もたもたと日々仕事に追われていると2025年3月も残りわずかになってしまった。ここ数日は、3月なのに夏日になって移動中の車内は冷房、作業場では薄手の夏の作業着を引張りだす始末で気持ち良く暖かいを一気に通り超えて暑い。そして今年は、花粉の飛散量が特別に凄い様で汗まみれに加えてくしゃみの連発で鼻水まみれとこの異常気象に猛烈な嫌気がさす。しかしこの暑さで一気に桜が咲いて何故か気分が浮き浮きしている。今回は、そんな3月の様子を手短に書き記したいと思います。
一昨年前、仕上がって出荷待ちのピアノ
一昨年、ご自宅の建て替えの為に約1年ちょっとグランドピアノを弊社でお預かりしてその間にピアノのクリーニングや内部の調整をしてお届けをしたお客様。以前のお宅では、湿気が多くてピアノの金属部分はサビだらけ、ピアノ内部は、カビだらけと言った具合で当然内部の機械類は湿気で動きが悪くタッチももたもたして決して良いコンディションではありませんでした。保管中にたっぷりと時間があったので弊社で十分に繰り返し作業してベストな状態で納品したのですが一昨年お届けして半年もしない内に音がバランバランに狂ったと連絡を頂いて再度お伺いすると新築のお宅の最新暖房システムが災いをしてつまり乾燥が過ぎて木部が痩せてカラッカラな状態。調律中にお客様に加湿器を買いに行って貰って設置場所などをアドバイスをして様子を見る事にした。翌年、お電話をすると建替え前にずっとお願いしていた調律師さんから先に連絡があったので一足先にお願いしたとの事でした。長いお付き合いの調律師さんですからまぁ当然と言えば当然です。それは良いのですが唯一心配なのは過乾燥対策をしてくれるのかが気がかりだった。本年、お客様からメールが入って是非調律をお願いしたいとの事でした。昨年、過乾燥の経過を見れなかった事が気に掛かっていたので作業時間をたっぷりと割いてお伺いした。
過乾燥でパックリと割れた響板
湿度22%~26%をウロチョロ
ピアノを触るとバランバランに狂っている。お客様に「この冬は、加湿器はどうされましたか?」と聞くと「今年は、もういいかなと思って使いませんでした。」と返答された。チューニングピンのトルクが無くなって音が急激に下がっている所が多数あり、尚且つ乾燥による木部の変化でスティックも多数。そしてよくよく見ると響板が大きく2カ所割れていた。「あ~なんてことだ!可哀そうに。」とそっとピアノを撫でた。とりあえず作業に取り掛かって調律をしながら湿度計を見ていると室温20℃湿度22%~26%の間をウロチョロしている。もっと外気が低くて寒い日は、長時間もっと下がる事が予想出来る。昨年この子の様子を見る事が出来ていればこんなに大怪我をしなくても済んだだろうと悔やまれてならない。と言っても後の祭り打つ手の引出はいくつかあるので「これからは、ちゃんとオジサンが面倒見て調子よくしてあげるからね!」と心で呟いて思いを込めて作業に没頭した。長時間の作業を終えてピアノを弾いてみると生き生きとした艶のある音を奏でてくれて新たな絆を構築できた様な気がした。
色んな作業を効率良く並行して行う。
先月末に一通のメールが届いた。以前、調律をお願いしていた○○です。長い事放置していたピアノの調律をまたお願いしたい・・とお名前と住所・電話番号が記載されていたがその住所は、全く覚えが無かったが私の母とお名前が同じだったので特に強く記憶していたお客様だった。直ぐに連絡を入れてお伺いすると一度もあった事の無いご主人様が玄関で出迎えてくれた。奥様は、ちょっとお出掛けになっていてもう直ぐに戻られるとの事でした。早速、ピアノにご対面するとEarlWindsor W112だった。ご主人様曰く、最近、孫が遊びに来てピアノを弾くと孫が「音が狂ってる!て言うんですよ(笑)狂ったままじゃ可哀そうだから連絡先をずっと持って居たので連絡しました。」ありがたい話です。「以前は、とっても湿気の多い社宅にお住まいでしたね~」と私は、その家の佇まいまで記憶していた。そこからこちらの高級住宅街に家を建てられてかれこれ30年余り、調律記録を見ると最後の調律が平成3年、34年ぶりの調律になる。そしてあの物凄い湿気だったお宅から湿気とは無縁の快適なお宅へ移動と乾燥と長年の放置でなんと音は半音下がりズタズタの状態。アクションも故障個所多数だが幸いな事に虫食いは全く無かった。
カシュー塗装なのに綺麗に保たれていた。

早速、ピッチ上げ調律に入るがWindsorの場合は、きわめて慎重に張力を均等に上げる必要があるので数回に分けてそれぞれを短時間に手際よく徐々にピッチを上げて行くを繰り返す必要がある。その途中のインターバルを開ける時間は、アクションの修理や調整・鍵盤筬のすり合わせなど上手に時間配分をしながら慎重に作業を進める。このピアノの場合、無作為に作業すると最悪、次高音部の鉄骨折れの可能性があるのでことさら慎重にピアノ全体の様子を感じながら作業する事が求められるが、特に難しい訳では無くそれ相応のピアノの知識と経験があれば何ら問題はありません。そうこうしていると奥様が帰宅されて34年ぶりの再会です。変わらぬお姿にとっても懐かしい思いとまたお用命を頂いた喜びで長時間の疲れが一気に吹き飛んだ。と言っても作業途中。挨拶もほどほどにして作業再開。鍵盤筬を慎重に外して経年変化を修正して整調に最終調律をして無事に作業終了。当然、半音もピッチを上げているのでこれで一年間万全とは行きませんがこれからちゃんと調律管理は必要となります。作業を終えてお沢山の昔話に花を咲かせて気分よく帰路についた。どちらのケースも長年ピアノ調律師の仕事を続けていると経験する当たり前の出来事。だからこそ人と人との出会いや関わりは、ことさら大切にしなければなりません。それがピアノ調律師の仕事なんだと今更ながら肝に銘じてありがたみを感じた。
2024年も今日から12月。年を重ねる毎に加速度的に一年が早く過ぎ去って行く。きっとこれが正しく年を取って行くという事なんでしょう。そうなると自分の体調や家族の体調そして介護などと病院と仲良く過ごす事が必然になって特に10・11月は、お仕事の様に色んな病院を駆け巡ってその合間をぬって精力的に仕事に精を出した。今回は、合間をぬった仕事の様子を書き記したいと思います。

11月3日に第10回鎌倉プチロックフェスティバルが開催された。一口に10回と言えども過去に天気に恵まれずに当日中止を余儀なくされたりコロナ過で開催が見送られたりと主催者とその仲間たちの苦労は想像を絶すると思う。弊社は、プチロックのピアノを倉庫で預かっていて当日に合わせて調整して搬入してまた引き取って倉庫に戻したら手入れをしてと陰ながら協力している。今回も10月29日と10月30日の2日がかりで弊社倉庫で調律・調整をして準備をしたが、その時点で開催日の天気予報は、弱い台風の通過による大雨と強風と最悪の予報で開催が危ぶまれる。毎回であるが主催者は、ヤキモキと胃に穴が開く思いだろう。また、弊社も折角の労働が無にならない様に正に連日の神頼み。
年2回のフェスティバルに向けて毎回事前に調整して準備する。
天気に恵まれたが強風に煽られてスタッフも大忙し

開催当日は、弱い台風は熱帯低気圧に変わり少し北にそれて通過したので最悪の予報は外れたが会場の海浜公園は、時折荒れ狂う風に見舞われテントが壊れたりとスタッフは大忙し。弊社も朝9時前にピアノを搬入してテントが飛ばされないかドキドキしながら調律をして万全の準備をした。幸いな事にフェスティバル開催時間には、晴天になりだんだん風も収まり大勢の観客で賑わった。連日の神頼みが功を奏した気がしてそっと胸をなでおろし主催者達の労をねぎらった。
古くて汚いブライドルテープを取り外す
綺麗に貼り替えた状態
そんな合間に初めてのお客様より電話があった。「恥ずかしいんですがとっても古いピアノなんですが音が出ない所や鍵盤が上がってこない所が何か所もあって見て頂けないでしょうか?」「勿論、お伺いさせて頂きます。ピアノは、どちらのメーカでしょうか?」と聞くと「YAMAHAで50年位前の物なんですけど別の方に毎年調律に来てもらっているのですが古いので大掛かりな修理をしないと直らないて言うんです。失礼なお話ですがセカンドオピニオンて言うんでしょうかホームページを見て是非一お願いしたいと思ってお電話しました。」と言われるとちょっと嬉しくなって直ぐに予定を決めてお伺いした。ピアノはヤマハの茶色の大型ピアノで毎年調律しているのにめちゃくちゃに音が狂っていた。中を確認すると鎌倉特有の湿気で機械の動きが悪くなっている事が原因とちょっと乱暴に修理された様でブライドルテープのチップがちぎれている所が沢山あった。とりあえず全く音の出ない所を数か所修理して調律をするとチューニングピンのトルクは適正で問題無く綺麗に仕上りとても良い音を奏でてくれた。お客様に弾いて貰うと触った瞬間に「うわっ!!」ちょっと驚いて「こんな綺麗な音になるんですね~(笑)」と満足げに喜んで頂いた。ただ、湿気による機械も動きやブライドルテープの破損は、ちょっと費用が掛かるが機械自体をお預かりして修理しなければなりません。それを告げて費用とお預かり期間を伝えると二つ返事で「お願いします(笑)」と言われるのでそのまま機械をお預かりして直ぐに作業に取り掛かった。湿気による機械の運動不良は、まぁ~調律師にとって修理のイロハですが根気がいるこの作業は、熟練か否かは、歴然と時間と仕上がりに現れる。うまい具合にブライドルテープを全て交換するので手順として都合が良い。ついでにハンマーの整形にハンマーの裏側に針を刺すことにした。このハンマーの裏側に念入りに針を入れるのはお客様宅では、中々上手く行かないので心置きなく短時間に効率よく作業が出来る。この様なケースは、お客様にとってとってもお得だなぁ~何て自分の手際の良い作業と仕上がりに「どうよ、他じゃ~ここまではやってくれないぞ~!」と恩着せがましく機械に語り掛けて悦に入った!
マイクセッティングの真っ最中
昨日は、以前弊社で働いていたピアノ講師がご自身の演奏を記録に残したいと録音のお仕事でした。前日に車に機材を積み込んでと言っても録音機材って量が多くて兎に角重いんです。朝9時に会場入りして調律と整調と云うのもピアノが温まるまで時間が掛かるので整調やら整音やら他の作業をやりながら上手く時間配分を組み立てて思い通りに仕上がった。次に車から機材を下ろしてセッテイングをしてるところに先生が到着。早速ウォーミングアップでピアノを弾いて貰ってその間に録音機材の調整をしてと大忙し。夕方までかけて何回も何回も演奏を繰り返して最終的に良い状態の録音が出来た。先生もこの日の為に長い時間を掛けて日々練習に練習を重ねた事でしょう。その成果を記録してあげられた事とっても意義のある事で疲労困憊ではあったがとっても充実した嬉しい時間だった。先生は、一日も早くCDを手にしてじっくり聞きたいと思うのは当然なのですがレコーディングは、これからが大変です。編集からマスタリングという作業を経てCDにするのですがこれが良い音に仕上げるにはとっても時間が掛かる。それに12月は、コンサートにクリスマスイベントにピアノ販売など大忙しに加えて病院にも行かなくてはならないし色んな事が大忙し。仕事と病院の合間を縫ってCDを仕上げて上手に段取りを組み立てて何て考えていると「この調子ならまだまだ元気に現役行けるなぁ~!」と妙に活力が湧いて来る。忙しさという幸せを噛みしめながらお正月は何食べようかなぁ~とほんのちょっと考えただけなのにもうお正月の買出しの事で頭がいっぱいになって来た。あ~これも元気な証拠なんだろうなぁ~(笑)!
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