ピアノを通じて嬉しい事が!

すっかり春になって気分もハレバレしている所に日本全国誰もが関心を持った4月1日新元号発表。その日は、鎌倉から都内に移転したご高齢のお客様宅に朝から調律にお伺いしていました。お母様お1人住まいで「都心に移転して遠くなるけれど必ずあなたに来て頂きたいの」とお手紙を頂いて閑静な素敵なマンションに初めてお伺いした。11時30分ちょっと前から二人でソファーに座ってその発表を待った。随分待たされてようやく「令和」と発表になった時に顔を見合わせてお互いが「令和」と言ってほほ笑んだ。お互いに昭和・平成そして令和と三つの元号を生き抜く訳で新元号の発表をお客様宅で見た事が深く心に刻まれました。帰りしなに「お体に気を付けて沢山ピアノ弾いてください(笑)。お怪我だけは、くれぐれを気を付けてください。」と言うと「来年も桜の時期にお待ちしてますから。」と言って頂いて客様宅を後にした。今回は、時代と共に変わってしまった仕事ととても嬉しい出来事があったのでその事について書き記したいと思います。

横浜市立中学校から職業講話の依頼を受けて3月19日に2時間講話と体験の授業をしてきました。ここ数年、依頼を受け続けているので少しは手馴れて来たのか、授業の時間配分も臨機応変に出来る様になって来たつもりでいます。横浜市のカリキュラムの優れていると感心する所は、後日、必ず授業を受けた生徒全員から手紙が届く事です。これは、国語の授業で手紙の書き方として指導があるのだろうと想像しますが拝啓に始まり季節の書き出し文から御礼と感想そして敬具で締めくくられる。生徒がそれぞれの便箋に丁寧にその思いが綴られる。弊社が何年も複数校からのこの依頼を受け沢山のお礼状を頂いて今回初めて「ピアノ調律師への興味が湧いてきました。」との一文が目に入った。その喜びたるもの自分自身驚きでした。生徒達には、ピアノを通じて私の体験談を基に「将来一番好きな事を仕事にすることが一番の幸せです。」と伝えたいと思って取り組んでいます。大半の生徒にその思いは、少しは伝えられたかな?と思って来たつもりですが、初めて調律師に興味が湧いたと書いてあると何とも言えぬ喜びに何度も何度も読み返した。既に段ボール箱一杯になって大切に保管している手紙の中でお金で買えない飛び切りの喜びを頂いた事にただただ感謝すると共にこのボランティア活動に対する喜びと更なる意欲が湧いて来た。

桜のトンネルが続いて、ついついアクセルが緩む

冒頭で昭和・平成そして次は令和と三つの元号を生き抜くと書きましたが、昭和の時代は、楽器業界花盛り。ピアノが売れて売れてウハウハ。お子さんが居る家庭には、必ずピアノがあるといった時代で横浜市○○区○○町の区ではなく町の中で朝から一日何件もお客様宅を回って効率の良い仕事が出来る時代。一軒のマンションで朝から夜まで一日中何件も仕事をこなすといった事も珍しくない時代でした。昭和も50年後半あたりからピアノ販売も大きく落ち込み始めて昭和61年にピアノ工場の倒産や閉鎖が続き楽器業界の暗黒の時代に入ります。ただ、ピアノ調律師の仕事では、以前に購入して頂いたお客様が沢山いらっしゃったのでいきなり仕事が無くなる事も無くまた、大手販売店の倒産が相次いだ事が幸いして弊社は、お客様に支えられながら運良く順調に販売を持続する事が出来ました。平成に入りバブルの崩壊など暗いニュースが続く中、弊社の仕事のエリアに大きな変化が表れてきます。昭和では、神奈川県内といっても鎌倉、横浜を中心に限られた範囲しか商圏として網羅出来なかったのが自ずと神奈川県全域から東京の一部と必要に迫られ需要に応じて商圏が自然に広がって行き営業車の走行距離が爆発的に伸びて行く事になります。インターネットの普及により全てのビジネス形態が変わりSNSの普及により私と直接面識のない色んなお客様からのお問い合わせで新たなビジネスチャンスが広がって行きます。当然、その行動範囲は、広大になり営業車の走行距離はまたまた跳ね上がりまた、新幹線・航空機の利用も増え各地に知り合いが増えて、もちろん採算の取れる範囲内ではありますが、新たな人との出会いに心躍り有意義に楽しく仕事が出来ている事。ただただ弊社を支えて頂いているお客様達に感謝するばかりです。

ネズミの被害で散らかっている鍵盤下。パンチングクロスは、全て交換。鍵盤ブッシングクロスも沢山交換した。
西伊豆「愛の鐘響く恋人岬」

そんな中、調律修理依頼一通のメールが届きました。長年放置保管しているピアノを使えるようにして欲しいとの依頼です。西伊豆の静岡県賀茂郡からの問い合わせで片道3時間は掛かるであろうご依頼に躊躇しながらお電話を入れるとご主人様が親に買って貰ったプリマトーンというピアノで湘南の実家から西伊豆の近所の空家にシロウトが運んだというのです。そして最近、力自慢の友人達でご自宅に運び込んだとの事でした。私は、その近郊の調律師を紹介する旨を伝えましたが出来れば御社にお願いしたいと思うとの申し入れにまたまた躊躇しました。下見に行くにも遠いし何かあって後日部品を取り寄せてなんて事も出来ないなと思いピアノ全体像と内部写真をメールで送って頂くことにした。直ぐに送られて着た写真は、内部に虫食い被害がある事が分かりました。そのメールには、西伊豆でシーカヤックなども体験できる「伊豆自然学校」を運営しておりますと記載されていた。伊豆自然学校をネットで調べると海の洞窟をシーカヤックで探検している様子などが写真にあがっている。もうピアノよりシーカヤックに興味が湧いてしまって「ピアノは、見てみないと何とも言えませんが、お伺いして致命的な問題が無ければその日から使える様に修理します。」と費用の幅とまるまる一日仕事になる旨をお伝えした。翌日にメールにてご夫婦で相談した所、是非お願いしたいとの事でしたので何が有っても問題の無い様に考えられるすべての部品を取り揃えて朝6時に自宅を出て9時に到着した。早速ピアノを見てみると虫食いとネズミ入っていた事が判明した。ネズミの被害は、昔は多かったのですが最近はちょっと珍しいかも?フェルトの虫食いとネズミが食い荒らした部品をせっせと交換や修理をして何度も調律して調整しているとご近所の奥様二人が調律の様子を見に来られた。晴天でとても暖かな日に恵まれて静かでのどかな土地にとても気さくな面白い奥様ともう一方は、お隣でご夫婦でガラス工芸作家だという「生島明水」という方とお会いする事が出来とても気分良く仕事がはかどった。ピアノも息を吹き返して良い音がするように蘇らせました。17時30分に全作業が終えてお客様宅を後にする時に「来年は、泊りで是非シーカヤックも(笑)!」と言われて「シーズンに合わせてお伺いする事にします(笑)。」と約束をしてとても気分良く帰途についた。帰り直ぐ近くに恋人岬と云う名所を通り掛かったので車を止めて絶景の夕日をしばし眺めた。はっと気が付いて周りを見渡すとさすが恋人岬。平日にも関わらカップルばかり。叔父さんが一人夕日を眺めて感傷に浸るもどうにも居心地が悪いのでそそくさとその場を後にした。遠くまで仕事に来たが来てみるとそこで新たな出会いがあってネットワークが広がって行く。ピアノを通じて新たな人達との出会いに恵まれて今は、楽しくてしょうがない!