9月17日 台風の日のコンサート

超大型台風18号が9月17日から18日に史上初の九州から北海道と日本の全てに上陸し日本全国に甚大な被害をもたらした。思いもよらず被害に遭われた皆様に心よりお見舞い申し上げます。今回は、そんな中開催か否かコンサートの準備から開催までの奮闘について書き記したいと思います。              自宅にホールを建てた友人から携帯に電話が入る。「9月17日にコックの手配が出来るのでコンサートを開きたいので演奏者の手配を宜しくお願いします」「どんな感じが良い?クラッシック?ジャズ?何が良い?」友人は、「クラッシックが良いな!お任せするから上手い人をお願いします。上質でいきたいから(笑)!」と言って電話を切った。上質と来たか~と思い直ぐに頭に浮かんだのが今回演奏をお願いした佐藤英梨香さんでした。友人のお嬢さんでイギリス帰りでエルトンジョンや葉加瀬太郎とも演奏した経験を持ち横浜室内合奏団でコンサートマスターとして活躍している。小柄な彼女がステージに立つと一際大きく見栄えがして何より美しい。そのエンターテーメント性の高さと質の高い演奏を友人のホールで実現したいなぁ~!お客様は、きっと圧倒されて喜んで頂けるなぁ~想像すると何だかワクワクしてきた。早速電話を入れると「ご無沙汰してます~!」と元気な声が「9月17日にエリカちゃんに演奏の依頼なんだけど?予定は空いてる?」「ちょっと待ってください~」手帳をめくる音がして「大丈夫です。連休の真ん中ですね!ありがとうございます。」僕は、「ヴァイオリンとピアノ伴奏で出来ればピアノソロも数曲弾いて欲しんだけど以前の伴奏の女性方の予定は、どうなのかな~?確認してもらえる?」と聞くと「彼女は、出産して今は、お休み中なんです。でも今一緒に演奏しているピアニストが居ます。男性なんですけどとっても上手なんです。よろしいでしょうか?」「男かい?綺麗なお姉さんが良いけれどまぁ~エリカちゃんが信頼してるならオジサンは我慢しよう(笑)!」とその他色々と会場や開催の趣旨など大人の話をして折り合いが付いた所で電話を切った。すぐさま電話が鳴り「ピアニストも大丈夫でした(笑)!」僕は「これで決定だね!楽しみだね~宜しくお願いします(笑)!」と言って上機嫌で電話を切った。9月の開催が近づいて来た所にもしかしたら台風が直角に進路を変えて日本に上陸するかも?と天気予報が言っている。友人と「いや~困ったねぇ~来るのかね?」友人は「まぁ~大丈夫だろう~?だめかなぁ~?神のみが知るてやつだね!」僕は「イベント興行は、天候のせいで大損害が出る事もあるので主催者側の日頃の行いが物を言うね(笑)!」すると即答で「じゃ~大丈夫だな(笑)!」と言って台風がそれる事を懇願した。         

今回のコンサートの録音は、鎌倉ピアノ芸術社で新たに用意したPCM768KHzとDSD5.6を2系統でトータル3系統で録音をする事になっている。DSD5.6の高音質と今回は、まだ世界でも録音された事が少ないPCM768KHzで録音を試みるのでさてはてどうなるか・・まぁ~もし失敗してもDSD5.6が2系統と保険が掛かっているので安心ですが、楽しみでもあるがちょっと心配(笑)!コンサートの2日前にホールでピアノの調律作業に入る。今回は、男性ピアニストでショパンにラベルをソロで弾く。そしてヴァイオリンとバランスを考えて2日前に音色の調整と調律を仕上げて当日の午前中に再度調律作業をする事にした。納品して1年ちょっとかなり良い音に育ってきているがまだまだやる事は沢山あって終わりがない。アクションを引き出し鍵盤調整から整調から整音と順調に作業を進める。ここでのコンサートは、いつも録音をするのでピアノは、万全に調律しなければならない。しかもホールも含め電源から録音機械に至るまでそこいらのスタジオとは、比較にならないシステムが用意されているもで通常販売されているCDとは、あからさまに音が違う。ピアノ調律師としてここでの作業は、持ち合わせているありったけの技術をピアノに注ぎ込むに値する条件は、全て揃っている。何より時間にとらわれずに好きな時に好きなだけピアノをいじる事が出来る。やはり持つべきものは、お金持ちの友人てとこかな(笑)!

開催前日にお呼びしているお客様全員に電話で開催決定のご案内をすると「明日は、宜しくお願いします。楽しみにしていま~す。」と皆さん来る気満々でホットむねを撫で下ろした。当日、朝からピアノの最終調整をすませて12時30分に雨の中、演奏者がやって来た。早速、リハーサルに入ると予定していたヴァイオリン奏者の立ち位置が変わった。我々は、慌てて録音マイクのセッティングを変えて右往左往。会場では、豊かなヴァイオリンとピアノの音が響き渡っている。あ~良い感じにピアノが仕上がっていると自画自賛しながら機材の調整に追われたが、この質の高い演奏ならば今日のコンサートは、大成功だな!と確信を得たが後は台風次第だなとやや不安材料を抱えていた。リハーサルも無事に終えて再度ピアノの調律。微調整もあっと言う間に終えた。外は、風は無いが、雨足はやや強い。4時過ぎからお客様がお見えになって私は、傘をさして外に出て車の誘導に会場案内と大忙し。その甲斐あって開演前には、何ら混乱も無く全員お集まり頂いた。

開演時間になりまたまた僕がマイクを持って司会進行役。和気あいあいとした雰囲気で無事コンサートが始まり。演奏者達の見事な演奏と立ち振る舞いどれをとっても上質なエンターテーメントでお客様全員を魅了した。何時もの事ですが近距離で聴いて見て肌で感じてのコンサート。今回も大成功でした。コンサート終了後は、フレンチブッフェで飲み放題と今度は、お客様の御給仕で大忙し。お客様のご機嫌な様子を見ながら良い音楽と美味しい食事にお酒と人間の五感を存分に満たすイベント、他では中々味わえないだろうな!と苦労が報われた気分で疲れも吹っ飛んだ。ありがたい事に帰りの時間では、風も無く雨も上がって混乱なく皆様お帰り頂けた事が何よりの幸いだった。この夜半に暴風雨になるとは・・・・。後日、友人に「僕の日頃の行いが良かったのかな(笑)!」と言うと「いやいやお客様の行いが良かったでしょう(笑)。」もっともな意見だ!

 

 

 

 

 

世界の名器 スタインウェイ・ベーゼンドルファー・ベヒシュタイン・ファツィオリ 聴き比べ

今年の関東の8月は、梅雨の様に雨が続き涼しくて過ごしやすかったが湿度が高くピアノには、酷な夏だった。鍵盤がさがったまま上がってこないとかピアニストからは、タッチが重ったるくて音がくすんでしまったわ!などとお盆の真っ只中に電話が入る。対応に追われながら気が付けばもう9月。このまま涼しくなってくれれば良いのですが・・・。そんな8月に知り合いのオーディオマニアの方から3枚のCDが送られてきた。今回は、そんな8月の様子を書き記したいと思います。

8月11日にあの友人宅でコンサートが開かれた。津軽三味線・フルート・ピアノの珍しいコラボコンサート。ピアノ・フルートは、コンサートでも経験しているので様子が分かるが津軽三味線というのは、初めて。どんな感じなんだろうと想像しても考えても何してもさっぱり分からないので取敢えずピアノが一番良い音になれば良いやと半分やけくそで当日朝から調律をした。このホールのピアノも搬入して1年が経つ。前回に相当念入りに調整をしたので良い感じで仕上がっている。なんら問題なく短時間で仕上がった。今回のコンサートもDSD5.6のハイクオリティで録音をする。リハーサルで三味線の音がホールに響き渡るや否やまぁ~強烈なアタックとボリュームで録音部隊もマイクのセッティングや調整にあたふた。私も全体のバランスを聴きながらピアノのセッティングに追われる。津軽三味線は、もう打楽器の様で会場の外では、今迄何一つ音漏れが無かったのにこの日は三味線の音だけがガンガンと漏れ聞こえている。津軽三味線恐るべし!

本番では、お客様のよく知る曲を中心に和やかに進み皆さん上機嫌。意外な取り合わせのコンサートも大盛況で終えた。その後のコックを招いてフランス料理ビュッフェと飲み放題で人間の五感を全て満たされた感でお客様の目じりも下がりっぱなしで幕を閉じた。その折にオーディオマニアの方が自慢のスピーカーを持参してベヒシュタインで録音したCDを聴かせてくれた。世の中は、スタインウェイ一色の時代ベヒシュタインは、珍しく独特の中低音を再現していた。私は「このCD欲しいのでレーベルとか教えてください」と言うと「もう販売してないんですよ。これは、ちょっとマニアックなCDで他にスタインウェイ・ベーゼンドルファー・ファツィオリもありますよ。貸してあげますよ」てな具合で後日、3枚のCDが送られて来た。

今から20年以上前の事ですが日本ピアノ調律師協会の事業で4大ピアノの弾き比べコンサートがサントリーホール?(だと記憶しているが)で開かれた。スタインウェイ・ベーゼンドルファー・ヤマハ・カワイである。当日のピアノのコンディションでピアニストが自由にピアノを選んでそれぞれを弾くといった調律師協会としては、大層に思考を凝らした良いコンサート。外国人男性ピアニスト(昔の事で誰だったか忘れてしまった)が舞台に現れてベートーベンの悲愴をスタインウェイのフルコンで弾き始めた。聴きなれた曲と聞きなれたスタインウェイの音が会場に響き渡り安心して1楽章を終えるとピアニストが突然立ち上がりカワイのフルコンに交換。2楽章からはカワイで弾くらしい・・・会場からどよめきが沸き上がるが演奏が始まるとふくよかな音色にあの名曲悲愴の2楽章が会場の隅々まで響き渡るとそのざわめきも一瞬で収まった。その後、ベーゼンドルファーとヤマハとそれぞれにピアノを変えながら色んな曲を弾いたはずだが遠い昔の事なので記憶が薄れてしまってもう覚えていない。この時に我々の録音部隊が高音質録音して記録していれば後日何度も聞き返してあの興奮と質の高いコンサートを自宅で再現出来たのにとちょっと悔やまれる。今思えば4台のピアノの調律など準備を考えると調律の時間だけでも最低でも8時間は掛かるだろう。ピアニストもどの曲をどのピアノで弾くのか吟味しなくてはならないし、この素晴らしい企画の裏では、大変な時間と労力と費用が掛かったであろう。当時の日本ピアノ調律師協会の担当者の方々に心から労をねぎらいたいと心から思うがよほど大変だったのか、このコンサート以来この様な大掛かりな興味をそそるコンサートは、残念ながら開かれていない。ここでは書けないが色んな大人の事情があるんでしょう・・・・是非、子供達にこの様な企画で聞かせてあげたいと思うのは、僕だけかな?

送られてきたCDの中からまずベヒシュタインを聴く。まっすぐに伸びる音と太い中低音。素晴らしく良い音。一本張りの弦とBass巻き線が少なく真線が多い構造が目に浮かぶ。通常販売されているCDと違いストレートに細かく音色が録音されている。マニアックという意味が良く判る。恐らく安直なステレオじゃ良い音はしないだろうと思われるがそれなりのステレオだとあの大型のピアノの寸法が目に浮かぶ位にピアノ調律師にとっては、夢見心地なCD。これがジャズじゃなくてベートーヴェンだったらなぁ~とちょっと思った。次にスタインウェイとベーゼンドルファーがシャッフルされて録音されている。スタインウェイは、もう聞き馴染んだ音で今更何も書き記す必要が無いがベーゼンドルファーは、97鍵のインペリアルではなく92鍵タイプらしい。それでもあの澄んだふくよかな音色と何時までも伸び行く音が見事に録音されていて大変興味を注がれる。もう一枚がファツィオリで新鋭のイタリアピアノメーカーで今のファツィオリの音とは、ちょっと違うが独特の音色。でも今のファツィオリの方が良いかな!と思ったがどれも出来ればベートーベンやモーツァルトやショパンいやいやドビュッシーなどで聴きたかった!音楽の楽しみオーディオの楽しみ・・・とっても豊かな時間が過ごせると心から思う。

その折に録音部隊の友人が「このCD、梅根さんのタッチと調律の音にピッタリなんですよ!」とジャン・イヴ・ティボーテを紹介された。早速、Amazonで購入して聞いてみるとまぁ~実に良い!僕の感性にピッタリて感じで今はまっているピアニストです。これを如何に説明するかちょっと悩むが昔、3度のF1ワールドチャンピオン輝いたブラジルのネルソン・ピケというドライバーがいて彼の所属するベネトンチームに日本人メカニックが在籍していました。当時は、油の乗り切ったミハエル・シューマッハがいて盛りの過ぎたピケは、若い才能あるドライバーに先行され世代交代を迎えていました。そんな時にフジテレビのインタビューでその日本人メカニックを取り上げられた時に「僕にとっては、ピケが最高のドライバーだ。彼が2時間のレースを戦った車をバラシて解るんだけどシフトリンケージが全く減っていないんだよ。他のドライバーは、ベロベロにすり減っているのにピケは、全く減らないんですよ!車の扱いが優しいというかいつも適正で正確で速いなんてやはり最高ドライバーなんですよ!」というのを聞いた事がある。当時は、6速マニュアルで燃料規制もあって日本人ドライバーも参戦していてF1人気はうなぎのぼりの時代。今回のジャン・イヴ・ティボーテの演奏は、正にピケのそれに当たるピアノを酷使しない車で言えば決してオーバーレブしないピアノの性能を綺麗にマックスに使いこなしピアノに愛情を持って演奏する様子が聞き取れる。思えば、F1メカニックも調律師も舞台裏の職人。結果が良ければドライバーの手柄、結果が悪いとメカニックの責任と調律師も同じです。だから我々にしか判らない事も多い。それもこの仕事の言い知れぬ魅力なんだろう・・・まぁ~F1と町場の調律師じゃ舞台が違い過ぎるか(笑)!

 

Kamakura piano artistry corporation | Tel : 0467-47-1502

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