9月の末に自分の不注意で大型プリンターが右足のすねに倒れてきて圧迫骨折をしてしまった。もう1カ月過ぎたが未だ完治しない。年と共に直りが遅くなっているのを実感する。パンパンに腫れた足を引きづりながら仕事をしているとピアノ調律の仕事で足の踏ん張りが大きく作業効率に影響している事を実感する。意外に肉体労働なんだと気づいてしまった。これが最近思う事?まぁそれもありますが、50年以上前の古いグランドピアノを調律していてちょっと嬉しかった事、考えさせられた事があったのでここに書き記したいと思います。
写真にあるイースタインというピアノ。お客様が昔ピアノの先生より譲り受けたピアノで他の調律師からは、いつも買い替えを勧められるのでもう20年位調律をしていない。初めてこのピアノに触れた時に僕もこれはダメだな・・・と思いました。弦は錆びだらけで伸びきっている。スティックも多く音もこもって鳴らないし何しろピッチが半音近く下がっている、今までの調律師の管理の悪さも重なって最悪のコンディション。お客様は「もう30年位ここにあるし愛着もあるんですよ。孫が使うからどうにかなりませんかね」と言われるので「どうにか頑張ります」と言って作業に入った。
とりあえずざっと調律をして様子を探ろうと思いきやアクションの色んな所でスティック(機械部分が動かない)があり調律も出来ない。掃除機をかりて掃除から始める50数年分の埃でアクションを引っ張り出すのも一苦労。どうにか掃除を終えて機械の修理も終えて調律に入る。弦が古くてピッチを上げるのが怖いが何度かに分けてようやくA442HZに上げた。次にアクションを庭に出して変摩耗しているハンマーをファイリング(削り形を整える)する。50年以上前のハンマーは、フェルトの劣化も激しい。丁寧に作業を終えてピアノを弾いてみてもさっぱり音は、良くならない。とりあえず調律を仕上げて整音で音色を整えるとすっかり外は、暗くなってた。
翌年に調律にお伺いするとピッチは、思いの外下がっていなかったが音は、相変わらずかったるい音がしている。今回は、鍵盤調整からアクションの整調など前回時間が無くて出来なかった事を一からやる事に。このピアノは、ベッティングスクリューが無いピアノで古いヤマハのグランドピアノも同時期の物には付いていない。これが付いていないと調整にやたらと神経を使うが頼りになるのは、耳で総合的に愛情込めて作業しないとピアノがヘソをまげて決して良い音なんか出してくれない。バランスパンチングクロスなどは、昔の作業方法で黒鉛を多用した事で黒く色付いている。当然、フロント・バランスのブッシングクロスも真っ黒に黒鉛が丁寧に?塗られていたので、全てクリーニングして取り除くのに相当な時間が掛かった。整調・調律を終えるとまたまた外は、暗くなっていた。
今年、お伺いするとお子さんが毎日弾いているらしく随分蘇って来たがまだちょっとかったるい音。もう一度整調をみて調律をすると随分伸びやかな澄んだ音になった。ハンマーに針を刺す整音作業をもう一度やると気持ちの良い澄んだ音に蘇った。いっとき気持ち良くてピアノを弾いているとお客様が「いや~良い音になりましたね~」と喜んでくれた。僕自身気持ち良くて笑いが止まらない!作業を終えると外は、まだまだ明るかった。
写真のピアノは、別のお客様がアメリカで購入して日本に持ち帰ったピアノでコーラー&キャンベル。中を開けてみると韓国のサミック社製造のピアノです。まったく同じピアノで日本の大型販売店が販売していた別の名前のピアノを知っています。そのピアノは、かなりの粗悪品で鍵盤は、調整されていないので凸凹していて深さは、13ミリや11ミリとまばらでハンマーは、ちゃんと3本の弦を捕えてなく音は、キンキンカンカンである。ピンは、やたらめったら堅くておいそれとチューニングピンが回らない完全粗悪品ピアノがありました。今回のピアノは、中身も全て全く同じ商品で名前だけが違うピアノでありながら、全く別のピアノでした。ややピンは堅めですが良いタッチで良い音がしている。よくよく見てみると各部の調整が行き届いていて良いピアノなのです。要するに大手販売店は、年間仕入れ台数契約で仕入れ価格を叩いて販売する。メーカーは、生産に追われしかも卸値が安く儲けが少ないので人手の掛かる調整を適当にやるいや省く。要するに何から何まで適当でそれを仕入れてまた、シロート相手だからと調整もせずに適当な事を言って其のまま売って儲ける。当然、お客様達は、不信感を募らせる事になる訳です。ここで僕が思う事は、その様なピアノでも我々調律師が面倒臭がらず丁寧に調整を重ねる事でその様なピアノでも蘇って良い音になる訳です。当然、作業をするのですから料金が発生します。お客様がド~ンと予算を掛けて頂ければ直ぐに良い状態にする事も可能ですが予算を工面出来ない場合は、予算を掛けずに何回かに分けて作業をして最終的に良い状態に持っていく方法もあります。他の技術者からは、「そんな事やってたら儲からないよ!」なんて言われちゃうかもしれませんが、考えてみたら調律にお伺いする度に今回は、あの調整をやろう、あれを上手くやり遂げるには、どうしたら良いのかなんて考え・工具をそろえたり・新たな技術に挑戦したりそれだけでも楽しく良い勉強になります。調律師が来る度にピアノを弾けないお客様(おじいちゃん・おばあちゃん・ご両親)にも分かる位に変って喜んで頂ける訳ですから当然、信頼関係も築けてつまりは、長いお付き合いが出来る訳です。我々ピアノ調律師は、真面目にコツコツと愛情込めてピアノに向かいお客様に喜んで頂いてピアノも喜んで、技術料も貰えて自身の技術の向上に喜びを覚え八方丸く収まるなんて笑いが止まりません!これでもっと儲かったらジェジェジェいやビックリポンだ(笑)!