を冷やした。これから夏の仕事にあり方が変わってくるんだろうなぁ~なんて回転が著しく鈍った頭で想像した。さて今回は、私も過去に2度しか触った事の無い滅多にお目に掛れないピアノの調律や今では珍しいプリマトーンピアノを立て続けに2台調律したりと古い年代物のピアノに携わった様子を今回は記事にしたいと思います。

LA  LUNAピアノのマーク

この時代のピアノは、木材の質と乾燥が良いので狂いが少ない

ネコ脚で小洒落た存在感のあるピアノ

長年お世話になっているお客様から8月に電話が入った。「何時もお世話になってます○○区の○○です。」「あ~お世話になっております。お元気でいらっしゃいますか?」「はい、お陰様で元気にやってます。ところでもう直ぐ調律の時期ですよね?」「9月が時期ですね!」とお応えすると「お隣の方が調律をお願いしたいと仰っているのでご連絡差し上げました。日にちを合わせて同じ日に来ていただけますか?かなり古くて何十年も調律してないんだそうですって」私は、二つ返事で「良いですよ!ありがとうございます」と言ってお隣さんの都合も合わせて日程を決めた。お伺いするとリビングの奥の方にあまり見掛けないデザインだが小洒落た感じの黒いピアノが鎮座している。蓋を開けるとLA  LUNAと書いてあった。象牙鍵盤と2本ペダルが年式を物語っている。弾いてみると半音位音が下がっている。機械部分は、昔、湿気の多い所に置いてあったであろう修理の痕跡が沢山残っていて上手く行かなくて苦労した跡が至る所に見て取れる。お客様に「60年以上前のピアノだと思いますが本来は、色々と部品交換が必要でそれには、かなりの費用が掛かりますのでとりあえず今日の所は、音の狂いと調整でどうにか気持ちよく弾ける状態にして弾いて頂いてそれからの事は後々考えましょう!」「それでお願いします。」と早速作業に入った。この手の古いピアノの調律は、とにかく低音部の断線に気を付ける事で何回かに分けて少しづつピッチを上げて慎重に調律をする。ピッチ上げの途中に機械の調整や弦合わせや狂った所に手を加えながら作業する事4時間。どうにか綺麗に仕上がりました。この時代のピアノは、コストダウン前のピアノですから丁寧に頑丈に作られているので上手く仕上がるととっても良い音がする。この様なピアノに出会う度に、たとえメジャーブランドのピアノじゃなくても日本人が作ったピアノは長持ちするなと改めて先人の技術者の勤勉さに頭が下がる。何より名前からして響きが可愛らしい!

東洋ピアノ製のプリマトーンのマーク

中身は、慣れ親しんだアポロピアノ

初めてのお客様からメールで問い合わせを頂いた。45年前に購入されたプリマトーンで長年調律はしていないとの事。一度見積もりをお願いしたいとの事でしたので早速お伺いした。外観は、45年の年月を感じさせない3本ペダルの綺麗な状態。ちょっと弾いてみると半音位音が下がって弾ける状態ではない。パネルを外して中を見てみると綺麗だが中身は、東洋ピアノ製のプリマトーンだった。以前にもこのホームページでプリマトーンを2度くらい記事にしていますがこのプリマトーンは、シュベスターピアノ製やレスターピアノ製そして今回の東洋ピアノ製などなどピアノ製作メーカーに大塚ピアノ商会が依頼をしてプリマトーンブランドのピアノを作って貰って販売していた商品です。大塚ピアノ商会は、当時横浜元町にお店があって元町で生まれ育った私の友人達は、皆さん近所よしみでプリマトーンを購入した様です。日本で最古のピアノ屋さんとの事で横浜元町を地盤として当時は、かなりの販売台数を誇った様です。話は戻って45年前の東洋ピアノで機械などは、長年の放置で色々と傷んでいるが調律と調整をすれば弾ける状態になると踏んで金額を提示して作業日を決めた。作業当日は、手慣れた東洋ピアノですから何ら問題なく作業も修理も進み大方集中して3時間ちょっとで作業を終えた。

プリマトーンのマーク何とも可愛らしい

中身は、シュベスターピアノのモデル50かな?

先日お伺いしたピアノもまたまたプリマトーンだった。2本ペダルで年式は、分からないがきっと60年位経ってると思われるが定期的に調律が入っているのでコンディションは良い。このプリマトーンは、シュベスターピアノで作られたピアノでプリマトーンの中では高級なタイプ。以前シュベスターピアノに勤務していてピアノを製作していた友人に聞いたと所そのピアノは、ベーゼンドルファーを参考にしたピアノだそうで機械は、レンナー製で響板は、赤蝦夷松(最高級ピアノ響板で高価)が使用されているそうです。調律を終えて弾くと未だにふくよかで音が良く伸びて大きな音。象牙鍵盤が手になじんで少し弾いているだけで愛着が沸いてずっと弾いて居たくなるピアノ。きっと当たりピアノなんだな!良いピアノだ!ついでに中身のプリマトーンのマークがとっても可愛くてちょっと忘れられない良いピアノだった。プリマトーンがどれもこれも良いピアノという訳ではありません。大半は廃棄されているだろうし弾けるようにするには、かなり費用が掛かるであろう。また、オーバーホールとなれば新品ピアノが買える金額を軽く上回るだろう。しかしシュベスターピアノの熱狂的ファンが居る事実を鑑みるとコストダウン前の時代のピアノは、木材も部品も圧倒的に良い。ちゃんと手を入れれば一生の宝になる事でしょう。

昭和31年1月製造のYAMAHA  U3

昭和31年製造のヤマハピアノ。ここ30年位は、私がずっと管理しているピアノ。もともとマホガニー色だったが年代と共に枯れた色合いになって年代物の赤ワイン色になっているが全く現役状態。良いピアノです。ヤマハが丁寧に良い素材を使って作りあげたピアノは、他社の追随を許さない。ピアノはヤマハと言われる所以は、高い製作技術と高い精度の材料と技術者の情熱に会社の規模。先人たちの技術と情熱で仕上がったピアノは、沢山の思い出を詰め込んで一家の宝となる。私は、年代物のピアノに出会うと持てる技術を全て投入してこの状態をずっと維持する事が調律師としての使命だと考えます。この時代のピアノに触れると先人の技術者とピアノを通じて心が通じ合い技術で会話する喜びに心から調律師としての幸せをかみしめる。