「ひと言」カテゴリーアーカイブ

ピアノは、ずわい蟹よ!

お客様より電気ピアノを譲って頂くので運送と調律をお願いします。と電話が入る???デジタルじゃなくて電気ピアノですか?と問い直すと電気なんですヤマハの。運送の手配と調律の日取りを決めて先日その電気ピアノに会ってまいりました。いやはや、久しぶりの電気ピアノ。僅かに1件だけ管理しているお客様がいますが、今回の電気ピアノは、さらに古くおよそ30数年前のヤマハ電気ピアノです。中身は、まさにピアノ。響板が無く代わりに駒の部分に88鍵分88個のマイクが組み込まれて弦の音をマイク(マグネットのバッキングマイクとか何とか言ってた記憶が?)で拾ってスピーカーより音が出るといった楽器です。タッチは、ピアノと同じ。音は、いかんせん古く調律を随分やっていないのでガタガタ。各所に虫食いの跡があり作業というより掃除に時間が掛かり電気部分の接点復活剤の散布で無事完了しました。この楽器に会うと昔ピアニストとの会話を思い出します。ピアニスト宅の調律が終わりお茶を飲みながら雑談をしていた所に一流メーカーの営業マンがやってきました。3人で話をしていると営業マンが最近は、デジタルピアノが売れて売れて生ピアノが売れないんですよ。ピアニストは、デジタルピアノて言うのは、お幾ら位するの?25万円位しますよ。当時は、10万以下のデジタルは、まだ無い頃の話です。すると先生は、もう少し出すと中古のピアノが買えるじゃない、あなた方の努力不足なんでしょ?とけんもほろろ。営業マンは、先生今は、住宅事情や騒音問題があって大変なんですよ。とそこで私が中古ピアノがダメならばせめて電気ピアノにしたいね、と言うと先生は、小さな子供が弾くのよ3歳から本物の音を聞かせるのが本当の教育よ偽物のピアノで上手くはならないでしょ。とちょっと興奮気味。騒音問題は、上手くなれば騒音じゃないのよ教える方も問題があるのよ!とテンションが上がってくる。営業マンが、でもデジタルピアノは、ピアノと変わらない位良くなっているんですよ。と言うとピアニストの先生は、「あーたねデジタルは、蟹かま よ!どんなに上手く作っても所詮偽物、ピアノは、ずわい蟹!本物よ!」いやいや上手い事言うなぁ~~と関心した所に営業マンが「ずわい ですか?タラバ じゃだめですか?」と軽口を叩くと先生は、冷静に「タラバは、ヤドカリの仲間なのよだから ずわい と言ったのよ。そろそろお帰りになって」と気まずい雰囲気で営業マンが退散。私もそろそろと言うと先生が「あなた、まだお支払してないのよ。お茶を入れ替えるわ」と随分昔の思い出です。DSC_0267

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綺麗になって喜んでいるピアノ

ようやくグランドピアノの修理が完了しました。最終調整にかなりの時間を掛けて愛情を注いで蘇りました。レペテイションレバースプリングを全てはずしてきしみ音を取り除き動きもスムースに。ハンマーのテールは、全て加工しなおして、これにてピッタリとハンマーを銜えてくれる。演奏者がスムースに連打や音色のコントロールが出来ます。一つずつ作業を進めて度にピアノが喜んで何だかニコニコして居る様な感じすらします。グランドピアノの整調作業は、中腰作業が続くので腰が痛くなるがどんどん希望の音に近付いてくると、腰の痛みも時間の経つのもついつい忘れてしまう。ぎっくり腰の病み上がりなのに。ダンパー調整からハンマー弦合わせに同時発音など中腰作業が続く。最後に整音作業は、これが一番楽しく一番緊張する作業。慎重に作業を進めなければ今までの作業が全て水の泡となる。ハンマーをいたわりながら思い描く音に仕上げていく作業は、まさしくピアノとの対話です。機嫌を損ねないように愛情を注ぐ。思いよりはるかに煌びやかでふくよかな音を奏でてくれました。外装も中身も綺麗になってピアノが満面の笑みの様だ。持ち主のピアノ講師も蘇ったピアノに満足して頂ける事でしょう。でも、一番満足して満面の笑みなのは、僕なんだろうな!DSC_0353

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納得して頂いたらラ・ヴァルスを聞かせて下さい!

早朝より長年お世話になっているピアニストのスタインウェイをリフレッシュする事に。突然、夜に携帯が鳴り「今ラヴェルを洗いなおしているんだけど私のシュタインウェイのご機嫌が悪いのよ。直して下さるでしょ!」それは、勿論、どんな状態ですか?と聞くと「思いの通りの音が出ないのよ・・・ウワンとフォルテは良いの、でも悲しい気持ちに音がついてこないのよ・・お忙しいでしょうからお時間が出来次第お願いしたいの。でも、早い方が良いわ」そんな電話に早々に時間を割いて翌日にピアノの様子を見に行き、本日、早朝から夜8時まで掛けて作業をしてまいりました。1年に2度から3度の調律をしているのでさほどの狂いは、ありませんでしたが、先生のおっしゃる通り音色のばらつきやタッチのばらつき・・本当に僅かな物ですが特に鍵盤の調整は、1から全てやることにしました。先生に思い通りになりますから納得して頂いたら僕の大好きなラ・ヴァルスを聞かせて下さい、と言うと「納得したらいいわ」と・・・ルンルン気分で作業に入る。鍵盤関係は、ブッシングクロスをへたっている所やちょっと怪しい所は、すべてにかわで張り替えてバランスホール調整やなどなどかなり時間がかかる。整音は、悲しい音に音がついてこないと言われたのは、ピアニシモの音詰まりやシフトした時の音のばらつきが出てきているのでその辺を考慮しながら慎重に整音作業を進める。勿論、整調関係は、ほとんど狂いはありませんがローラーがヘタって来ているのも指摘の一因。全ローラーの調整をする。彼女の指摘は、いつも抽象的であるが、何を指摘しているのか良く判る。演奏者は、総合的に感じる事をご自分の感性で伝えてきます。それは、ピアニストの頭の中には、ご自分の基準の音、思い描く音がきっちりとあるのでそれと感覚や感触がずれるとすぐにクレームになる。昔から彼女には、何度も何度も叱られながら作業をさせて頂いて今では、大方何がおっしゃりたいのか分かる。決して妥協しないその音楽に対する追求高さは、政治的であり宗教的でもある。沢山叱られて勉強させて頂いた恩人です。本当に感謝しております。出来あがって先生がピアノに触れるとにんまりと頬が緩んだので安心安心と思いきや「低音のヴァルスの大砲がこれじゃ物足りないわ…」と久々に叱られて、またちょっと作業。今度は、にっこり笑って何も言わずに最初からラ・ヴァルスを弾きはじめた。この激しい曲をしかも2台ピアノで弾かれる事の多いこの曲、戦火の忍び寄るドラマティクな展開と破壊の様子を大迫力で聞かせて頂きました。僕の為に弾いて頂いていると思うと最高の幸せです。ありがとうございました。でも、この調子でガンガン弾かれるとまた、夜携帯が鳴りそうだな。

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