インド人もビックリ調律記!

気付いては居ましたが、もう9月。8月中に記事をアップしなければと思いながらこの熱い暑い日々だけで我々の仕事は、集中力を欠いて思いの外体力を消耗してしまい普段から回転の悪い頭が更に回らなくなる。本当に申し訳ございません。今回は、そんな暑い日々の仕事の様子を記事にしたいと思います。

それにしても今年の夏は、異常です。先日、インド人の友人から電話が入り「日本は、どうなってるの!インドより暑いよ!」と「日本人も毎日カレー食べて過ごせば少しは、涼しく感じるのかなぁ~?」と冗談で切り返すと真剣に「何食べてもこの暑さは、ダメよ!」とただでさえ語尾がキツイ彼が本当に参っているみたいで何だかこの調子で日本は、大丈夫かなぁ~と心配になった。

毎年8月初旬にお伺いする客様宅に電話を入れると「今年もお盆休みに孫たちが来るのでその前に調律お願いします。」早速、お伺いしてピアノの部屋に通して貰ったら「今年は、エアコンが壊れてるみたいなの。ちっとも涼しくならないのよ。大丈夫かしら?扇風機があるからこれ使ってください」エアコン壊れてる!温度計で測ると室温36℃。この数字を見ただけで一気に汗が噴き出てきた。ガンガンに扇風機を回して作業に入るが汗でびっしょりになって集中力が一気に低下していった。年をとるとこういった事に対する抵抗力が無くなる。どうにかこうにか全ての作業をふらふらになって終えるとお客様が冷たいお茶を持って入って来た。「あら~やっぱり暑いわねこの部屋。今年は、エアコンが壊れていてごめんなさいね~!」私は、「いえ、こちらこそ汗だくになっちゃって(笑)!」「エアコンを入れると熱い風しか出なくなって孫たちが来てもこれじゃ~ピアノ弾けないわね(笑)。」と言いながらエアコンのスイッチをONにした。「ねえ~おかしいでしょう?もう古いししばらく使ってないから壊れちゃったみたい」と言うのでリモコンを手に取ってみてみると発色の悪い液晶画面には、大きく薄く暖房!!!「これ暖房になってますよ!」と言ってすぐに冷房に切り替えてあげるとちょっとして涼しい風が出てきた。お客様は「あら~ごめんなさいね~(笑)。壊れて無かったのね。ピアノとエアコン修理してもらってとっても助かったわ~」と大喜び。喜んで頂いてとっても良かったが、何だか釈然としないなぁ~(笑)!まぁ~良いか!

そんな中、鎌倉のとても由緒あるお寺の調律。当然のことながら由緒あるお寺の本堂には、エアコンはありません。音が出ない所が沢山あって音も沢山狂っている。早速、作業に入り故障個所のチェックをして修理に入る。本堂は、天井が高く窓からは、気持ちの良い風が通る。気温は、高いが体感温度は低い。しかし汗は、噴き出る。その気持ちの良い風には、潮の香りが含まれていてその風がピアノを直撃している。一年365日雨が降ろうが雪が降ろうがこのピアノは、この風にさらされているんだと思うとこの故障は、十分うなづける。ハンマーフェレンジセンターピン交換にジャックのセンターピン交換とウィッペンも鍵盤バランスクロスにフロントクロスもなんてあれやこれやと進めていると、もう全部じゃん(笑)!場所の変える事も出来ないので今日一番良い状態に戻してあげてまたおかしくなったらその都度対処するしかありません。本堂には、お参りにいらっしゃる方々が途切れず中には、観光客で外人カップルは、本堂で長々と涼んで調律の様子をしばし眺めていた。この暑さは観光といえども大変だぁ~!彼らも本国に帰ったら「日本は、インドより暑いぞ!」と皆に言うのかなぁ~?

前回のスタンウェイお披露目コンサートの1週間後に友人宅ホールでヴァイオリン・ピアノのジョイントリサイタルが開かれた。今回は、友人の関係者からの依頼で開催されるので私は、どんな演奏者なのか全く分からず数日前に友人に「調律するのにどんな曲弾くのか教えてくれないと困るぜ~。」というと直ぐに当日演奏曲が送られてきたがピアノ曲は、リスト2曲にその他でヴァイオリンは、大半が無伴奏と難易度の高い曲がずらりと並んでいる。なるほどジョイントなんだなと思い腕に覚えのある演奏者によくあるパターンだなと正直全く期待もせずに前日の夕方に調律に向った。コンサートは、昼過ぎ開演でここでのコンサートは、全て録音するので当日の午前中は、録音機材の搬入からセッティングに時間を取られるので前日に大方の調律を済ませる。半年ぶりに使われるピアノ。2年前に新品のSHIGERU KAWAI SK5を弊社で搬入して随分手を入れて音やタッチを仕上げてきたが、如何せん使用頻度が低い。今回も調律の為にピアノに触るとピアノが熟睡している。取りあえず調律をしてちょっと弾いて目を覚まして頂戴とお願いをしても何だか寝ぼけているのか今一つシャキッとしない。整調関係などなどピアノのあらゆる所を刺激して「起きなさい!」と活を入れてまぁ~こんなもんだろうと会場を後にした。当日を迎えて朝にピアノに挨拶代わりに音を出すと少しはましな音で反応してくれたがまだまだだなと思いまた少し作業をして良い感じに仕上がった。後は、どんなピアニストか分からないがピアニスト次第だな!と思って録音機材のセッティングも終えて演奏者の到着を待った。

 

演奏者が到着して直ぐにリハーサルが始まったがジョイントなのでヴァイオリン奏者がガンガン弾きまくってホールの響きをチェックしている。ようやくピアニストもピアノに着座したのでマイクのセッティングをしなくちゃいけないのでヴァイオリン・ピアノ伴奏の曲を弾いてと注文を出す。とても細身のピアニストは、随分遠慮がちに弾いているので「もっとガンガン弾いても大丈夫ですよ。」とアドバイスしてセッティングを進めた。とても上手に弾くピアニストなのですがピアノに慣れていないのかまだもたもたしている様に見えたので「自宅では、○○○のピアノを弾いているのかな?」と聞くと「ハイ、○○○です。」「どうですか、このピアノは?初めて弾きますか?」と聞くと「SHIGERU KAWAI初めてです。音がふくよかでですね」私は、「どんなピアノストも初めてのピアノに慣れるのに少し時間が掛かりますが、いつも弾かれているピアノは、反応が早く立ち上がりも早いでしょ?」「はい、カーンと来ます。」「じゃ~ベーゼンドルファー弾いた事あります?」「ハイ、有ります」「このピアノは、使用頻度が低く半年ぶりに今日使うのでまだまだピアノが目を覚ましていないんですよ。ベーゼン弾いてる様な感じで思いっきり鍵盤の底まで弾いてみてください。きっと直ぐに慣れますから」と伝えると直ぐにがらりと音が変わった。レコーディングエンジニアが「おいおい直ぐに音変わったね(笑)!凄いね~と言いながら二人でモニタリングした。

 

本番が始まりヴァイオリニストの関口那奈子さんがバッハからパガニーニと無伴奏難曲を披露した。モニタリングしながらこの難曲を続けて弾くには、体力いるだろうなぁ~と感心しながら1部が終えて2部へと。ピアニストの高橋綾子さんがピアノに着座してリストの愛の夢を弾き始める。モニタリングしていると彼女の緊張が伝わってくるがとても上手に弾いて良い音を出している。2曲目の歌の翼に入り中盤からみるみるうちにピアノが鳴りだした。高橋さんも慣れてきたのか落ち着いた演奏に加え見事な演奏テクニックですっかりとピアノが目を覚まして気持ちよく音を奏でている様だった。3曲目の魔王演奏に入るとピアノが二回り大きくなったような音が聞こえてきた。あの細身の体で良くこの音が出せるなぁ~と関心をしていると、隣にいたエンジニアが「上手いね!棚からぼた餅だね(笑)。彼女凄いね!」「同感、上手いとっても良いよ(笑)!」4曲目 火祭りの踊り 最後に5曲目 リゴレット・パラフレーズでは、ピアノが小刻みに震えて気持ちよく歌いまくっている様にも見えた。大変失礼ですが期待してなかった分、その衝撃は、大きくてとっても良いピアノにストとお会い出来て「調律して良かった!」ちょっと感動的な演奏だった。翌日、高橋綾子さんからメールで「昨日はありがとうございました・・・初めてのピアノで温かみのある音色がとても気に入りました。弾いていると段々慣れて来てずっと弾き続けていたい、そういう気持ちでした。」と嬉しいメールが来た。当日DSD11.2で録音したものを100回以上聞き込んでマスタリングしてCDに落とすとあの日の感動が見事に蘇った。早速、彼女に送って今度は、ソロリサイタルやろうとメールすると「私は、あまり積極的な方じゃないのでハードルが高いですが練習します。」と返事が来た。あの難曲5曲を続けて素知らぬ顔で弾く人のハードルって「どんだけ~~(笑)!」ちょっと古いか(笑)!来年になるが高橋綾子ピアノコンサート、今から楽しみでならない!