3月16日に横浜市内の中学校で校内職業体験学習が開かれた。ピアノ調律の仕事がどういった物なのかを説明して実際に生徒達にピアノ調律を体験して頂くといった内容。日本ピアノ調律師協会の横浜地域を背負って準備万端で学校に乗り込んだ。以前、別の中学校で講師をした時は、男女生徒達とディスカッション形式の講話と体験で適度に笑いを取ってにこやかに時間が過ぎた記憶があるが、今回は、悪戦苦闘の2時間授業の様子と思わぬ人と人との繋がりを書き記したいと思います。
今回の話は、私のお客様がこの中学校のベテラン先生で調律にお伺いした折に「もしよろしければ体験授業の講師を引き受けてくれませんか?」とお願いされました。「僕なんかでよろしいでしょうか?」と言うと「生徒達に今ここでなさっている様な面白いお話をしてあげてください。喜びますから」と。「お力になれるのであれば宜しくお願いします。」と快く引き受けて調律代金を受け取って意気揚々とお客様宅を後にしたのが昨年の2月でした。その年の12月に入り学校より依頼書類が郵送されてきて話が本決まりとなった。
その12月に三十年来のお得意様宅に定期調律にお伺いして何時もの様に雑談をしていると奥様から「今度、家の娘がお世話になります。ふつつか者ですが宜しくお願いします。」と突然切り出された。「???何の事ですか?」と聞き返すと「昨日娘が仕事から帰って来て、今度うちの学校に調律の先生が講師で来てくれることになってるの」と言うのよ。「職業体験の講師の中に梅根さんの名前があってビックリしちゃった!」ですって(笑)。お嬢さんが学校教員になったこ事は、知らされていましたが、まさかここの中学とは、知らなかった。しかも職業体験を担当している先生でこの先生が生まれる前からのお客様ですから何とも世間は、狭いものでとても喜ばしい出来事でした。
今年1月に入って間も無く調律のお客様であるパーマ屋さんに散髪に言った折に雑談の中で「3月に中学校で職業体験の講師をやるんですよ」とお話した所、「どこの中学ですか?うちの娘にも聞かせてあげたいわ~」と「え~~となんて中学だったかなぁ~六ッ川中学だったかな?」と答えると「そこ娘が行ってる中学ですよ。そうそう職業体験するって言ってたわ(笑)!ピアノ調律を選択しなさいって言っておきますね(笑)!」「宜しくお願いします」と言うと「いつもより恰好良く余計に刈り込んどくわね(笑)」とおいおい何だかサポーターが増えちゃったみたいで何とも気分が良なぁ~格好良くセットして貰っていつも以上に気分よくお店を後にした。
後日、参考の為に日本ピアノ調律師協会関係者が行った授業のDVDを見て、こんな専門的な話じゃだ~れも理解できないし、このしゃべりじゃなぁ~僕ならもっと上手く伝えられるな!とこのDVDを反面教師にして我社の社員を前に模擬授業なるものを何度か繰り返した。話の組み立てから黒板に書く図の構成など、ここぞとばかりに色々と指摘を受けて意気消沈しながらどうにか準備を終えた。当日は、朝8時45分に学校に集合。控室に案内されると既に数名の講師の方々が和気あいあいと話をしている。「おはようございます」と声を掛けて着席した。続々と講師の方々がやって来て9時15分に生徒達がそれぞれの講師を迎えに来た。音楽室に案内されて見渡すと全員女生徒で大半が吹奏楽部の生徒だった。その中にあのパーマ屋さんのお嬢さんの姿があった。「お母さんに調律選択しろって言われたの?」と聞くと「面白いから選択しなさいと言われました」と笑って答えてくれた。授業が始まると生徒達は、ピアノ調律について随分と勉強していて質問内容も的を得ていて僕も段々熱が入ってきた。ついつい専門的な内容になりすぎてしまい折角の模擬授業とは、全く内容が変わってしまった。気付いた時は既に遅し教室内は、静まり返ってしまい終了のチャイムを迎えた。生徒達は、このつまらなく難しい授業内容をノートして終始大人しく真面目に聞き入ってくれた。きっとこれが職人気質なんだろうなぁ~一所懸命した準備も空しくどっしりと肩にのしかかる疲労感と生徒達に対して申し訳無い気持ちに包まれて学校を後にした。
前回アップしたピアノ講師のグランドピアノ納品が無事終えた。防音室にギリギリに収められたピアノ。早速、調律にお伺いして素晴らしい音に仕上げて万全を期してお宅を後にした。その帰り40分後に先生よりメールが届く???何かクレームかな?と嫌な予感が走った。読んでみると「梅根さ~ん、弾けば弾くほど音が綺麗でビックリして音に酔ってしまいそうです。嬉しい!!!!ありがとうございました!!!今後ともどうぞ宜しくお願い致します。」何とも嬉しい事です。精根込めて仕上げたピアノの良さが伝わったこの喜び。そして、ピアノ調律の仕事をしていて思わぬ所での人と人との繋がり。これもピアノ調律師として最高の喜びです。この喜びを生徒達に上手く伝えられたら。今更ながら悔いの残る授業だった。今回の事は、人に何かを伝える教える難しさを痛感させられた大きな課題を残す苦い思い出として心に刻まれたが、それでもあのDVDよりはるかには良かったはずだ・・・と気を取り直してまた頑張ります。