コンサート当日、朝9時前にお寺に到着。仲田住職から「おはようございます」と元気に声を掛けられる。それだけで人間て良い気分になります。早速ピアノを確認すると昨夜の熱帯夜で音が少し下がっているがエアコンで温度が一定すれば大丈夫だなと思いまずは、アクションを引っ張り出して鍵盤とか取り外して接触部分の潤滑を良くする作業を始めた。やはり湿気の影響で動きが少し気になる所が多数あったんでじっくりと時間を掛けて調整していると音響スタッフさん達が続々と機材の搬入やセッテイングを始めた。クラッシックコンサートではお目に掛らない機材が続々とセッテイングされていく。そうこうしていると西脇氏がおはようございます!と現れて分解されたピアノを見て「お~凄い、なかなかこの状態のピアノって見る事出来ないですよね!」と言って写真を撮り始めた。続々と機材のセッティングが進んでいるので急ぎ作業を進めてアクションを組み立てて最終調律をして皆さんの迷惑にならない時間にピアノの準備が整った。早速、西脇氏がピアノを弾き始めて延々と弾いている。私は近づいて「どうですか?」と聞くと「良いですよ!弾きやすい。これってクラッシックにもこの状態で行けますよね。」と言いながらかゆい所に手が届くような気持ちの良い顔でピアノを弾く姿に調律師として存分な満足が得られた。そうこうしていると今回のボーカル担当の明石隼汰氏とギター担当の井口慎也氏が到着。早速、リハーサルが始まった。前回もこのメンバーの演奏だったので知ってはいましたがリハーサルと言えどももう既に出来上がっちゃって明石氏のボーカルは抜群の安定感。彼は、作曲家で数々のコマーシャルソングを提供して有名で尚且つ明石メゾットという作曲法を若手に伝授するなどこれまた音楽の造詣深いミュージシャン。彼のリズムをとる仕草が何だか可愛くて個人的にファンなんです(笑)。そうこうしていると佐藤竹善(sing like taiking)氏が到着、入念なリハーサルをして万全を期した。
本番は、時間通り開演されフレディ・マーキュリーの誕生日を祝って始まった。よりによって私の登壇する事になったのですが調律師は、大方、人見知りで口下手で舞台裏での仕事ですから決してお客様の前なんぞに出てはいけません。しかし今回は西脇氏の誘いで登壇した物の西脇氏や明石氏そしてスペシャルゲストの佐藤竹善氏のそれぞれのファンに囲まれてファンの居ない調律のお爺さんは、何だか居心地が悪く頭が真っ白になって記憶喪失になってしまった(笑)。小中学校でやる授業では、かなり流ちょうにしゃべるのに高額なチケット代が発生するプロのコンサートは、正にエンターテイメント。その場に立つ資格がある人と云うのは特別な存在なんだと改めて痛感した。コンサートは、大盛況でプロジェクターで整音のビフォーアフターやジャングルピアノの映像など斬新な企画は他に類を見ない特別なイベントとなった。そして佐藤竹善氏の声は、澄んだハイトーンでとっても気持ちよく会場に響き渡り何より上手い。ギターの井口慎也氏は、ブライアンメイを彷彿させる抜群のテクニック。全員が正に極上のエンターテナーで最後は、お客様共々大合唱で割れんばかりの拍手に包まれて至高の時間が終えた。一流のミュージシャンによる一流のエンターテインメントに酔いしれたお客様達の満足げな顔顔顔。クラッシックの世界では想像できない光景に本番に掛ける情熱の差を感じざるを得なかった。先日開催されたパリ五輪の閉会式でもクイーンのwe are the championが流れていたが50年近く経っても古さを感じず愛される曲。クイーンの面々が楽曲やレコーディングに掛けるアイディアや情熱そしてその完成度の高い取り組みに何時もはクラッシックの世界で生きている私に音楽のジャンルに垣根が無い事を改めて再認識させられた。今回は、ジャングルピアノを作ってみたりクイーンの曲や本を読み漁ったりと面白い事や勉強になる事が沢山ある反面で忙しい中苦労もそれなりにあった。しかし今となっては、一流のエンターテイメントのイベントの企画の一端を担える事が出来てとっても良い経験が出来た。何より西脇辰弥氏がピアノの仕上がりにとっても満足して気持ちよさそうに演奏される姿は、正に調律師冥利つきる地元鎌倉での一生の思い出となった。
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