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鎌倉プチロックフェスティバルVol.8

慌ただしく時が過ぎて2022年も残すところ2カ月を切ってしまった。今年の秋は、天気に恵まれて紅葉もとっても綺麗に染まって近年では珍しく存分に秋を楽しめてる。大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の影響か?コロナが一段落なのか?分かりませんが鎌倉の賑わいたるものは物凄くて活気に満ち溢れている。そんな中、3年ぶりに開催された「鎌倉プチロックフェスティバル」の事を今回は、記事にしたいと思います。

10月23日(日)3年ぶりに「鎌倉プチロックフェスティバルVol.8」が開催された。電気を使わないアコースティクの音楽のお祭り。会場は、由比ガ浜の海浜公園で入場無料。朝から夕方まで沢山のミュージシャンが出演する。弊社も縁があってスポンサードしている。そしてそこで使われるピアノの事を全て担当をしている。3年前まで会場で使うピアノは、フェスティバルの趣旨に賛同してくださるご近所の方が使っていないピアノを提供してくださっていました。私がフェスティバルの数日前にそのお宅にお伺いして半日掛けてピアノの調律・調整をして準備を整えて、当日早朝にピアノの運送屋さんがピアノを取りに行って9時に海浜公園に設置。直ぐに、本番に向けての調律を始めるといった具合でした。しかし当日の天候次第では、中止もあり得るので当日は気が気じゃありません。過去に一度、当日中止になった事がありました。自然相手ですから致し方ないとしても海岸の吹きっさらしの公園に湿気に弱いアコースティク楽器のオンパレードですから主催者は毎度、胃がキリキリする思いでしょう。何より大勢のスタッフが数カ月前から入念に準備に準備を重ねたフェスティバルがお天道様のご機嫌次第で全て水の泡になるのですから私も毎回気が気ではありません。

2022年7月8日にフェスティバルのピアノが入庫した。

埃だらけで外装や鍵盤が汚いが手を入れれば大丈夫良いピアノ

今年の6月に主催するNPO法人Greens&Bluesの代表の方から電話が入った「お世話様です。ようやく今年10月23日に開催するつもりで動いていますのでよろしくお願いします。今回は、いつもの方のピアノでは無く自分たちのピアノを用意しようと思うんですが保管場所がガレージなんですよ・・大丈夫でしょうか?」「ガレージって車庫ですか?湿気とかはどうなんですか?」と聞くと「そうですよね~物置にしている車庫なんですよね~!」といった具合の返答。直ぐに調律師が想像するのが虫食い被害とネズミの被害、湿気によるトラブルとカビ・ホコリ、どう考えても良い要素は何一つ無いので私は「弊社の商品倉庫で預かりましょうか?そうすれば、あらかじめピアノの調整も空いた時間に出来るし何より安心でしょ!」と言って7月早々に弊社の商品倉庫に入庫した。YAMAHAのアップライトピアノで131cmの高さの大型タイプ。早速ピアノをチェックすると長年調律されていないが今までのピアノより随分年式が浅く調整さえすればかなりいい音になるだろうと確認できた。早速、ざっとピッチを上げる調律をするとピン味(チューニングピンの動き)も良くなかなか良いピアノ。調律をどんどん進めていくと見る見るうちにピアノが蘇りはじめた。「お~良いじゃん良いじゃん!」と独り言を発しながらざっと調律を終えてホコリを払ってざっと外装を磨いて「後は、暇な時にちょこちょこと調整してあげるからねぇ~。」と言ってカバーをかぶせて保管した。

手を入れる度にどんどん蘇る。

8月9月とぼやぼや忙しくしていると10月の第二週に入った。「あか~ん!来週末、鎌倉プチロックフェスティバルじゃん!ピアノ調整しなきゃ!」慌てて10月12日の夕方からピアノの調整に入った。まずカバーを取ってさらっと弾いてみると「お~良いじゃん良い音してるじゃん!」これは、引き取った時に調律を済ませていたのでかなり安定している。折角良いピアノだからハンマーをファイリングしてざっと調律するか~!と気合を入れて作業に取り掛かった。さほど使い込んだピアノでは無いのでファイリングもあっという間に終えてとりあえず調律の下律に取り掛かった。ピッチA442Hzにする為にチャチャチャと短時間で張力を安定させると同時にアクションの様子を探りながら下律を終える。整調は、当たり前だがかなり狂ってるし鍵盤の動きが悪すぎる。これらの作業は、全くのボランティア作業になるが調整すればもっともっと弾きやすく良い音が鳴るピアノを前に何もしない選択は、ありませんでした。当日のミュージシャン達に気持ち良く弾いて頂いて3年ぶりのフェスティバルが大成功に収まるように頑張ろうと思ったが当日ピアノを演奏するミュージシャン達を良く知らないので唯一の知り合いである若くて綺麗なJAZZピアニストVakeneco(田近香子)さんが気持ちよく弾けるようにとターゲットを絞って調整する事にした。会場の海浜公園は、野外で元々地面が砂地なので高い音が吸収されて全く響かない。今回は、特別にボリュームがあって高音が鳴るようにそして音が遠くに飛ぶ様に特別な整音と調整を施した。Vakenecoさんが弾きやすく鍵盤の抵抗を取るためにフロント・バランスピン合計176本のピンを磨き上げて更に鍵盤調整して整調を整えた。最終調律をして万全の準備を終えたのが出荷日の前日の夜だった。このピアノが入庫した時に「暇な時にちょこちょこ調整してあげるからねぇ~」とピアノと約束した事を思い出して慌てて「ずっと放りぱなしでごめんね。でも、間に合ったからね、まぁ~許せ!(笑)」と言ってピアノを撫でながら許しを乞うた。

晴天の中、調律を終えたピアノ

 

屋台の準備も着々と進んでいる。

幸いな事に天気予報は、晴れの予報。前日の22日土曜日に弊社倉庫から無事ピアノを出荷した。翌朝23日9時に海浜公園に設置して早速ピアノ調律を始めると今までと違ってかなり大きな音が公園中に鳴り響いて高音も綺麗に遠くに飛んで行く。「良い感じだ~!」と心でつぶやいて気持ちよく調律を進めた。早朝の公園では、着々とフェスティバルの準備が進められて主催のスタッフ達がキビキビと仕事をこなしている様子が見て取れて気持ちがいい。出店の人達も忙しそうに楽しそうに準備を進めている。気が付くと犬の散歩人やサーファー達が足を止めてしばしピアノの調律を眺めて行かれる。晴天に恵まれて何とものどかで気持ちの良い調律を存分に楽しんで準備を終えた。当日のフェスティバルは、大盛況で大盛り上がり。その様子はYouTubeの配信https://youtu.be/BF2R2Sfd794にてご覧ください。コロナ騒動に円安に加え物価の高騰に弾道ミサイル連発とウクライナ侵攻とどれを取っても何一つ収まりの兆しさえ見いだせない不安定な時代。個人的にロシア問題は、深刻で昨年より発注しているロシアの美人ピアニストのCD。日本では、売っていないCDのBOX。入荷は、絶望だぁ~!あ~どうか一日も早く安寧な日が訪れます様にと願うばかりの2022年11月でした。

 

摩訶不思議なペダル修理

10月に入り関東では12月中旬の気温になった日が3日程続いた。慌てて長袖の下着にしたりフリースを引っ張り出して着たり作業場では、慌ててストーブを焚いたりと大慌て。近年、春と秋がとっても短くなってちょうど良い気持ちの良い季節なんて続かないんだなぁ~と異常気象を恨めしく思った。そんな日々で摩訶不思議な事になっていたグランドピアノの事などなど近況交えてを記事にしたいと思います。

長年のホコリが積もりに積もってる。

この時期のヤマハピアノは、大方この紐が切れている。

昔の人は、暑さ寒さも彼岸までとはよく言ったもので大方そんな感じで季節が移り変わって9月も末に近づくと必ず何処からともなくキンモクセイの香りが漂って秋の訪れを感じる。そんな時にお客様のご紹介で1通のメールが届いて、実家からピアノを運んで使いたいので運送と調律をお願いしたいとの依頼を受けた。早速、引き取りをして運送屋の倉庫にピアノを見に出かけた。外装は一見綺麗だが触るとベタベタとしていて汚れている。丁寧に使われたピアノで大きな傷は無いが音が沢山狂っている。中をのぞいても虫食いなども無さそう。運送屋さんの倉庫ですから全部をばらして細部に渡り確認をする事は出来ないが弾いた感じでは概ね良好だった。早速お客様に電話を入れて報告をした。「ピアノは概ね良好ですが汚れが酷いのと鍵盤の小口が変色しています。傷も少しはありますが中身はしっかりしたピアノで調律をすれば大丈夫ですよ・・・。」と報告すると「使えそうですか。傷とか外装は気にしていませんので汚れを落として調律と中の修理をお願いします。」との様な感じでした。大方の費用の話などをして早々に弊社の横浜商品倉庫に運び込んだ。

切れた紐88本を切れない紐に交換した所。

綺麗に仕上がって納品を待つだけ。

 

9月の末にそのピアノは入庫した。ピアノの裏は、長年のホコリが積もり積もっている。昭和60年製のピアノで当時の商品ラインナップからして同じU1タイプのピアノではとっても高価なでおしゃれなピアノです。しかし何ともごげ臭いと云うかタバコのヤニの匂いが倉庫中に漂っている。外は、キンモクセイの良い香りが漂っているのに弊社の倉庫ではヤニの匂いが漂っている。あかん!凄い匂いだ!と慌てて濡れ雑巾で拭くと茶色いヤニがべったりとふき取れる。掃除機で積もり積もったホコリを吸い取ってまたまた雑巾がけしてを何度も繰り返した。綺麗にすると今でも良い色をしているが何かくすんでベタベタしているので翌週にたっぷり時間を掛けて綺麗にする事にした。アクション関係は、バットスプリングコード(バットフレンジコード)がダメになっていた。調律記録では、バットコード交換と記載されていたが3か所だけの交換であった。この機に全て綺麗に貼り替えをする事に。10月らしからぬ寒い日に作業を始めて数日掛けて綺麗に仕上げた。鍵盤調整に整調・整音・調律も何度か繰り返したので落ち着いた良い音がしている。37年前のピアノでしたが立派な良いピアノに蘇りこのまま、ずっと使えます。日本が世界に誇るYAMAHAのアップライトピアノは、頑強な造りと値段、その狂いの無さを考えると正に世界一のピアノだなと調律師として改めて感じる。

真ん中のペダルがグラグラして突き上げ棒もゴムも傷んでる。

ペダルBOXを開けると真ん中の軸が外されて無かった。

上が古い軸  下が交換する軸。 随分太さ長さが違う

全て交換して磨き上げて修理完了

それに並行してちょっと不可思議な事に出くわした。お客様の譲り受けたグランドピアノの調律の依頼。早速、調律にお伺いすると26年前の日本製のグランドピアノ。調律記録を見ると購入して毎年ずっと調律されていて私の知る調律師2人がお伺いしていて最後の調律が7年前。その2年後、5年前に別の調律師が一度調律をやっている。かなり弾き込まれたピアノで音はぐちゃぐちゃに狂っている。湿気の多い所にあった様でピッチは、さして下がっていない。それより何かペダルがおかしい?ソステヌートペダルがブランブランしている。え~~~!左右のペダルの踏みしろもおかしい?運送屋さんが取り付け違いをしたかな?と思いペダルを外してみたがつけ違いでは無い。ペダルBOXを開けて見るとなんと真ん中のペダル(ソステヌート)の軸が無い???何か壊れたなら軸がBOX内にあるはずだが無いって???お客様に「理由は分かりませんがペダルの軸が無いんですよ(笑)。これは、BOXを開けないと無くならないので不思議ですね~どうしたんだか分かりません。とりあえず今日調律を終えますがペダルはこのままで早急に部品を取り寄せて後日修理します。」と言って了承して貰ったと言うかこれはしょうがありません。早速、メーカに型番と製造番号を伝えたが生産台数の少ないピアノなので同じ部品を用意するのには「用意出来るかどうかやってみないと分からないですね~。ちょっとお時間が掛かるかもしれませんねぇ~。」とやる気があるのか無いのか、やんわりと断られた感で要領を得なく正確な返答が得られなかったので「このままじゃお客さまも困るから、とりあえず急いで探してくれ!」とほんの少しだけ厳しく言って電話を切った。次に取引先の部品屋さんに電話をすると「以前は、軸だけあったのですが今は無いんですよね~ペダルにくっついているからペダルを一台分購入するしかありません」と言われた。それだったら形はどうあれメーカーから新しいペダルを入れた方が安い。今度は、別の部品屋さんに電話を入れると「少しなら在庫がありますよ~」「え~~ある!頂戴頂戴!」と言うと「ちょっと確認しますね。」としばらく待たされた。「あっこれ太いなぁ~着くかなぁ~合わないかもしれませんねぇ~」「グランドピアノのペダル軸なんでしょ?」「はい!」私は「じゃ~それ3本送って、ついでにペダル軸受けも1台分6個送ってよ。ところでいくらするの?」と聞くと「いや~いくらなんでしょう(笑)?。」「じゃ~適当に値段付けて早急に送って!」と言って早急に送られてきた。早速。お客様宅からペダルを引き取って来て分解すると色んな事が分かったというか想像できた。恐らくかなり弾かれるお客様よりダンパーペダルの不良を告げられて調律師がペダルBOXを開けた。その時にダンパーペダルの軸に何らかの異常があった。恐らく軸が曲がっていて軸受けの穴が大きくなってガタが来て雑音がすると云った状態だったのでしょう。そこでダンパーペダルの軸をハンマーで叩いて抜いてあまり使わない真ん中のソステヌートペダルの軸をダンパーペダルに入れ替えて修理をした。抜いた軸は使い物にならない状態に変形してしまったので修理出来ずにソステヌートペダルは使えない状態のままBOXを閉じた。という事だったと思う。それはそれで良いですが修理が完了しないまま放置というのはちょっと頂けないなぁ~と同業者として腹立たしい思いが込み上げた。案の定修理したダンパーペダルの軸は、ハンマーで叩いて叩いて入れたのでしょう頭が歪になっているしペダルの横が傷だらけだ。随分力任せにやったな!「しょうがないなぁ~!可愛そうにおじさんが綺麗に修理してあげるからね~。」と言って新しい軸を手に取ると全然大きさが違う!いやいやこんな大きさ太さ違うんだ~!よしと本腰入れて3本全部新しい頑丈な軸に入れ替えて軸受けも全部交換する事にした。ペダルも軸受けも当然加工が必要ですがそんな事は大した事では無くちょいちょいと終えた。ついでに擦り減って厚みの無いフェルト類も新調した。この作業をお客様宅でやるとなると上手く行かないだろうなぁ~と言っても持ち帰ってもそれなりも工具が無いと上手く行かないだろうと色々想像しながらそれぞれに事情があるのだろうと安易に同業者に対し腹を立てた事を戒めた。ついでに塩害でナットが錆び付いていた突き上げ棒もメーカーから仕入れて新品に交換した。「どうよ完璧だろう!」と自慢げにピアノに微笑みかけて仕上がりに自己満足した。

 

 

 

 

日本が誇った高品質なピアノ。

2022年9月に入った途端に最高気温も下がり過ごしやすくなって来たが6月7月8月の35℃36℃などの異常な暑さの後では、31℃は、過ごしやすい。人間の経験値とは凄いものだなぁ~なんて変な感心を抱いていると台風シーズン。これは、何度も経験して詰まる所、人間は無力だと思いしらされた経験値なんでしょう。昨日から沖縄九州に猛烈な威力の台風が上陸してこれから日本全土を横断するらしい。今日は、大人しく息をひそめて自宅でパソコンに向かっている。今回は、そんな9月の様子を記事にしたいと思います。

3年余り我慢に我慢を強いられていた音楽家の方々がようやく大手を振って活動を始められた。ピアノ講師の先生も遠慮なくコンクールに発表会にと前向きな話が飛び交う。弊社もコンサートにレコーディングに発表会とどんどん予定が埋まっていく。コロナ前と同じとは言えないまでも皆無だった時期を経験するともう大繁盛の様な錯覚に陥る(笑)。これは私の愚かな経験値たる物なのでしょう。しかし、それが錯覚であったとしてもとっても気分が良い(笑)。もうそんなちょっと浮かれた日々を過ごして居るとまた新たな仕事も舞い込んで来たりしてちょっと楽しい。そんな調子に乗っている所に電話が入って「調律をお願いしたいのですが?」「はい!お伺いしますよ。」すると「かなり古いピアノで他所で見積もりをして貰ったら40万掛かると言われたんです。」「ピアノのメーカは、何でしょうか?」と聞くと「即答でYAMAHAです。ただアメリカで購入した物なんです。」「それは、背の高さが低い118cm位の木目のピアノでしょうか?」と聞くと「そんな感じです。」過去に何台も輸出用のYAMAHAを調律した事があるので大して問題は無いだろうと想像したが他社で40万円の見積もり???何だかその中途半端な金額に違和感を抱きながら「とりあえずお伺いしてピアノを見てみましょう。それから考えましょう!」と言って後日お伺いした。

立派なお宅の奥の方の部屋に鎮座しているピアノは、シンプルでとっても素敵なデザインのYAMAHAでした。お客様がアメリカ転勤の時に中古で購入したピアノで年式とか全く記録が残っていないが中の使用部品を見るとそんなに古い物ではありませんでした。と言っても30数年、いや40年近い位前のピアノだと思われるが湿度の関係でアクション(機械)の動きが悪く鍵盤が下がったままの所が沢山ある。音は、半音の半分位、物凄くピッチが下がっているので弾ける状態ではありませんでした。しかし40万の見積もりをひねり出す要因が何一つ見当たらないのでお客様に「そんなにお金を掛けなくても大丈夫ですよ。3万円に消費税、33.000円で今日、とりあえず弾ける状態に出来ます。3~4時間位、お時間掛かりますが・・・お時間は、大丈夫ですか?」と告げると「お願いします。」と即答して頂いて集中して作業に没頭した。コンソールピアノ(背丈の低い,弦長の短い)ですが、そこはさすがYAMAHA、アクション(機械部)の精度は抜群に高く耐久性も抜群修理や整調(調整)もすんなり進む。ピッチ上げの調律も何ら問題なくあっという間にピアノが仕上がった。まぁ~鍵盤調整とかハンマーファイリングや整音などなど、やる所は沢山あるが、まぁ~それは追々お客様のご要望に応じてでとりあえず、きれいな音で普通に弾ける状態になってお客様も大層に喜んで頂いた。やっぱり昔のYAMAHAは、良いなぁ~いい仕事してるなぁ~と改めて日本製品の質の高さに舌を巻いた。

9月の初めにピアノ修理でハンマー交換という作業があるがその真新しいハンマーに適切な角度の穴をあける。私は、この穴あけ作業が特に好きで電動工具と戯れながら道具を使いこなして完璧に綺麗に仕上がった真新しいハンマーの並んだ姿が何とも言えずに好きなのにそんな時に限って携帯電話が鳴る。何時もの友人からなのでちょっと忙しそうに不機嫌に出ると「おっ、今忙しいんだ!でもちょっと良い?今、友達んちに来てるんだけどボロボロのピアノがあって調律やって無いって言うからやってあげてよ!直るでしょ?」と言うので「ボロボロのピアノじゃ~やだよ!あんたが見てボロボロと思うんだったら完全にボロボロだろ。」「友達に凄い調律師が居るからそいつなら何でも直るって言っちゃったよ~(笑)!」「何のピアノなの?」「奥さん曰く、有名なピアノ製作者のピアノとか言ってるよ・・・おっカタカナでディアパソンて書いてある」「カタカナ?」そんなこんなのやり取りで友人のそのまた友人宅にその友人と共に伺った。見ると本当にボロボロのキークロスにカタカナでデイアパソンと書いてある。日本のピアノ史に名工として名高い大橋幡岩氏設計のピアノです。古くてボロボロでアクション修理をしているとピアノの中からボロボロに錆び付いた調律工具のクロスリーマーが出て来た。昔、調律師が作業した時に工具をピアノの中に忘れて行った様です。また、切断したセンターピンのカスが沢山あった。その数からして相当悪戦苦闘したんだなと想像できた。残された工具を手に取りどんな人が持って居たんだろうと想像しながら悪戦苦闘してようやく調律修理を終えた。本来ならばオーバーホールしなきゃならないピアノでしたが案外深い音を奏でてとっても趣のあるピアノだった。さすが大橋幡岩さんのピアノ、毎年ちゃんと調律してたら物凄く良いピアノだったのになぁ~!残念(笑)。それから数日後に初めてのお客様から調律の依頼があった。今まで来て頂いてた調律師が廃業されたとの事で私に依頼があった。お伺いして見るとOHHASHIピアノだった。何でも大橋幡岩さんのご親戚の方だそうで毎年調律された大橋ピアノ。贅を尽くした作りのピアノでとても良い音を奏でてる。何でも昔の物が良いとは言わないが名器と言われるものにはそれなりの理由がある。高品質な材料をふんだんに使い手間を惜しまずに丁寧なつくり。職人の誇りが詰め込まれたピアノは、芸術品です。ちゃんとした調律師が手を入れていただけあって何ら問題なく伸びやかな良い音がする。大橋ピアノは、生産台数が4500~4600台位だったと思うが現存しているピアノが何台あるのかは、分からない。元々の台数が少ない希少なピアノだからこそ、このピアノをきっちりと管理してまた後世に残す様にとピアノが私に訴えかけている様でもある。残りの調律師人生は、質の高い仕事を追求しながら楽しく沢山稼がなきゃ!なんて、年取ってちょっと欲張りかな(笑)。