久々のearl windsor

今年もあと一カ月半余りと何だか今年はとっても早く感じる。最近またまた世界中でコロナウィルス感染者が急増して日本でも大変な事態になりつつある。昔流行ったスペイン風邪は、終息に2年程掛かったと聞くが、今回のコロナウィルスもやはり2年位掛かるのか?今の医学の進歩をもってしても未だ終息の兆しさえも見えない。仕事で車を走らせると各地で閉店・廃業された店舗物件がやたらと目につく。経済への打撃の傷跡が町のあちらこちらに点在する様子から別の意味で恐怖を覚える。これから人々の生活や社会の仕組みが変わって行くんだろうなとそんな光景を目の当りに見せつけられると先行きの不安を感じずにはいられない。冒頭からちょっと暗い感じになってしまったが、今回は、久々に大好きなEarl Windsorというピアノと向き合ったのでその様子を記事にしたいと思います。

今年の初めにお客様より電話が入った「横浜の○○と申します。」と言った所で私は、その声とお名前で直ぐに分かって「はい、ご無沙汰しております。」「昔、梅根さんにずっと調律でお世話になって最後にお電話頂いた頃にちょっと色々と立て込んでいてすっかりご無沙汰してしまって。今回ピアノの事でちょっとご相談が有るんです。」とお話をしていると昔、調律にお伺いしていた頃の事がまるで昨年もずっとお伺いしていた様に蘇って直ぐにお客様宅に駆け付けた。1983年からというとかれこれ37年の長きお付き合いのお客様。当時小学生だったお嬢さんは、もう良いお母さんになられて娘さんがこれからピアノを始められる。今回は、ご実家に同居するのを機に家を立替えするのでその間、弊社でピアノを保管してその間に汚くなった外装を剥がして全塗装して新品の様に綺麗にしてお届けするというミッション。当然、内部の調整やら消耗部品交換をしてとっても良い音とタッチにしてお届けします。このピアノは、Earl Windsorで当時、某量販店からの依頼で調律にお伺いしたのがお付き合いの始まりでした。お使いになっていたお嬢さんもお年頃なられてここ15年位誰も使ってなかったピアノを綺麗に再生して次の娘さん、2世代に渡って弾き継いで頂く訳です。昭和58年ピアノ業界もまだまだ花盛りの時代で今では考えられない位にピアノが売れている時代です。浜松界隈には、ピアノ関連産業が沢山並んでいました。何か困ると取りあえず浜松に行けばどうにかなる。つまり専門職人が沢山いて何処をどう伝っても簡単に部品の調達から大掛かりな事まで誰でも安価に気軽に利用させて頂けた。今では、ピアノ工場は元より専門職や職人さん、何一つ誰一人残って居なくなってしまった。気軽に頼んでいた仕事も依頼先が無くなると自分でやるしかない!簡単に手に入っていた部品も入手が困難なら自分で作るか海外から取り寄せるか。今は、全て自前のネットワークで設備を整えて何でも自分で出来る様にするしかない訳です。

この時代のピアノの塗装は、ラッカーからウレタンやポリ色々とあるがヤマハ・カワイ以外のメーカーの一部は、カシュー塗装を使用していた。その理由は、色々とあるが一言で言うならば安価だった。黒色の濃いカシューは、とっても綺麗だが何十年と月日が経ち紫外線にさらされると灰色に焼けてくる。ウレタン・ポリみたいに磨いても綺麗にならずに剥げてくる。剥げるのであれば簡単に剥離出来そうですが剥離剤を使用しても化学変化をしないので全く剥げない。根気を持って手で剥がすしかないという、まぁ~機械を使って人力でチマチマと作業するしかありません。しかし綺麗に剥がして現代の塗料で塗装をするとまぁ~何とも綺麗な仕上がり・・・ちょっと惚れ惚れします。

どのメーカーのピアノでもウィークポイントの一つや二つは、あります?まぁ~非の打ち所がない高価なピアノもありますが、このピアノは、棚板と筬にあります。特にバランスレールの経年変化による調整の狂いは、ちょっとお客様宅で修正するには費用を頂かないと定期調律の時にチャンチャン簡単にやれるほど簡単ではなくちょっと大掛かりになります。それとペダル関係。その他に多いのは、ハンマーレールの乾燥不足が有り永年放置しているとブラケットに止めてあるビスが完全腐食して朽ちてしまう。などとこう書き込むと何だかひどいピアノみたいだが問題さえ見抜く事が出来たら、綺麗に調整が出来たなら物凄く良い音がします。全体的に音圧が低く抑えられていて華やかで深みのある素晴らしい音。家庭に置くピアノとして最高のピアノ。今、この様なピアノが日本から完全に姿を消してしまった事が残念でならない。

 

以前の記事にも書きましたが、上記の様なウィークポイントは、ただただ調律師にとって面倒臭い。というか、やった事の無い作業は、どう合わせたらいいか分からないから手に負えない。当然誹謗中傷が広まり調律師の中で評判が悪くなる。当時は、ピアノが沢山売れて調律師も大忙しだったので一軒のお客様宅に沢山時間を掛けられないという時代背景がありましたから今思えば当然と言えば当然の成り行きでしょう。逆に今は、幸か不幸か(笑)たっぷりと時間が掛けられる時代です。これからの時代を担う若き調律師さん達は、どうか日本製のピアノに愛情を込めて丁寧に向き合う時間を楽しんで頂きたいと思う。私が最近如実に思う事は、最近の若い調律師は、女性が多くて仕事が丁寧で調律の精度も高い。これからは、若くて綺麗なお姉さんが高い技術力を持ってこの業界を盛り上げていくんだろうな!若い男の調律師を見るとつくづくそう思う。ご両親にはとても見せられないが、作業場で汗まみれ埃まみれなっても楽しそうに作業してる若き女性調律師を見ているととっても微笑ましく、ついつい誰にも教えたくない苦労の末に身に着けた技術や知識を惜しげも無く教えてしまう。何時までも若いつもりで居たが時代が変わったなと改めて老いを実感する。