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自宅敷地内のホールでコンサート

最初にお伝えしておかなければならない事として私の自宅敷地内のホールでは無く、友人が建てたホールであります(笑)!私を良く知る人達からは、当然だろ~と声が聞こえてきそうですが、友人は、大の音楽好きで生演奏・生録音そしてオーディオマニアでホールには、大規模なキッチンを備えてアコースティク音楽と録音・オーディオ・食事にお酒と大人の集う場所としてこの度、無事完成しました。今回は、ピアノ選びからこけら落としコンサートの模様を書き記したいと思います。

石井邸バック

随分前から友人から「自宅敷地内にホールを建築するのでグランドピアノを入れたいんだけど何が良いかな?」と相談を受けていました。ホールの大きさを見てみないと何とも言えませんが、予算も重要な要素となります。その予算の中で彼の求めるチョイスは、何だろうと考えて候補として中古のSTEINWAYかYAMAHA ・  ShigeruKawaiが上がるが全てが真新しい新築のホールだから新品を気持ち良く収めて彼の好みの音のピアノにしようと考えている所に彼から「録音ミキサーのエンジニアをやってる友人達からShigeruKawaiは、良い音してるよと聞いたんだけどどう?」と電話が入る。彼自身は、演奏はしないがオーディオマニアだけあって耳が良く細かな音の違いや表現力をきっちりと聞き分けられるので見て聞かせて判断するのが早いなと思い彼と録音エンジニアと僕の3人でピアノを見に行く事にした。早速、関係者に電話を入れて日時の段取りをしてKAWAI楽器には、看板調律師の五家さんに電話入れてお伺いする旨を伝え表参道店で落ち合う事にした。当日、KAWAI表参道店には、ShigeruKawaiSK-5,SK-3 が2台並んで展示されていてた。早速、僕が弾いて音を鳴らしてみると友人とエンジニアが即座に「5だな!」と顔を見合わせてうなずいている。確かにあからさまに音のふくよかさと低音の響きが違う。彼は「これだけ音が違えば5しかないだろう」と満足げに言ってSK-5に機種が決まり他を見ることなく表参道を後にした。それから、次の段取りの浜松ピアノ工場でのピアノ選定の手配をするのだが、SHIGERUKAWAIの最終仕上げをしている技術者である鈴木信道氏に電話を入れてホールに合った音の希望を伝えて用意して貰う事にした。

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工場では、2台のSK-5が僕の注文通りに仕上がっていた。両方を弾き比べると甲乙つけがたい仕上がりだったが、中音部の音の伸びときらびやかさ低音の音の鳴りに少しだけ差があった。僕は、直ぐに片方のピアノと決めた。その後は、入れ替わりそれぞれがピアノを触って全員が納得をした。総仕上げの鈴木信道氏に高音部の音の伸びとボリュームを増して貰う様に再度注文を出した。その後は、工場見学でKAWAI楽器の若くて綺麗な担当者に連れられて最初の工程から見学をした。男は、この工場見学は根本的に好きなんだろう。全員興味津々で工程説明を女性担当者がして僕が、補足説明や他メーカーだとこうだあーだと付け加えて和気あいあいと通常の見学コースとは、違ったコースで大幅に時間を掛けて見て回った。どうせ浜松に行くんだから浜名湖で泊ってと一泊二日の宴会旅行だったが、夕食の時も工場見学の話で持ち切りだった。「あれだけの設備と人の手を掛けて作っている事を考えればピアノは、安いよね~!」「新規参入企業なんてまぁ~無理だね~アナログだもの。」「あの担当の綺麗なお姉さんも梅根さんがコースを変えさせるわ勝手に説明をしはじめちゃうわでやりにくかったんじゃないの?」「いやいや美人だったから良いんじゃない!」と支離滅裂になったおじさん達の浜名湖の夜は更けていった。

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月末に工場で選んだピアノが搬入された。新築のホールは、湿度が高く6月末から24時間エアコンを入れっぱなしにしても湿度75%。今から3週間後のコンサートまで湿度が下がってくれれば良いが。友人が「コンサートこけらおとし当日は、ピアノとヴァイオリンでホールの響きを確認したいんだけどお任せするから何か考えて」との申し出に僕は、アルゼンチンタンゴをチョイスした。津山知子さんのピアノと会田桃子さんのヴァイオリンであのスリリングなヴァイオリン演奏に迫力の有るピアノは、ホールの響きを確認するには、打って付け。大勢のお客様にもあの素晴らしい演奏を是非聞いて欲しいと思った。当日は、DSD5.6MHzでの生録音をして高級オーディオで皆さんに聞いて堪能して頂き、食事は、フランス料理のフルコース。存分に飲んで食べて楽しんで頂く企画なので準備が大変。朝からピアノ調律をするが、あいにくの雨のせいで湿度78%。ピッチもA445Hzまで上がっていたのでA442Hzに下げアクションの筬も張っていたので慎重に調律を進める。そうこうしているとコックがやって来て食材・食器の搬入からテーブルセッティングそしてオーディオは、800万円もする高級スピーカーのフィーストレックスが搬入され位置決めを始めるわ録音関係では、マイクやミキサーのセッティングに追われ大忙し。気付くと13時を回っていたので慌てて演奏者を迎えに行って14時30分からリハーサルが始まる。ピアノとヴァイオリンの音のバランスが中々取れずに試行錯誤しながら録音は、マイクの位置に終始気を使いながら16時15分にリハーサルが終えた。16時30分には、開場するので調律の手直しは、15分しか無い。真新しいピアノの場合は、弦が伸びて直ぐに音が狂ってしまうがどうにか間に合った。司会進行役も僕が請負、定刻通り17時にコンサートは始まった。順調に演奏も進み半ばになりピアノもあからさまに鳴りが良くなって高い天井に響き渡るヴァイオリンの旋律にお客様の一人は、「素晴らしくて鳥肌が立ちましたよ~!今まで聞いてきた中で一番素晴らしい本当に!」と興奮しておられた。クラッシックと違ってこの類の演奏は、リハーサルより3倍位パワフルにスリリングな演奏になる。真近で聞くその演奏がお客様に直に伝わってこの演目で本当に良かったと肩をなでおろした。その後、食事に移り次々に出される料理に皆様も満足されて最後のデザートが配膳された頃に津山さんに「もう2曲くらい演奏してよ」と告げると快く「2曲で良いの!何曲でもいいわよ(笑)」と快く引き受けてくれた。お客様も聞きなれたタンゴとオリジナル曲のメロディに酔いしれて演奏が終えた。演奏者も楽屋で着替えを始めたが会場では、何時まで経ってもアンコールが止まない。僕は、慌てて「アンコールが止まないぞ!もう1曲お願い出来ない?」とマネージャーに伝えると「もう着替えちゃってるから無理そうですよ」と言われたが、一向に拍手が止まない。すると普段着に着替えたお二人が登場して会場は、割れんばかりの拍手に見舞われてもう2曲最高の演奏を披露して「アルゼンチンタンゴの調べ」は、幕を閉じた。

 

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コンサートが終えてオーディオマニアが残ってフィーストレックスのスピーカーを鳴らすとまるで目の前に演奏者が居るような臨場感で切れの良い輪郭のはっきりした音に高級スピーカーの醍醐味を存分に楽しんで全てが終えて帰宅したのが24時を回っていた。通常のコンサートの仕事と違って朝から休む間も無く動き回って総勢58名のお客様を招いてのコンサートで大変ではあったが、お呼びした皆様全員から翌日にお礼の電話やメールを頂いて疲れも吹き飛んだ。喜んで頂いたお客様の顔を思い浮かべ演奏者の持つエンターテーメント性と生演奏の持つ音楽の力、そして美味しい食事にお酒と来ればもうこれ以上人間の五感を刺激する余地は、無いだろうなぁ~今回の企画の成功に安堵した。しかし、自宅敷地内にホールと言えども、キッチン付きのこんな大人の集いの場を新築しちゃう友人を持てて良かったなぁ~とつくづく感じ入る。これから皆で何時でも飲んで食べて音楽聞けちゃうんだもの楽しいに決まっている!

 

ピアノの修理でてんてこ舞い

皆さんも経験がおありだと思いますが、喫茶店に入るとお客さんは、誰もいない。暇そうにしてたお店の店員さんがにっこりと笑顔で席に案内してくれる。するとすぐさま次から次へとお客さんが入って来て見る見るうちに満席になり行列状態。その様子に新たなお客さんは、入店を諦める始末。まるで僕がお客さんを連れてきたのかな?僕って福の神?なんて思ったりして。しかし、お客さんも重ならずに分散してまんべんなく都合よく来てくれるとお店も助かるだろうなぁなんて考えてもそれが商売なんでしょう。不思議でなりませんが、そういった事は我々の仕事でもあります。そんな近況を書き記したいと思います。

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ありがたい事に「ホームページを読みました。」と言って仕事のご依頼を頂くことが増えました。大方は、ピアノ調律の依頼ですが、この春位からは、修理依頼が増えて6月7月になっても未だてんてこ舞いの嬉しい悲鳴です。まずは、日本在住のアメリカ人ピアニストが所有するスタインウェイM型のオーバーホールです。およそ70年前のニューヨークスタインウェイで以前アメリカ人の調律師がオーバーホールしたピアノを購入して日本に運び込んだピアノ。日本に来て30年程経ちますが88鍵スティックでソステヌートの金具は、壊れて紛失していてまぁ~まともに音が出ない状態。もう一台グランドをお持ちなので問題は、ありませんでしたがそろそろちゃんと修理して弾きたいとの事で修理依頼がありました。お客様の希望で外装と響板、鉄骨は、そのままにして修理して欲しいとの申し出に僕は、「そこまでやるのだったらついでに外装も含めて全てやりませんか?」と問うと頑なに「外装は、そのままじゃないとオリジナルじゃなくなっちゃう。鉄骨も響板もオリジナルじゃないといけません」ときっぱりと断られた。いざピアノを引き取ると下見した時には、解らなかった響板の割れが数カ所見つかり。尚、鉄骨・響板に以前修理した時にマスキングをしてなかったのかと思う位に黒い塗料が至る所に着いている。いずれにせよ響板の割れを修理しなければならないので全てを分解して外装以外の全ての修理をする事にせざる得なかった。

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修理作業も無事終えると想像を絶するピアノの音に僕自身ビックリ。さすがスタインウェイこの表現力に驚かされる。出来上がったピアノを我社のセレクションルームに入れて約1か月掛けて最終調整をする事にした。というのも弦・ピン・ハンマー・アクション部品も交換してあるので少し弾いて弦を伸ばして整調・整音を繰り返して少しなじませてからお届けします。その間、我社のピアノの先生やピアニストに来てもらって弾き込んで貰っています。この気持ちの良い音とタッチは、不思議と何時までも弾いていたいそんな気持ちにさせられてさっぱり作業が進みません(笑)。さぁ8月の納品に間に合う様に最終仕上げに入ります。いや~ここまで良い仕上がりだとアメリカ人ピアニストのお客様は、どんな反応をするのだろう?今から楽しみでならない!

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そんな中、仙台からEarl Windsorの修理依頼があってこれまた並行して全修理。外装の塗装から内部の部品交換と手間のかかる仕事です。このピアノを修理していると製作時に色んな所の寸法がズレていてこれを全て正常な状態にする作業から始まった。作業を進めているとどんどんと交換した方が良さそうな部分が出てきて少し作業が遅れているが只今進行中で80%位仕上がっています。このピアノの事については、改めて記事にしたいと思っています。

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そしてそんな中、実家に放置していた30年程前のYAMAHAの高級機種を孫の為に修理して調整してお届けするという仕事。調律師の皆さんならばお解りだと思いますがこの時期のピアノは、バットスプリングコード(バットフレンジコード)が経年変化で切れてしまいます。これを88鍵全て交換。そして23年ぶりの調律をして整調・整音を繰り返してお届け。これも細かな仕事です。ただ仕上がるとさすがに抜群に良い音になります。この音とタッチで一気に疲れが吹っ飛んでしまう。

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そしてそんな中のそんな中、立て続けに消音ピアノユニットの取り付け依頼が入る。毎年の調律のお客様の仕事に音楽会の調律など普段こなしている仕事に加え修理ピアノが重なりおまけに消音ピアノユニットの取り付け。そしてこの年になると色んな役職が回って来ていて会議を仕立てたりとちょっと頭がパニック状態。消音ピアノユニットは、頑張って取り付けても半日はかかる。規格が合わないピアノに取り付けて調律まで含めると1日がかりの仕事です。こちらのお客様は、もう30年のお付き合いで娘さんの為に購入したのだが娘も独立してお母さんが習い始めて20年。とうとうご主人様が定年して家に居る事が多くなると思い切ってピアノが弾けないと消音ピアノユニットを取り付ける事に。取り付けの日もご主人が旅行に出かけている日に合わせて日程を調整した。当日、朝お客様宅にお伺いすると「私、友達とランチの約束があるから出かけるの、適当にやっててちょうだい。夕方には、戻るから宜しくね」と僕は、「はい、しかし僕もお昼を食べに出掛ける予定なんですけど・・・」すると「あ~そうね鍵預けるから勝手にやってて大丈夫よ」と言い出す。「いやいや鍵は、ちょっと困ります。じゃ~今、コンビニに行って何かお昼を買ってきますからちょっと待っててください」と言うと「大丈夫よここに鍵置いとくわ。もし良かったらここにカップラーメンとかパンとか少しあるから冷蔵庫の物も適当に食べて良いからお願いね」と言い残して出かけて行った。いくら長いお付き合いのお客様といえども勝手に冷蔵庫をあさる訳にはいかず、かといって鍵に触れるのは大いに気が引ける。いや~まいったなぁ~まぁお茶菓子と飲み物も用意して頂いているのでまぁ~いいか~と作業を進めた。順調に作業が進んだ所でピンポーンとチャイムが鳴る。直接玄関に出向くとお蕎麦屋さんが「出前で~す」と僕は、「ここの家の方、今お出かけになっていて誰もいませんよ」と告げると「〇〇さんに12時ピッタリにピアノの調律師さんに出前持って行ってくれと頼まれました。」僕は、ありがたくそのかつ丼を戴いて30年の長いお付き合いとその人柄に心から感謝した。われわれピアノ調律師は、一年に一度の訪問ではありますが、良い関係が築けると何十年と長い関係が続きます。ましては、お客様宅にあがり込む訳ですから常に誠実でいなければなりません。私も未だ尚、そうある様に身を引き締めて仕事に励まなければならないと考えます。そうしていればまた美味しいものにありつけるかも(笑)!