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オーバーホールピアノ納品で仙台出張

私の普段の移動手段は、ほとんど自動車なので電車に乗る機会があまりないが、ピアノ業界人としてお決まりの出張先である浜松、掛川などは、新幹線こだま。のぞみに追い越され何だか屈辱を感じながら乗る新幹線のぞみに少しワクワクしている。しかし今回は、東北新幹線ハヤブサ。数日前からドキドキ子供の様に興奮して来る日を待ち望んでとうとう乗る事が出来ました。東京から1時間30分で仙台到着。朝の9時30分頃には、仙台駅に到着する。もちろん途中で追い越される事も無く乗り心地も良く客席も広くこの上ない快適さでありました。ここでピアノ調律師が鉄道の記事を書く訳にはいかないので、仙台のお客様のピアノをオーバーホールした経緯などについて書き記したいと思います。

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ゴールデンウィーク明けに問い合わせの電話が鳴り出ると女性の方で「御社のホームページを見てアールウィンザーのピアノについて書かれてたのでお電話しました。子供の頃に親に買って貰った古いピアノがウィンザーで音の出ない所が数カ所あって修理した方が良いのか買い替えた方が良いのか迷っているんです。」とのお問い合わせに「何時頃買われたピアノでしょうか?」すると「35年位前です。」私は、「それだったらちゃんとした調律師に見て貰えば問題なく使えると思いますよ。もちろん物凄く弾き込んで消耗しているのならばちょっと別ですがきっと大丈夫でしょう。一度見にお伺いしましょうか?」とお答えすると「私、住まいが仙台なんです。今、仙台から電話しています。」「え~仙台ですか・・・ちょっと見に行くって訳にはいかないですね~(笑)」すると「実は、引っ越しをするので新居に持って行くのに良い機会だからピアノをちゃんとしたいと思っているんです。」「この時期のウィンザーは、部品も高級な物が使用されているのでお客様がウィンザーに強い思い入れがあるのなら修理して末永く使用するのも良いと思います。」仙台からピアノを引き取ってまた届けてその運送代だけでも相当な金額がかかるし仙台で信頼の出来る調律師をご紹介する旨もお伝えして電話を切った。早速翌日に電話がかかって来て「是非、鎌倉ピアノ芸術社さんにお願いします。私、子供の頃に鎌倉に住んでいた事がありまして、これも縁だと思いまして。」嬉しい電話にとりあえずピアノを引き取って内部を見てお見積もりをしてご相談する事に。万一ピアノの状態が余りにも悪くて金額的に折り合いが付かない場合でも私共では、他の方法でどうにでもして差し上げられる用意がある事もご説明して安心してお任せ頂くように誠心誠意説明をして納得して頂いた。

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5月末に仙台からピアノが引き取られてきて早速内部を点検すると中音より少し下がった所のハンマーが数カ所パックリと割れている。相当に弾き込んだピアノでいたる所のフェルトが摩耗している。よくよく見ると天屋根の兆番の所から少し水でもこぼしたのか水滴が入った後があった。外装は、当時のままでカシュー塗装で年代を思わせる。カシュー塗装は、新品の時は、色が深くどっしりとした黒ですが古くなると日焼けに白っ茶けて剥げてくるので新築の御宅に入れるには、新たな塗料で堅く長持ちする塗装に変えてなどとお客様と連絡を入れオーバーホールする事で承諾を得た。

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外装から鉄骨・響板の塗り直しからハンマー・ダンパーアクション関係など全てを分解して交換するオーバーホール。当時の新品の製作過程で寸法が狂っていた所も多くあり全ての寸法の見直しをしてベストな状態に修正をして作業は、順調に終えた。最終調整は、弦を伸ばしては、調律をして整調・整音を繰り返しまた弾き込んで調整をするを繰り返すが今回のお届け先が仙台なので通常の数倍の1か月半を掛けて調整をする事にした。その旨をお電話すると「新居の防音室の完成が遅れていてまだマリンバを搬入出来てないのでゆっくりで構いません」との返答に「防音室にマリンバですか?」と聞くとプロのマリンバ奏者の方でした。時間的な事にご納得して頂いたのでお届けした時にあまりの音の良さにビックリさせてあげようと最終調整に力が入った。プロの方が弾くのならと一番消耗の激しいであろう箇所を新たに別のフェルトに交換したりしてどんどん素晴らしいピアノに仕上がって行くと「俺って天才」なんて有頂天になってお客様も大喜びするだろうなぁ~と想像すると疲れも吹っ飛んだ。お客様のEarl windesorと過ごした時間は、調律師としてこの上ないとても楽しい時間だった。

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ハヤブサに乗って全く疲れも無くルンルンでお客様の最寄りの駅に到着。改札口でお客様と初めてのご対面です。数組の方がお迎えに来ていてどの方だろう?と見回すとなぜかみんなこちらを見てにっこり微笑む???その中で一番改札口に近い所にかわいらしいお子さん連れの女性が居たので「〇〇さんでしょうか?」「ハイ、〇〇です。おはようございます。遠い所までありがとうございます。」「鎌倉ピアノ芸術社の梅根でございます。」と無事にお客様とご対面出来て調律をしてお昼過ぎには、全ての仕事が終えました。

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せっかく仙台に来たのだから牛タンを食べなくちゃと数日前からワクワクして下調べをしていた。まずは、この重い調律カバンを駅のコインロッカーに入れてと思いきやすべてが使用されている。駅全てのコインロッカーが使用済で空きが無い・・・。駅のインフォメーションに行ってコインロッカーが使用済なんですけどどうなっているの?と聞くと「今日は、ジャニーズのコンサートがありますのでその関係かと思います。」へぇ~ジャニーズかぁ~それは、しょうがないか。諦めて駅前牛タンの利久本店に向った。ここは、数年前にピアノを寄付しに来た時に仲間と入ったお店。またまた来ちゃったと嬉しくなり今回の牛タン定食は、格別に旨かった。食事を終えて「るーぷる仙台」と云う観光バス券を購入して仙台の名所めぐりをして存分に楽しんだ。帰りは、20時位のハヤブサを予約していたが18:00位には、観光を終えたのでみどりの窓口に行って少し早いハヤブサに変えて貰おうとしたら「すべてが満席ですので変更は、出来ません。」・・・・これもジャニーズの仕業か~ジャニーズ恐るべしと感心しながら仙台の夜の街に引き寄せられて、危うく帰りのハヤブサに乗り遅れる所だった。

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自宅敷地内のホールでコンサート

最初にお伝えしておかなければならない事として私の自宅敷地内のホールでは無く、友人が建てたホールであります(笑)!私を良く知る人達からは、当然だろ~と声が聞こえてきそうですが、友人は、大の音楽好きで生演奏・生録音そしてオーディオマニアでホールには、大規模なキッチンを備えてアコースティク音楽と録音・オーディオ・食事にお酒と大人の集う場所としてこの度、無事完成しました。今回は、ピアノ選びからこけら落としコンサートの模様を書き記したいと思います。

石井邸バック

随分前から友人から「自宅敷地内にホールを建築するのでグランドピアノを入れたいんだけど何が良いかな?」と相談を受けていました。ホールの大きさを見てみないと何とも言えませんが、予算も重要な要素となります。その予算の中で彼の求めるチョイスは、何だろうと考えて候補として中古のSTEINWAYかYAMAHA ・  ShigeruKawaiが上がるが全てが真新しい新築のホールだから新品を気持ち良く収めて彼の好みの音のピアノにしようと考えている所に彼から「録音ミキサーのエンジニアをやってる友人達からShigeruKawaiは、良い音してるよと聞いたんだけどどう?」と電話が入る。彼自身は、演奏はしないがオーディオマニアだけあって耳が良く細かな音の違いや表現力をきっちりと聞き分けられるので見て聞かせて判断するのが早いなと思い彼と録音エンジニアと僕の3人でピアノを見に行く事にした。早速、関係者に電話を入れて日時の段取りをしてKAWAI楽器には、看板調律師の五家さんに電話入れてお伺いする旨を伝え表参道店で落ち合う事にした。当日、KAWAI表参道店には、ShigeruKawaiSK-5,SK-3 が2台並んで展示されていてた。早速、僕が弾いて音を鳴らしてみると友人とエンジニアが即座に「5だな!」と顔を見合わせてうなずいている。確かにあからさまに音のふくよかさと低音の響きが違う。彼は「これだけ音が違えば5しかないだろう」と満足げに言ってSK-5に機種が決まり他を見ることなく表参道を後にした。それから、次の段取りの浜松ピアノ工場でのピアノ選定の手配をするのだが、SHIGERUKAWAIの最終仕上げをしている技術者である鈴木信道氏に電話を入れてホールに合った音の希望を伝えて用意して貰う事にした。

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工場では、2台のSK-5が僕の注文通りに仕上がっていた。両方を弾き比べると甲乙つけがたい仕上がりだったが、中音部の音の伸びときらびやかさ低音の音の鳴りに少しだけ差があった。僕は、直ぐに片方のピアノと決めた。その後は、入れ替わりそれぞれがピアノを触って全員が納得をした。総仕上げの鈴木信道氏に高音部の音の伸びとボリュームを増して貰う様に再度注文を出した。その後は、工場見学でKAWAI楽器の若くて綺麗な担当者に連れられて最初の工程から見学をした。男は、この工場見学は根本的に好きなんだろう。全員興味津々で工程説明を女性担当者がして僕が、補足説明や他メーカーだとこうだあーだと付け加えて和気あいあいと通常の見学コースとは、違ったコースで大幅に時間を掛けて見て回った。どうせ浜松に行くんだから浜名湖で泊ってと一泊二日の宴会旅行だったが、夕食の時も工場見学の話で持ち切りだった。「あれだけの設備と人の手を掛けて作っている事を考えればピアノは、安いよね~!」「新規参入企業なんてまぁ~無理だね~アナログだもの。」「あの担当の綺麗なお姉さんも梅根さんがコースを変えさせるわ勝手に説明をしはじめちゃうわでやりにくかったんじゃないの?」「いやいや美人だったから良いんじゃない!」と支離滅裂になったおじさん達の浜名湖の夜は更けていった。

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月末に工場で選んだピアノが搬入された。新築のホールは、湿度が高く6月末から24時間エアコンを入れっぱなしにしても湿度75%。今から3週間後のコンサートまで湿度が下がってくれれば良いが。友人が「コンサートこけらおとし当日は、ピアノとヴァイオリンでホールの響きを確認したいんだけどお任せするから何か考えて」との申し出に僕は、アルゼンチンタンゴをチョイスした。津山知子さんのピアノと会田桃子さんのヴァイオリンであのスリリングなヴァイオリン演奏に迫力の有るピアノは、ホールの響きを確認するには、打って付け。大勢のお客様にもあの素晴らしい演奏を是非聞いて欲しいと思った。当日は、DSD5.6MHzでの生録音をして高級オーディオで皆さんに聞いて堪能して頂き、食事は、フランス料理のフルコース。存分に飲んで食べて楽しんで頂く企画なので準備が大変。朝からピアノ調律をするが、あいにくの雨のせいで湿度78%。ピッチもA445Hzまで上がっていたのでA442Hzに下げアクションの筬も張っていたので慎重に調律を進める。そうこうしているとコックがやって来て食材・食器の搬入からテーブルセッティングそしてオーディオは、800万円もする高級スピーカーのフィーストレックスが搬入され位置決めを始めるわ録音関係では、マイクやミキサーのセッティングに追われ大忙し。気付くと13時を回っていたので慌てて演奏者を迎えに行って14時30分からリハーサルが始まる。ピアノとヴァイオリンの音のバランスが中々取れずに試行錯誤しながら録音は、マイクの位置に終始気を使いながら16時15分にリハーサルが終えた。16時30分には、開場するので調律の手直しは、15分しか無い。真新しいピアノの場合は、弦が伸びて直ぐに音が狂ってしまうがどうにか間に合った。司会進行役も僕が請負、定刻通り17時にコンサートは始まった。順調に演奏も進み半ばになりピアノもあからさまに鳴りが良くなって高い天井に響き渡るヴァイオリンの旋律にお客様の一人は、「素晴らしくて鳥肌が立ちましたよ~!今まで聞いてきた中で一番素晴らしい本当に!」と興奮しておられた。クラッシックと違ってこの類の演奏は、リハーサルより3倍位パワフルにスリリングな演奏になる。真近で聞くその演奏がお客様に直に伝わってこの演目で本当に良かったと肩をなでおろした。その後、食事に移り次々に出される料理に皆様も満足されて最後のデザートが配膳された頃に津山さんに「もう2曲くらい演奏してよ」と告げると快く「2曲で良いの!何曲でもいいわよ(笑)」と快く引き受けてくれた。お客様も聞きなれたタンゴとオリジナル曲のメロディに酔いしれて演奏が終えた。演奏者も楽屋で着替えを始めたが会場では、何時まで経ってもアンコールが止まない。僕は、慌てて「アンコールが止まないぞ!もう1曲お願い出来ない?」とマネージャーに伝えると「もう着替えちゃってるから無理そうですよ」と言われたが、一向に拍手が止まない。すると普段着に着替えたお二人が登場して会場は、割れんばかりの拍手に見舞われてもう2曲最高の演奏を披露して「アルゼンチンタンゴの調べ」は、幕を閉じた。

 

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コンサートが終えてオーディオマニアが残ってフィーストレックスのスピーカーを鳴らすとまるで目の前に演奏者が居るような臨場感で切れの良い輪郭のはっきりした音に高級スピーカーの醍醐味を存分に楽しんで全てが終えて帰宅したのが24時を回っていた。通常のコンサートの仕事と違って朝から休む間も無く動き回って総勢58名のお客様を招いてのコンサートで大変ではあったが、お呼びした皆様全員から翌日にお礼の電話やメールを頂いて疲れも吹き飛んだ。喜んで頂いたお客様の顔を思い浮かべ演奏者の持つエンターテーメント性と生演奏の持つ音楽の力、そして美味しい食事にお酒と来ればもうこれ以上人間の五感を刺激する余地は、無いだろうなぁ~今回の企画の成功に安堵した。しかし、自宅敷地内にホールと言えども、キッチン付きのこんな大人の集いの場を新築しちゃう友人を持てて良かったなぁ~とつくづく感じ入る。これから皆で何時でも飲んで食べて音楽聞けちゃうんだもの楽しいに決まっている!