「ひと言」カテゴリーアーカイブ

ピアノの修理でてんてこ舞い

皆さんも経験がおありだと思いますが、喫茶店に入るとお客さんは、誰もいない。暇そうにしてたお店の店員さんがにっこりと笑顔で席に案内してくれる。するとすぐさま次から次へとお客さんが入って来て見る見るうちに満席になり行列状態。その様子に新たなお客さんは、入店を諦める始末。まるで僕がお客さんを連れてきたのかな?僕って福の神?なんて思ったりして。しかし、お客さんも重ならずに分散してまんべんなく都合よく来てくれるとお店も助かるだろうなぁなんて考えてもそれが商売なんでしょう。不思議でなりませんが、そういった事は我々の仕事でもあります。そんな近況を書き記したいと思います。

DSC_1850

DSC_1847

ありがたい事に「ホームページを読みました。」と言って仕事のご依頼を頂くことが増えました。大方は、ピアノ調律の依頼ですが、この春位からは、修理依頼が増えて6月7月になっても未だてんてこ舞いの嬉しい悲鳴です。まずは、日本在住のアメリカ人ピアニストが所有するスタインウェイM型のオーバーホールです。およそ70年前のニューヨークスタインウェイで以前アメリカ人の調律師がオーバーホールしたピアノを購入して日本に運び込んだピアノ。日本に来て30年程経ちますが88鍵スティックでソステヌートの金具は、壊れて紛失していてまぁ~まともに音が出ない状態。もう一台グランドをお持ちなので問題は、ありませんでしたがそろそろちゃんと修理して弾きたいとの事で修理依頼がありました。お客様の希望で外装と響板、鉄骨は、そのままにして修理して欲しいとの申し出に僕は、「そこまでやるのだったらついでに外装も含めて全てやりませんか?」と問うと頑なに「外装は、そのままじゃないとオリジナルじゃなくなっちゃう。鉄骨も響板もオリジナルじゃないといけません」ときっぱりと断られた。いざピアノを引き取ると下見した時には、解らなかった響板の割れが数カ所見つかり。尚、鉄骨・響板に以前修理した時にマスキングをしてなかったのかと思う位に黒い塗料が至る所に着いている。いずれにせよ響板の割れを修理しなければならないので全てを分解して外装以外の全ての修理をする事にせざる得なかった。

DSC_1825

修理作業も無事終えると想像を絶するピアノの音に僕自身ビックリ。さすがスタインウェイこの表現力に驚かされる。出来上がったピアノを我社のセレクションルームに入れて約1か月掛けて最終調整をする事にした。というのも弦・ピン・ハンマー・アクション部品も交換してあるので少し弾いて弦を伸ばして整調・整音を繰り返して少しなじませてからお届けします。その間、我社のピアノの先生やピアニストに来てもらって弾き込んで貰っています。この気持ちの良い音とタッチは、不思議と何時までも弾いていたいそんな気持ちにさせられてさっぱり作業が進みません(笑)。さぁ8月の納品に間に合う様に最終仕上げに入ります。いや~ここまで良い仕上がりだとアメリカ人ピアニストのお客様は、どんな反応をするのだろう?今から楽しみでならない!

DSC_1870

そんな中、仙台からEarl Windsorの修理依頼があってこれまた並行して全修理。外装の塗装から内部の部品交換と手間のかかる仕事です。このピアノを修理していると製作時に色んな所の寸法がズレていてこれを全て正常な状態にする作業から始まった。作業を進めているとどんどんと交換した方が良さそうな部分が出てきて少し作業が遅れているが只今進行中で80%位仕上がっています。このピアノの事については、改めて記事にしたいと思っています。

DSC_1833

そしてそんな中、実家に放置していた30年程前のYAMAHAの高級機種を孫の為に修理して調整してお届けするという仕事。調律師の皆さんならばお解りだと思いますがこの時期のピアノは、バットスプリングコード(バットフレンジコード)が経年変化で切れてしまいます。これを88鍵全て交換。そして23年ぶりの調律をして整調・整音を繰り返してお届け。これも細かな仕事です。ただ仕上がるとさすがに抜群に良い音になります。この音とタッチで一気に疲れが吹っ飛んでしまう。

DSC_1873

 

DSC_1611

そしてそんな中のそんな中、立て続けに消音ピアノユニットの取り付け依頼が入る。毎年の調律のお客様の仕事に音楽会の調律など普段こなしている仕事に加え修理ピアノが重なりおまけに消音ピアノユニットの取り付け。そしてこの年になると色んな役職が回って来ていて会議を仕立てたりとちょっと頭がパニック状態。消音ピアノユニットは、頑張って取り付けても半日はかかる。規格が合わないピアノに取り付けて調律まで含めると1日がかりの仕事です。こちらのお客様は、もう30年のお付き合いで娘さんの為に購入したのだが娘も独立してお母さんが習い始めて20年。とうとうご主人様が定年して家に居る事が多くなると思い切ってピアノが弾けないと消音ピアノユニットを取り付ける事に。取り付けの日もご主人が旅行に出かけている日に合わせて日程を調整した。当日、朝お客様宅にお伺いすると「私、友達とランチの約束があるから出かけるの、適当にやっててちょうだい。夕方には、戻るから宜しくね」と僕は、「はい、しかし僕もお昼を食べに出掛ける予定なんですけど・・・」すると「あ~そうね鍵預けるから勝手にやってて大丈夫よ」と言い出す。「いやいや鍵は、ちょっと困ります。じゃ~今、コンビニに行って何かお昼を買ってきますからちょっと待っててください」と言うと「大丈夫よここに鍵置いとくわ。もし良かったらここにカップラーメンとかパンとか少しあるから冷蔵庫の物も適当に食べて良いからお願いね」と言い残して出かけて行った。いくら長いお付き合いのお客様といえども勝手に冷蔵庫をあさる訳にはいかず、かといって鍵に触れるのは大いに気が引ける。いや~まいったなぁ~まぁお茶菓子と飲み物も用意して頂いているのでまぁ~いいか~と作業を進めた。順調に作業が進んだ所でピンポーンとチャイムが鳴る。直接玄関に出向くとお蕎麦屋さんが「出前で~す」と僕は、「ここの家の方、今お出かけになっていて誰もいませんよ」と告げると「〇〇さんに12時ピッタリにピアノの調律師さんに出前持って行ってくれと頼まれました。」僕は、ありがたくそのかつ丼を戴いて30年の長いお付き合いとその人柄に心から感謝した。われわれピアノ調律師は、一年に一度の訪問ではありますが、良い関係が築けると何十年と長い関係が続きます。ましては、お客様宅にあがり込む訳ですから常に誠実でいなければなりません。私も未だ尚、そうある様に身を引き締めて仕事に励まなければならないと考えます。そうしていればまた美味しいものにありつけるかも(笑)!

第35回遠藤郁子ピアノリサイタル

平成28年6月3日金曜日に鎌倉の清泉小学校で「第35回遠藤郁子ピアノリサイタル」が開かれた。例年通り3日に渡りグランドピアノの調整をして本番を迎える訳ですが、過去2回に渡りその様子を記事にしておりますので今回は、別の切り口でお伝えできればと思いここに書き記したいと思います。

DSC_1804

清泉小学校でのコンサートのお手伝いをする様になって早12年。遠藤郁子さんの専属調律師五家和夫さん(河合楽器の看板調律師)との縁です。その縁とは弊社は、河合楽器製作所と正式の販売契約をしているもののSigeruKawaiの調律・管理をする為には、河合楽器のSigeruKawaiメンテナンスの資格を取得する必要があった。SigeruKawaiに関しては、資格が無いと調律が出来ません。つまり河合楽器もそれだけ神経を使って製作・販売をしてご購入されたお客様のピアノが何時までも良いコンディションを保って行ける様に社運を掛けて製作・販売に取り組んでいる国産最高品質のグランドピアノなのです。その時の研修・試験官が五家和夫さんでその時に初めてお目にかかりました。河合楽器の社員でも何でも無い者がカワイ竜洋工場のお休みの日に工場内の作業施設で一人一台のピアノを宛がわれて一から全ての工程の作業の手解きを受ける。そして最後は、調律までチェックが入る。とても楽しいひと時だったことを記憶している。内容は、専門的過ぎる事と守秘義務もあるので詳しく書く事は出来ませんが、ビックリした事もあってピアノ内部の機械の名称がヤマハとカワイでは、違う物があった。最初に五家さんが「すべり金具を上げて」と言った時に僕は、すべり金具・・・何だそれ?その時に日本各地から5人が受講していたが、誰一人質問する人が居ない。え~みんな知っているのかなぁ~しょうがなく「すみません、すべり金具て何ですか?」と思い切って質問すると五家さんが「え~と、すべり金具は他所では、そうそうベッティングスクリューでしたね」と教えてくれた。後で残りの4人に聞いてみたら全員河合楽器出身者だった。そんなスタートで充実した内容とカワイ流の調整の方法を学ぶことが出来た。最終日は、工場内の整調BOXで各自のピアノを調整している所に入れ替わりに3人の講師が訪問してピアノをチェックして指導して行く。その一人の講師が入って来るや否や「梅根さんてお父さんも調律師なんですか?」と聞くので「えっ違いますよ。父は早くに亡くなってますから」と告げると「いや~きのう帰ったら家の家内が鎌倉の梅根さん知ってるって言うんですよね。旧姓〇〇て言うんですけど、何度も電話でお話した事があるって言うもんですから?」僕は、「それ僕ですよ、僕の事です。〇〇さん、知っていますよ。上司の玉村氏が男性社員より仕事の出来るスーパーレディて言ってましたよ(笑)。注文とかのやり取りで〇〇さんには、お世話になりましたよ~奥さんだったんですか~?」そんなやり取りの相手が鈴木信道さんで今は、SigeruKawaiの最終調整を全て彼が担当している凄腕調律師です。そして次に五家さんが僕のBOXに訪問して来てバックチェックの調整をみて「いいね~いいね~」と誉めて頂いて「僕は、一年に一回鎌倉に仕事に行っているんですよ」と言うので「芸術館ですか?」と聞き返すと「遠藤郁子さんのコンサートを清泉小学校で毎年開いているんですよ。それで調律に鎌倉へ」僕は、「清泉小学校にホールあるんですか?」と聞くと「意外に立派なホールがあるんですよ。ただYAMAHAのCFなんですけど一年に一回しか使わない湿気の多いピアノだから大変なんですよね~(笑)。3日前に入って準備するんですよ」とにこやかな表情で言うもんですから「日にちが決まったら電話してくださいピアノ磨きでお手伝いします(笑)」と伝えると「本当ですか~じゃ~電話入れますね」と笑顔でBOXを出て行った。

ピアノ画像 032

翌年になって五家さんから携帯に電話が入り「遠藤さんのコンサートの件なんですけど・・・」正直、すっかり忘れていたのですがそれが12年前だった訳です。日本でも指折りの最高の調律師にマンツーマンで一緒に仕事をさせて頂いて色んな事を学ばせて頂いております。年々ピアノも古くなって毎回コンディションが変わるピアノを分解して組み上げ遠藤先生の要求に応えるピアノに仕上げるには、毎回何らかの難題が持ち上がる。その度に五家氏の丁寧な対処を目の当りにする。他の研修では、まず遭遇する事の無い事例に調律師としてこの場に居合わせる幸せを感じ得る。そしてこの仕事の中で一番好きな時間は、遠藤先生のリハーサル風景です。当日演奏する曲をウォーミングアップしながら先生がピアノと対話している。ミスタッチがあると納得いくまで何度も繰り返し弾きなおす。どんどんピアノが目を覚まして会場の隅々まで響き渡ってくる。ピアニストのリハーサルは、それぞれのやりかたがあるが遠藤先生は、リハーサルにも関わらずその演奏にどんどん演者の思いが伝わってくるので音を気に入って頂けているのかタッチを気に入って頂けてるのか物凄い緊張感でドキドキしてそれが妙に心地良い。今年も何ら問題なく本番を迎え、遠藤先生が曲の説明を丁寧に生徒達にお話して演奏が始まる。前半は、ベートーベンソナタで月光・熱情。後半が全曲ショパンで最後が英雄ポロネーズ。最初の月光の1楽章を弾き始めると優しく静かな音と立体的に際立った音が歩調を合わせて会場全体に緩やかに広がっていった。

DSC_1806

人生、ひょんな所から色んな所で色んな方々と繋がりがあります。来月友人がSigeruKawaiを購入するので早速、鈴木信道氏に細かな音の注文の電話を入れて何台か用意して頂きます。そのピアノを竜洋工場に行って実際に弾いて聞いて選んでそのピアノを運んで貰います。これがグランドピアノを購入する時の選定販売てやつです。折角グランドピアノを購入するのですから工場見学もして楽器博物館にも行って鰻食べて・・・なんて話をしていたら仲間が「俺も行きたい・・連れてって」「俺も」「俺も連れてって、ピアノ工場なんて見た事無いからなぁ~」「どうせなら一泊で浜名湖に泊まって宴会して翌日ピアノ選んで帰ろうよ」なんて勝手な事を言い出す始末。「じゃ~皆で宴会兼ねてピアノ選びに行くかぁ~」と即時決定して「おいおいどっちが目的なんだよ‥(笑)」「宴会だろ!」「舘山寺温泉だろ!」まぁ良い仲間に恵まれました。