「ひと言」カテゴリーアーカイブ

羊と鋼の森の映画、ピアノ調律の芸術性。

今年もあっという間に2月。今年は、インフルエンザ大流行で私も仕事始めの日から寝込んでしまい順番に家族全員仲良くインフルエンザの餌食になってしまった。新年のスタートダッシュも決められずにスケジュールも大幅に遅れ、治ったにもかかわらず何だか体調がすぐれない所に積雪。雪かきに追われてまた、数日後にまた積雪。山の上に住んでいると夏は、涼しくて良いのですが冬は、寒くて街ではわずかな雪が我が家では、大雪になります。こんな時に思い出されるのは、4年前の大雪です。2月に2週続けて週末に雪が積もりました。その年は、4月から消費税が8%になるので3月31日までにピアノを納品しないと消費税が3%がアップする訳です。ピアノ代金の3%は、どれも万単位ですから事は、深刻です。納品が4月にずれ込んだだけで万単位のお金をお客様に追加請求するのも納得して頂けないというかお互いに気まずいので運送屋さんに必死で納品に駆け巡って貰った事を思い出します。さて今回は、近々の出来事でピアノ調律師の芸術性について記事にします。

1月2月と学校の調律の時期になる。病み上がりの体調で寒い体育館での作業は、体に堪える。特に今年の寒さは、異常で例年6℃やら8℃ですが今年は、3℃という所があって思い通りに動かない指は、寒さを超えてもう痛い!耳たぶは、凍ってしまったかな?と思う位に感覚が無いし鼻水は出るわトイレは、近くなるわで来年からは、手袋して耳当てして?・・・耳当ては、音が聞こえにくくなるからダメか?なんて集中力を欠いて違う事を考えながら作業すると無駄に余計に時間が掛かってかえって逆効果。それでも寒さに震えながら完璧に作業を終える。2月もあと数校行かなければならない。今回は、ピアノ調律師の芸術性を記事にするつもりでしたが、調律師は、過酷な仕事です(笑)。

2月の初めに弊社の倉庫に100年前のスタンウェイO型グランドピアノが入って来た。海外から搬送されて木枠梱包されて入国したのですが、どうやら海外の梱包業者の不手際で色んな所が壊されていた。まぁこんな事は、よくある話なのでどうって事は、ありませんが入庫した時は、グチャグチャに音がずれていたのに数日経つとピアノも落ち着きを取り戻してズレた音が元に戻って来て何とも伸びのある綺麗な音を奏でてくれる。我々が良く触るメーカーのピアノとは、あからさまに音色の豊さが違う。もちろん弦やハンマーなど交換修理は、されているが外装は、そのままである。誰でも弾いてみると直ぐに違いが判るが言葉で伝えるのは、大層に難しい。人により好みもあるが、良い音のピアノは、一言で言うと芸術性が違う。アカデミックな世界なのです何て書き込むと余計に分からなくなってしまいますが本人は、至って真剣です(笑)!

数年前に年間の本屋大賞に輝いだ「羊と鋼の森」が映画化されて今年の6月に公開上映される。この本は、出版されて直ぐに読んだが、本業の我々からすると皆さんに理解して頂けるだろうか?これで面白いと感じて頂けるのかな?と感じたが、大賞を取り遂には、映画化されて見事に予想を翻した結果となりました。この小説は、若いピアノ調律師がピアノの奥深い世界の魅力に引き込まれて、その成長の心境を描いた本であるが正にその音の奥深さが芸術性だと思います。我々ピアノ調律師は、88鍵全ての音を合わせますが1つの音に3本の弦(低音部は2本・1本)を綺麗に合わせます。全ての音程を合わせ、全ての張力のバランスを取って、全ての音色を合わせる。88鍵全て同じ様にバラツキが無い様に丁寧に合わせます。そしてその音色の深い所に芸術性を注ぎ込むのがピアノ調律師の仕事です。よくピアニストが調律師によって音が全然違うと言っているのを耳にすると思いますがその違いは、芸術性の違いだと思っています。即ち我々ピアノ調律師は、常に芸術性を高める努力を怠っては、仕事にならないという事になります。この芸術性を高めるには、音楽だけでなくてあらゆる面でその感性を磨かなければそれは、育ちません。何事にも興味を持って健康で好奇心旺盛でなくてはなりません。ここピアノ調律師を取り上げた物にBS NHKだったと思いますが、「もう一つのショパンコンクール」や数年前には、「ピアノマニア」という映画いずれもピアノ調律師のお話。調律師の世界を描いた作品です。昨年、多くのお客様より「この前、もう一つのショパンコンクールというのをテレビで見ましたよ。面白かったですね~舞台裏では、あんな大変な事をしていたんですね~」と随分お話が弾みました。ショパンコンクールに参加出来るピアノメーカーは、4社でその内3社の調律師が日本人なのです。もちろんYAMAHA・KAWAIは、日本人であたり前ですが、イタリアのファツィオリも日本人。世界の檜舞台で活躍する日本人技術者達の苦悩を取材しショパンコンクールの舞台で繰り広げられるピアノメーカーの厳し過ぎる戦いを見事に描いたドキュメンタリー番組でした。さすがNHKテレビの影響は、凄い。そしてもう随分前になりますが「ピアノマニア」という映画が公開されました。メジャーの映画館では、公開していませんでしたが、それこそピアノ好きのピアノマニアや音楽関係者が小さな映画館に押し寄せた。類にもれず私も仲間と観に行きました。著名な一流ピアニストの高い要求と抽象的な注文に著名なドイツ人調律師が如何に応えるかを描いた映画です。映画が終えると回りの観客のピアノの先生だろうな?音大生かな?と思われる人達は、ニコニコと「面白かったわ!」とか「勉強になったわ!」と話をしていたが、私は、自分にあの要求を出された時にどう対処するだろうなどと考えながら観ていたのでもうヘトヘトに疲れて一緒に行った仲間に「あの要求をどう対処したのかの映像が無かったな!どうやったんだろう?」ピアノ技術談義が始まったのを覚えている。何れもとても面白い映像ですので皆様も機会がございましたら是非ご覧になってみてください。ピアノを別の切り口で描いた奥の深い作品です。そして今回は「羊と鋼の森」です。今回は、何だか映画の宣伝の様な記事になってしまいましたが、もちろん私が出演している訳でもないし製作に関わった訳でもございません。その証拠に本は、読みましたが映画は、見ていません(笑)!何でも主役に山崎賢人・先輩調律師に私のお気に入り西郷どんの鈴木亮平だそうな。本の内容からして艶っぽい所が全く無いのは残念でならないが(笑)!奥の深い芸術のお話が見事に描かれているのでは、ないかなと思います。まぁ~鈴木亮平の凄腕調律師の演技はちょっと楽しみ!「いや~何だか無責任やな~!」とクレームが聞こえて来そうですが!是非良い映画に仕上がっている事を心より願っています。

 

 

 

 

 

ラニーニャ現象とピアノ

皆様、2018年犬年を迎えまして如何お過ごしでしょうか?本年も鎌倉ピアノ芸術社を何卒宜しくお願い申し上げます。昨年は、特に11月・12月は忙しくて新たな記事をアップ出来ず昼夜問わず仕事に追われて気が付いたら大晦日。それもこれも昨年の夏の連日の雨と冬の寒波が関東のピアノに大きく影響していました。今回は、昨年の天候がどの様にピアノ影響したのか書き記したいと思います。

昨年は、8月に連日雨続きでテレビの天気予報のおじさん達は、ラニーニャ現象が起きているだのいないだのと何だか良く判らないがエルニーニョが赤道あたりの水温が上昇してラニーニャがそのあたりの水温が低いとか、それによって日本の気候も大きく影響を受けると・・詳しい事は、分かりませんがどちらの現象も日本にとっては、良い事が何一つ無いらしい。現実に昨年の関東の8月は、梅雨の様に来る日も来る日も雨雨雨。場所によっては、観測史上初の大雨による大洪水が発生して多くの方々が被災し未だ多くの方々が仮設住宅で過ごしそこで新年を迎えられたというニュースが報じられました。被災した皆様に心よりお見舞い申し上げると共に一日も早く復興する事をお祈り申し上げます。それにしても昨年は、人間にとってもピアノにとっても厳しい気象条件でした。しかしその最中にピアノのトラブルの報告は、全くありませんでした。ピアノは、湿度が高いと音も大きく影響を受けますが一般家庭の場合は、鍵盤が戻ってこないとか鍵盤を押しても小さな音しか出ない所があるとか色んな機械的なトラブルが出てきます。実際に湿度が高いとどうなるのかと言いますとピアノ木部に湿気が入り込んで木部が膨らむ。ブッシングクロスなどフェルト類にも湿気が入り込んで膨らんで機械の動きが悪くなる。響板や駒も湿気が入り込んで木部の圧力が上がってピッチが上がってしまう(音が狂ってしまう)。その様に湿度が高い事によるトラブルは、この日本に置いては毎度の事で我々ピアノ調律師は、毎年の調律の時にそれぞれのご家庭の様子に合わせて作業していますのでそうそう大きなトラブルになる事は、ありません。しかし昨年は、冬になって急激に気温が下がり暖房器具フル回転。おまけに今は、床暖房や一軒全館空調などで一気に乾燥が進んで大きく体調を崩したピアノを心配してお客様よりSOSの連絡を多く受け取りました。

10月の半ば過ぎに初めてのお客様より電話が入る。私は、他の仕事で外出しておりましたが、会社より大至急連絡を取って欲しいと携帯に連絡が入ったので仕事先より直ぐに電話を入れると「今週末にライブを開くのですが今日ピアニストが来てピアノを弾くと音が凄く狂っているので調律して欲しいと言われてお電話差し上げました。4月の終わりに調律したばかりなのですが、ピアノの調律をお願い出来ますか?」との事で後日早速お伺いすると自宅を改造した眺めの良い喫茶店でピアノは、YAMAHA C3で比較的年式の新しいピアノで年2~3回の調律がされているがピッチが3Hz上がっている。夏の長雨の影響です。アクションも湿気を帯びていて動きの悪い所が多数ある。オーナー様が今回のピアニストは、一音一音を大切に弾く有名なJAZZピアニストで追っかけのファンが居て地方からの申込みで既に満席らしい。ならばとじっくり時間を掛けて無事調整を終えた。

12月のある日電話が入る。「先日は、ありがとうございました。急で申し訳ございませんが明後日コンサートなのですが調律をお願い出来ますか?」と同じオーナー(お客様)からでした。私は「明後日という事は、今日明日のどちらかですね?いや~困りましたね、既に予定が一杯です。もしよろしければ今日の夜遅い時間ですがどうにかお伺い出来ますが」とお答えすると「はい、今晩お待ちしております。急で申し訳ございません」と夜にお伺いした。早速、ピアノを触ると2カ月前に調律しているので弾いて大きく違和感が無いが2Hz位ピッチが下がっている。私は、「暖房は、どうされていますか?」と聞くと「エアコンですけど」と言って遠くの2カ所を指差してくれた。「あの2台ですか???」あの距離ならば大して影響がなさそうだが?と思いながら「前回のコンサート当日は、台風でしたけれど無事開催できたのですか?」とお聞きすると「え~皆さん遠くから大雨の中いらして頂いたんですよ。ピアニストがピアノがとっても素晴らしいと言って喜んでおりました。」「そうですかそれは良かったです(笑)!前回から2か月でこれだけピッチが下がったのは、この夏の長雨とコンサート当日の台風の大雨で沢山湿気が入ってここの所の寒さに於ける暖房の影響で乾燥して音が下がってしまったのでしょう~でもエアコンがあの距離ですからね~???まぁ~とりあえず調律を始めます」と言って腑に落ちないまま調律の準備を始めると。「そうだわ冬のコンサートの時は、その薪ストーブをずっと燃やしています。」と言ってピアノの目の前の薪ストーブを指差されました。「え~これ使っているんですか?(笑)!原因が判りました(笑)!薪ストーブを燃やすとお客様は、大喜びでしょう?」「そうなんですよ。皆さん喜んでまた暖かいんですよ」とにこやかに、私も原因が判って安心して作業に没頭した。この薪ストーブは、前回の調律の時にその存在は、気付いていましたが、てっきり使っていないのかな?と思った位にとても綺麗に掃除されていた。原因は、夏の調律の時は、湿度が高くピッチが上がっていたのだが、寒くなって暖房に薪ストーブしかもピアノから2メートルの所、その放射熱でピアノが温められて乾燥が進んでピッチが下がった訳です。調律を終えて冬場のピアノの管理方法を提案して夜の仕事が無事終えた。

12月は、こればかりではなく、ホテルやレストラン・ライブハウスなど緊急の飛び込み仕事がとても多かった。今年のイベントの多さとどの会場も満席と聞くと世間では、景気が良くなったんだなと実感させられます。コンサートホールにおいては、コンサートの度に調律を行っているのでこの様な大きな狂いが出ることはありません。実際ホールでは、ピアノの湿度管理は、徹底されているので天候の影響も最小限。しかしその他の会場やライブハウスなど暖房のキツイ所は、途端にピアノも悲鳴を上げる。この状況によく似ているのが最近多くなった、老人施設。ご高齢の方々の為に24時間冷暖房と床暖房で快適に過ごす事が出来ます。しかしピアノにとっては、もっとも過酷な環境だと言えます。夏は、涼しく冬は、暖かくと技術の進歩も著しいが、それは、温度に関して言えばの話でもう一歩進んで快適温度と快適湿度の管理まで考えられた製品が普及してくれるとエルニーニョでもラニーニャでも何なら両方いっぺんに来ても人間もピアノもどちらも快適なのに・・・いやいや、そんなんじゃ日本各地で観測史上初の災害が多発しちゃうから、どうかその難しい名前の現象はもう起こらない様に!そうじゃないと急な仕事で忘年会ドタキャンが続くともう呼んで貰えなくなっちゃう~!