9月は、色んな意味で大忙しだった。と言うのも9月は、シルバーウィークという連休があり土日を合わせると11日もの休みがある。すなわち平日は、19日しかないので大企業から中小零細も含めて19日で1カ月分を稼ぎ出さなければなりません。我社の様な業種は、土日も連休も有りませんが、車の渋滞やお客様がお出掛けするなど大なり小なり何らかの影響を受ける。そんな中、年齢的にも色んな役が回ってきて大きな会合の仕立て役で印刷物も4.000枚と資料作りに天てこ舞い。そんな最中に開かれたコンサート。使用ピアノは、Boston。我社も何台ものBostonピアノを販売し管理しているので今回は、Bostonピアノについて書き記したいと思います。
スタインウェイ社は、3つのブランドを展開しておりSTEINWAY&SONSの他にBOSTONそれからESSEXがある。スタインウェイは、アメリカ・ドイツで生産され最高の素材と技術を投入して作られる事は、皆さんもご存じだと思います。そしてBOSTONピアノは、スタインウェイ社が設計・デザインしてKAWAI竜洋工場でOEM生産されているピアノです。そしてESSEXピアノは、同じくスタインウェイ社が設計・デザインをして中国並びに韓国のピアノメーカーで生産されているピアノです。言わば、スタインウェイ社の最高級ブランドがスタインウェイアンドソンズで誰しもが欲しいけれど生産台数も少なく値段も飛び切り高いので高嶺の花になっている。そしてボストンは、日本で生産される量産型で値段も日本製ピアノとさほど大差が無く製品の信頼度が高い。そしてエセックスは、大量生産型で安価な部類にはいる。と3段構えのブランドを構築している。
Bostonピアノの特徴として日本メーカーの高い量産技術で生産される為、比較的安価で音の良さで世界中で人気のあるピアノ。カワイ楽器の内部アクションが新開発ABSなど新素材を使用しているが、ボストンは、全て木製部品で作られている。販売当初は、触った事の無い調律師達が「あれは、河合の音だね、だって河合で作ってるんだもん。」なんて言っているのを耳にしたが、発売当初に我社で取り扱うに当たり浜松のカワイ竜洋工場に生産見学に行って確認した所、響板は、日本製よりも2ミリほど薄くフレームも全てがカワイ製品とは、一目で違う設計になっていた。弾いてみると僕の感じでは、遠鳴りのするピアノで少し離れた所で聴く音は、スタインウェイの様な音がしていて耳を疑った位だった。この音でこの値段、迷いなくその場で販売開始をする事にした。販売の契約を結ぶきっかけは、当時ボストンピアノの普及に取り組まれていたピアノ調律師の三室氏(後にBPCジャパン社長・ディアパソンピアノ社長)が浜松からわざわざ何度となく足を運んで訪ねてこられた。そして当時の総責任者の仲村氏からは、電話や直筆の手紙を何通も頂いた。今では、SNSやメールなど便利になりましたが、人の心を動かすのは、面と向かって会う事と直筆の手紙・・・これには、敵わない未だその手紙は、大切に仕舞ってあります。
9月の忙しい最中のある日、ピアニストの津山知子さんより携帯に電話が入り「10月3日にある非公開の場所でコンサートを開くんですけどピアノが鳴らないの」と悲痛な声。「主宰者が、毎日ここに弾きに来ればそのうち鳴るようになりますよ・・と何日も弾きに来ているんだけどどうにも鳴らないの」そこで僕は、事前にピアノを下見する約束をして後日、その場所に向かった。非公開の場所なので何処とは言えませんが、行ってみても場所が分からない、通りすがりの人に聞いても皆知らない。津山さんに電話して電波状態が悪くてつながらない。しばらくの間呆然と立ち尽くしているとテクテクと津山さんが歩いて迎えに来てくれた。案内されるままにそこに到着するとただの家!僕は、「ここですか?」と聞くと「そうなんですよ~。でも、中に入るとビックリするわよ!」とドアを開けて入ると、まぁ~それはそれは・・・中は、古民家を移築してあり外観からじゃ分からなかったけれど相当に広い。そして数え切れないほどの古美術品の展示がありとあらゆる所に。本物かどうかは、僕には分からないけれど物凄い数の展示、そこいらの美術館の比じゃない。ヒラリー・クリントンさんが訪日中にお忍びで訪れたと聞いて・・・へぇ~本物なんだと直ぐに信じて感心する所は、調律師だからしょうがないにしても総額いくらなんだろう?鑑定団に出すといくらの値段が付くのだろう?とか泥棒入らないのかな?だから非公開の場所なんだとか、くだらない事を考え巡らせながら地下のホールに案内されると60~70人位入る広い部屋に見事な屏風に囲まれたボストングランドが鎮座している。すぐさま弾いてみると案の定鳴らない。津山さんが「ねぇ~鳴らないでしょう・・どうにかなるかしら?」特に主旋律を弾く次高音のボリュームが著しく鳴らない。「当日は、調律の時間どの位とれます?」と聞くと「私は、ここに13時に来て1時間位リハーサルして2時から着替えに入るから」と僕は、「じゃ~午前中9時から13時まで4時間貰って14時過ぎから開場の15時ま時間がありますね!それだったら、どうにか納得出来るレベルに仕上げてあげられると思います。」と伝えると満面の笑みをみせて「安心した~」と大層に喜んだ様子に僕は、逆にプレッシャーをかけられた。
当日、朝9時から作業に取り掛かる。時間配分として10時30分まで調律の作業してその後、鍵盤調整から整調作業で11時45分それからハンマーの整音関係に取り組んで最終仕上げで13時じゃ余裕だな!と楽しい気分で作業に取り掛かった。ピアニストがタッチがモタモタして弾きにくいと言っていたのでアクション関係・鍵盤関係が俊敏に動くようにしてあげようとアクションを出して見てみると湿気の影響で相当数の深刻な状態のスティックがある事が分かった。鍵盤も全てバラして調整するには、意外に時間が掛かるなぁ~。どうしよう?まぁ本番は、15:30分からだからと思い直して15時までに仕上がれば良しと時間配分を変えて大掛かりで時間的にちょっとリスキーな作業をやることに変更した。集中して順調に作業を進めて予定より早めにハンマー関係に入ることが出来たが、次高音の音が中々出ない・・・・ハンマーにファイリングが歪にされていて同事発音もバラバラで良い状態じゃない。前に相当針を刺している様子。そして会場の天井が低く残響音が著しく少ない。客席とピアノのそばでは、音の聞こえ方が全く違う。などが分かったので腹を据えて作業に没頭した。13時ピッタリにピアニストが到着。早速弾き始めると彼女の顔が一瞬にして曇った。「この程度ですか?」僕は、「客席には、良い音が届いているんですよ、僕が代わりに弾きますからちょっと聞いてみてください」と言って僕が弾くと「本当だわ!でも弾いてる人に音が来ないわね~」僕は、「今から一番良い音のする所にピアノを動かしますからまず場所決めをしましょう」と言って低い天井と張り巡らされた梁の位置から試行錯誤しながら二人で最適の場所を決めた。譜面台の位置を慎重に選んで印をつけた。そして「リハーサルをしてちょっと弾いて貰ってその後、作業して見違えるようにしてあげますから。」と言うと「相当に良くなったけどお願いします。」と力無い声が返ってきた。
リハーサル中にピアノもすっかり目を覚ましてくれてガンガン鳴り始めた。ピアニストも「良くなってきたわ」と気分も良くなって来たらしく、僕もちょっと安心をした。14時過ぎに最終仕上げに入り調律と同時発音など集中して1時間作業をした結果。どうにか満足のレベルに仕上がりいよいよ本番が始まる。満席でピアニストが演奏を始めると先程の音とは、全く違い良い響きを奏でている。ピアニストも演奏しながら満足そうな様子にほっと肩の荷を下ろした。前半が終えるとピアニストが僕の所に駆け寄り「ピアノ良いわよ!」とキラキラした顔で笑った。後半に入り彼女がお客様に「ここは、ご覧の通り美術品が所狭しと展示されています。この素晴らしい古美術品に囲まれて私は、インスピレーションを感じ得ました。今からそのインスピレーションを皆さまに演奏でお伝えします。」と告げて演奏を始めた。独特の環境にお客様の抱く感情が重なり合い豊かなメロディーが流れる。クラッシックの演奏法で弾く即興演奏、ジャズ、クラッシックと聞き覚えのあるメロディーを交えて喝采とブラボーの嵐の中、コンサートが終えた。それと同時にどっと押し寄せる疲労感。時間的にも作業内容を考えるとかなりタイトな一日、今回は相当に疲れ果てましたが、次回は、ちゃんとしたホールで響きも良くピアノもスタインウェイなので、今回の様な疲労困憊な作業は、なさそうだ。。しかし世の中には、こんな場所が存在するのですね~今思い出すとお客様の中に著名人などそうそうたる顔ぶれだった。非公開だからお伝え出来ないけれど不思議な所だったな!でも、あれだけの古美術品の収集しているのだからピアノは、アンティークのSTEINWAY&SONSだったらなんて想像してもあの屏風とじゃ、ちぐはぐでインスピレーションも沸かないか・・・(笑)!