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Discover Queen フレディのジャングルピアノ作っちゃった! Vol.2

さて今回は、Discover Queen in鎌倉 覚園寺の本番前日から本番当日の様子を書き記したいと思います。と申し上げるのも今回のコンサートは、西脇辰弥氏がフレディ・マーキュリーのピアノに着想し色んなアイディアを持ち込んで通常ではお見せ出来ない様な事も披露してお客様に喜んで頂こうと企画されたコンサートです。それに私が光栄にもいや僭越ですが抜擢され協力させて頂いた訳です。

今回の企画の一弾として使用するピアノの整音前と整音後、いわゆるビフォーアフターを録画録音してその違いを当日お客様に聞き比べて頂くという企画です。このミッションは、フレディ好みのピアノの音にして欲しいとのオーダーに応えて前日の午後2時に調律スタートして3時30分位に西脇辰弥氏とスタッフが来て調律だけ終えた所で収録。その後、整音作業を収録しながら整音後のフレディのピアノの音に変わった所を収録してその違いを放映すると言う段取りです。ピアノは、YAMAHA C3で50年位前のピアノ。フレディが生涯所有使用したYAMAHAのグランドより一回り大きいが丁度年式が同じ位です。ピアノの状態はというと5月に私が調律したままその後何度か使用されたものの調律はされていませんでしたがピッチの狂いも少なく調律の状態は大変よろしい。しかし如何せん鎌倉の湿気が影響してタッチがやたらめったら重たく弾きにくい!音色は、湿気の影響もあるが重みの無いペタンとした音色でふくよかさが無く音の伸びも物足りない。全体のボリュームも低く鳴りが悪い。色々とやる事がそれこそやたらめったら多く面倒で大掛かりな作業になるが、覚園寺住職の仲田さんが西脇氏と私を信頼してピアノに手を加える事を承認して頂いたので覚悟を決めて今日明日存分に手を入れる事にした。

コンサート前日、私は予定よりちょっと早めに到着したので1時30分から調律を始めた。ピッチは、A441Hz指定なのでピッチ下げ調律と言っても1HZ下げるだけなので大した事はありません。順調に作業が進んで1時間ちょっとで調律が終えた。西脇さん達は、3時30分過ぎに到着との事だったのでアクション(機械部分)の動きのスティック(湿気になどで悪い所)が沢山有るのでまずそれを全て修理した。次にハンマーの歪な所を修正して同時発音の調整。整調は、特にバックチェックの調整が酷かったので全て調整をしたところでもうそろそろ来るかなぁ~と頭をよぎったが作業を始めるとどんどん音が蘇ってくるのでもう楽しくてついつい基本的な部分の整音作業に取り掛かってしまった。あかんあかんビフォーアフターだった!と我に戻った所に「おはようございます」と西脇辰弥氏が現れた(笑)。早速、弾いて頂いて直ぐに撮影に入った。「通常の調律が終えた所です。弾いてみますね!」と言ってピアノを弾き始める「綺麗な音がしてます。ちょっとまろやかな感じです」などと流ちょうにおしゃべりをしながら「これから梅根さんにこのピアノをフレディ好みの音にしてもらいます。」と撮影を終えていざ整音作業に入る。この作業は、ハンマーのフェルト部分に針を刺して音色を自在に変える作業ですが調律師それぞれに秘伝の方法があってこれを公表する事は通常ありません。しかし西脇氏の探求心の深さは目を見張る物があって私が整音作業をしている間、ずっとビデオと写真を撮りながら音色を聞いて質問してくる。驚いたのが私が針を刺してほんのわずか音を変化させると直ぐにそれを聞き分けるのには正直驚いた。音を聞くという作業は、調律師にとって特に重要な修行であるが彼は既に聞き分けていたのでどっかで修行したのかな?なんて思ったりもしたがクラッシックにも精通した一流ミュージシャンだったと思うと妙に納得できてその理解のやりとりがとても楽しかった。随分長い時間掛かったが整音が終えてフレディの好みの音に仕上がった。早速、弾いて頂いて撮影を始めた「いま、整音という作業が終えた所です。ちょっと弾いてみますね♪♬~どうです全然変わりましたね!フレディの好みの音になりました。」と言って笑顔で撮影を終えたが西脇氏は一向に弾き止まない。あ~良いですね~このピアノ欲しい(笑)と言いながら延々と色んな曲を弾いて口元が緩んでいる様子を見てとっても嬉しい気分になった。「明日は、どんな作業をされるんですか?」と西脇氏が言うので私は、「このピアノタッチが重くて弾きにくいのでアクション(機械)全部分解して弾きやすくします。」「え~それも明日撮っても良いですか?」というので「良いですよでも明日の午前中で映像は本番に間にあうんですか?」と聞くと「大丈夫です!」と返事が返って来た。映像には全く知識の無い僕には、正にプロ集団恐るべしです(笑)。

コンサート当日、朝9時前にお寺に到着。仲田住職から「おはようございます」と元気に声を掛けられる。それだけで人間て良い気分になります。早速ピアノを確認すると昨夜の熱帯夜で音が少し下がっているがエアコンで温度が一定すれば大丈夫だなと思いまずは、アクションを引っ張り出して鍵盤とか取り外して接触部分の潤滑を良くする作業を始めた。やはり湿気の影響で動きが少し気になる所が多数あったんでじっくりと時間を掛けて調整していると音響スタッフさん達が続々と機材の搬入やセッテイングを始めた。クラッシックコンサートではお目に掛らない機材が続々とセッテイングされていく。そうこうしていると西脇氏がおはようございます!と現れて分解されたピアノを見て「お~凄い、なかなかこの状態のピアノって見る事出来ないですよね!」と言って写真を撮り始めた。続々と機材のセッティングが進んでいるので急ぎ作業を進めてアクションを組み立てて最終調律をして皆さんの迷惑にならない時間にピアノの準備が整った。早速、西脇氏がピアノを弾き始めて延々と弾いている。私は近づいて「どうですか?」と聞くと「良いですよ!弾きやすい。これってクラッシックにもこの状態で行けますよね。」と言いながらかゆい所に手が届くような気持ちの良い顔でピアノを弾く姿に調律師として存分な満足が得られた。そうこうしていると今回のボーカル担当の明石隼汰氏とギター担当の井口慎也氏が到着。早速、リハーサルが始まった。前回もこのメンバーの演奏だったので知ってはいましたがリハーサルと言えどももう既に出来上がっちゃって明石氏のボーカルは抜群の安定感。彼は、作曲家で数々のコマーシャルソングを提供して有名で尚且つ明石メゾットという作曲法を若手に伝授するなどこれまた音楽の造詣深いミュージシャン。彼のリズムをとる仕草が何だか可愛くて個人的にファンなんです(笑)。そうこうしていると佐藤竹善(sing like taiking)氏が到着、入念なリハーサルをして万全を期した。

 

本番は、時間通り開演されフレディ・マーキュリーの誕生日を祝って始まった。よりによって私の登壇する事になったのですが調律師は、大方、人見知りで口下手で舞台裏での仕事ですから決してお客様の前なんぞに出てはいけません。しかし今回は西脇氏の誘いで登壇した物の西脇氏や明石氏そしてスペシャルゲストの佐藤竹善氏のそれぞれのファンに囲まれてファンの居ない調律のお爺さんは、何だか居心地が悪く頭が真っ白になって記憶喪失になってしまった(笑)。小中学校でやる授業では、かなり流ちょうにしゃべるのに高額なチケット代が発生するプロのコンサートは、正にエンターテイメント。その場に立つ資格がある人と云うのは特別な存在なんだと改めて痛感した。コンサートは、大盛況でプロジェクターで整音のビフォーアフターやジャングルピアノの映像など斬新な企画は他に類を見ない特別なイベントとなった。そして佐藤竹善氏の声は、澄んだハイトーンでとっても気持ちよく会場に響き渡り何より上手い。ギターの井口慎也氏は、ブライアンメイを彷彿させる抜群のテクニック。全員が正に極上のエンターテナーで最後は、お客様共々大合唱で割れんばかりの拍手に包まれて至高の時間が終えた。一流のミュージシャンによる一流のエンターテインメントに酔いしれたお客様達の満足げな顔顔顔。クラッシックの世界では想像できない光景に本番に掛ける情熱の差を感じざるを得なかった。先日開催されたパリ五輪の閉会式でもクイーンのwe are the championが流れていたが50年近く経っても古さを感じず愛される曲。クイーンの面々が楽曲やレコーディングに掛けるアイディアや情熱そしてその完成度の高い取り組みに何時もはクラッシックの世界で生きている私に音楽のジャンルに垣根が無い事を改めて再認識させられた。今回は、ジャングルピアノを作ってみたりクイーンの曲や本を読み漁ったりと面白い事や勉強になる事が沢山ある反面で忙しい中苦労もそれなりにあった。しかし今となっては、一流のエンターテイメントのイベントの企画の一端を担える事が出来てとっても良い経験が出来た。何より西脇辰弥氏がピアノの仕上がりにとっても満足して気持ちよさそうに演奏される姿は、正に調律師冥利つきる地元鎌倉での一生の思い出となった。

 

DiscoverQUEEN フレディのジャングルピアノ作っちゃった!VOL.1

2024年9月7日土曜日にDiscover QUEEN in覚園寺が開催された。天気に恵まれチケット完売の満席。日本各地からお集まり頂いた大勢のお客様に最高のパフォーマンスをお届けした素晴らしいコンサートでした。今回の記事は、この特別なコンサートの調律を担当するに当たり弊社で色々と試行錯誤しながら準備した様子からコンサートの裏の様子などを2回に分けて記事にしたいと思います。

随分前の事ですがDiscover QUEENの西脇辰弥氏が事務所社長と共に弊社にいらして「フレディの誕生日にフレディ・マーキュリーとピアノというちょっとマニアックなイベントを開催したいのですが、梅根さんに是非協力して頂けないかと思いまして?」と打診を受けた。あの著名な西脇辰弥氏がわざわざ私に声を掛けてくださるだけでも大変光栄な事なのにと思い嬉しくて大して深く考えもせずに二つ返事で引き受けた。その時に「キラークイーンという曲で使用されているピアノは、プリベアードピアノもしくはタックピアノを使用したとされているんですが、どう思います?」と聞かれたのでその場ですぐにステレオでキラークイーンを掛けて聴いてみた。出だしの音からチェンバロとピアノの音が混じった様な音で和音を刻んでいる。50年前の曲ですから久しぶりに聴きました。私は、「確かに確かに!」とうなづきましたが私の経験からして「これはタックピアノじゃないと思いますけどなぁ~??」と最後の語尾に力なく微妙な返答をしたが私なりの根拠があって50年前の楽器や録音機材を想定しても他の方法だと私は思った。そんなやり取りから月日が経っていよいよ今回の日程が決まった。再び西脇辰弥氏が弊社を訪れた様子は、前々回の記事にアップしている。

40年前に先輩調律師3名と共にタックピアノを製作した事を克明に記憶している。先輩調律師がチェンバロピアノ(タックピアノ)の部品をヨーロッパで購入して来たので作ろう作ろうと盛り上がったのでした。流石に販売しているピアノを改造する訳には行かないので倉庫で廃棄処分するMATSUMOTOピアノに装備する事にして4人掛かりであっという間に完成した。さぁ~いざ弾いてみるとチャリーンとしたチェンバロの様な音がしてとっても面白かったのですが連打が難しい、弾き方によっては2度打ちしたり2度目・3度目の音が出なかったりまた、連打の時に音粒がそろわない。4人で知恵を絞って調整調整を繰り返すが問題が改善に至る事は無かった。まぁ~チェンバロだからやたらと早い3連符の和音なんて無いしチェンバロと違って若干強弱が表現できるなんて慰めを言い合いながら「なんちゃってチェンバロピアノ」を代わるがわるバッハなどを弾いて先輩達はそれなりに満足をした様子だった。私も弾いてみて正直「楽器としては、とても使えないな!」と口にすると先輩に「まぁまぁ~おもちゃみたいな物なんだから真剣に評価するな!」とやんわりとガツンと叱られて先輩に対してその言動を大いに恥じた事を強く記憶している。その使えないと判断したタックピアノをあのクイーンがレコーディングで使用したのか?楽器としてとても使えないと評した代物を。まずはそこが引っ掛かった。もしそのレコーディング調律師が僕だったらと考えてキラークイーンの音合わせで演奏した時にピアノの音がブライアンのギターの音に被っちゃうね!フレディの音域に被っちゃうね!これチェンバロが良いんじゃない?とかピアノにチェンバロを上から被せる?とか色んな案が出たんだろうなと思う。そこでフレディがタックピアノ試してみたいから持ってきてよ!てな感じになったんじゃないかなと勝手に想像した。その時に担当調律師が私なら「はい!良いですよ。直ぐに用意します。でもちょっと高いですよ~!」なんて言いながらもメンバーの納得の行く方法を3つ位模索して用意すると思う。①物凄く念入りに調整をしたタックピアノを用意する②小型のアップライトピアノのハンマーをニューヨークスタンウェイ方式でハンマーをガチガチに固めて甲高い音にした後コンプレッサーで叩いて録音してノーマライズした後にイコライザーやフェイザーなどで最終的に音色を決める③中高音の一音3本の所を2本しか弾かない様に弦合わせをして端の部分だけに直に鋲を打つ。等の方法をレコーディングの為に準備する。僕ならそうするかな?と想像した。しかし想像を繰り返すだけではと思い8月の暑い暑いお盆休みに意を決してタックピアノを作ってみる事にした。

40年前と違ってタックピアノの部品が何処をどう探しても無いので代用品を吟味したり40年前の失敗を繰り返さない様に色々とテストを重ねてお盆休みなのにAmazonに発注して当日・翌日に部材全てを取り揃える事が出来た。さすがAmazon凄すぎる!てな具合で弊社の商品に改造して取り付けてみた。いざ弾いてみると「お~良いじゃん良いじゃん~!これ使えるな!」40年前と違ってYAMAHAのピアノに取り付けたという事が大きく精度の高いピアノに正確な取り付けと調整を繰り返してキラークイーンの音と演奏を見事に再現する事が出来た。意気揚々と西脇辰弥氏に連絡を入れると直ぐに弾きにいらした。「お~これですよ!フレディのジャングルピアノですよ!」と言って完成を喜んでしばらく弾いて動画を撮って当日のコンサートで上映する事になった。実際にジャングルピアノ(タックピアノ)を作ってみて新発見や製作のコツも分ったし何よりとっても面白かった(笑)!西脇辰弥氏にもお墨付きを頂いてキラークイーンはタックピアノを使用した事がここに証明出来た訳です。もう一台作ったら更に完璧なフレディもビックリのジャングルピアノが出来るだろう。このデジタルの時代に今更タックピアノを真剣に作るなんて世界広しと言えども僕だけかな?と何だか不思議と充実感と笑いが込み上げた。次回VOL.2は、コンサート前日のピアノの調律・整音と西脇氏とのやりとり。そして感動の本番の様子を近日中に記事にします。お楽しみに!