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年度末の急ぎ働き!

2022年も早3月。毎年この時期は、会社関係の税金を納め巨額の消費税を納め一気に懐が寒々として意気消沈していると今度は年度末で無理難題が押し寄せて何かと慌ただしく時が過ぎて行くちょっと憂鬱な時期。「発注するのがついつい遅くなりました。よろしくお願いします。」と言って色んな関係各所から仕事の依頼が寄せられるが全て3月末までに会計処理をしたいと言われる。ちゃんとした所は、昨年11月あたりから依頼の打診があって既に予定を決めてあるので問題ないのですがこの「発注するのがついつい遅くなりました!」については毎年ほとほと困り果てる。といってもせっかくの依頼ですから無下に断ることも出来ずにスケジュールの合間を縫って無理やり仕事を詰め込むという何だか急ぎ働きの様な事態が繰り返される。特に今年は、この急ぎ働きの数が尋常じゃなくて、これもコロナ・オミクロンの影響だろうと勝手に決めつけて日々の仕事に追われてホームページのアップもままならなかった理由をここにご報告申し上げて心よりお詫び申し上げる次第でございます。

さて、北京オリンピックも日本人選手の活躍もあって大層に盛り上がった。色々と物議を醸した部分も大いにあった気がするが、真剣勝負の世界戦は、まさに見ているものに感動を与える。次は、パラリンピックと思っている最中にロシアのウクライナ侵攻のニュースが飛び込んだ。昨日は、ロシア軍が原発を攻撃占拠したと報じられ正に驚愕した。私の様な町場のピアノ屋さんがさもさも判ったような気になって書き記す気など毛頭ございませんがこの数年のコロナ騒動で人々の暮らしが大きく変わってしまって不自由を強いられて皆さん沸々とされている中に今度は、戦争と見通しのつかない暗いニュースが続くのにうんざりさせられます。どうか一日も早くこの紛争が一件落着して普通に笑顔で暮らせる日が来ます様に心より願うばかりです。さて本題に入り、今取り組んでいる急ぎ働きです。

 

数年前にあるコンサートの調律で知り合って調律にお伺いするようになったバレエピアニスト宅のピアノの修理です。以前に地方の業者さんにてオーバーホールをしたピアノで、外装などはそのままですが弦・ピン・ハンマー交換の修理がされております。当然かなりの日数と費用を掛けた修理ですが、ちょっと問題があったらしく、その業者さんとトラブルになりその後、何人かの調律師さんにお願いして回って回ってここ数年私がお伺いしております。他所の仕事にケチをつける様な事はしたくないのですが、ちょっと問題があったらしいというのがちょっとじゃなくて「おいおい、これは余りに無責任でしょう!」という大きな問題でした。その問題とは、ピアノを演奏しているとカチカチと音がする事です。色んなケースがありますが今回のケースは、ハンマー交換の時にハンマーシャンクの寸法が合わずに短いままにしてしまって膠切れというか接着不良でカチカチとあちらこちらで音が鳴るようになっている事です。ピアノ調律師さんやピアノ関係の方々は、掲載の写真で理解出来ると思いますが初めて見る方にはちょっと専門的すぎるかもしれません。ただこの様な修理の場合、仮に寸法が合わなかったらもう一度最初からやり直すしかないのにどうしちゃったんだろう???まぁ~色んな事情があるとしても当の本人は、この無責任な作業に後ろめたい気持ちでいっぱいだろうに。今回は、その他所の人がやった修理の尻ぬぐいを大至急で私が昨日から着手しております。色々とアクションを見ていると色んな所が気になってしまってお客様宅では、手を入れにくい作業は、すべてやってあげたくなって結局やる事になるでしょう(笑)。特に鍵盤は、やたらと汚くてこれもついでに研磨して綺麗にしておこうなんて、あれやこれやと作業が増えてしまう。もう問題が起きないように気持ちよく弾いて頂ける様に出来ることは全部やって早急にお届けする急ぎ働きです。といってもお届けしたらその場で数時間重要な最終の調整作業があるのですがこれは、念入りに作業を進めれば進める程どんどん音が良くなるのでとっても楽しい楽しみな時間。詰まる所、レッスンがあるので直ぐに作業を始めて早く仕上げるといった普段と何ら変わらない普通の仕事でこれのどこが急ぎ働きなんだ?と言われそうですが直ぐに着手して直ぐに仕上げてお届けする全てが急がされる仕事。これってよくよく考えると特別料金の仕事だったなぁ~!この記事書きながら今、気が付いちゃった(笑)。

共働きのお客様で日中はお留守でご自宅には、おばあちゃんがいらっしゃるお客様から「鍵盤が下がったままの所があるのと弾いても音が出ない所が数か所あるんです。」と電話があった。毎年秋に調律にお伺いしているので湿気?床暖?でも床暖を使うにしても日中は居ないしそうそう長い時間じゃないだろうに???ちょっと不思議に思った。ピアノは、外国製の有名じゃ無いピアノでそのピアノは、鍵盤の材質がウィークポイントでその事を知っていれば何ら問題の無い良い音のするピアノです。今回は、きっと寒かったし雪も積もったし暖房の影響かな?と思いながら直ぐにお伺いしてピアノを見てみると想像した通り鍵盤の木部が原因の故障でした。念の為に88鍵全てのバランスホールの調整を施して問題は簡単に解決した。作業をしながらふと気付いた事が「あれ!床があったかい。」私は、おばあちゃんに「床暖のスイッチは、いつも入れてるんですか?」と尋ねると「はい!内緒なんですけど、私は亀を飼っていて昼間は、このリビングで飼ってるんで寒いといけないので床暖入れて温めているんです。皆が帰ってくる前には、スイッチを切って私の部屋に移動するんです(笑)!」「日中は朝からずっと床暖入れているんでか(笑)!」謎が解けましたお客様は、床暖は寒い日の夜の短い時間だけと仰っていたがおばあちゃんが飼っている亀の為に内緒で日中もずっと床暖を使っていたと言う事でした(笑)。ピアノは、多湿は厳禁とされていますが実は、過乾燥や湿度変化が大きいと致命的なトラブルに見舞われます。現代の住宅事情で床暖や全館空調によるピアノの管理の難しさに我々も頭を悩ませます。まぁ~ピアノは、我々がどうにか管理するにしても、おばあちゃんの大切な亀の健康状態に関係する事なのでお客様(娘さん)には内緒にする事にしました(笑)!しかし亀ってキャベツ食べるんだ!初めて知りました(笑)。

 

 

 

思わず背筋の伸びた出来事!

仕事に追われて慌ただしく過ごしているともう10月も終わろうとしている。緊急事態宣言も解除され飲食店もようやく通常営業?感染者数があまりにも激減して本当かなぁ~(笑)?コロナとの闘いもこう永くなるとちょっと懐疑的になるが、眞子様もご結婚されたし順調に感染者数も減って世の中明るい方向に進んで行っているので、どうにかこの調子で終息する事を願うばかりです。さて今回は、背筋が伸びちゃったお話を手短に書き記したいと思います。

歌手でありピアノ講師でもあるお客様より電話が入る。「古いアップライトピアノが実家の別荘にあるんです。それを実家に運んで使えるように調律して頂けます?」と言って住所などを知らせて頂いた。早速、運送を手配をして長野県から運ぶ手筈があっという間に整ったが相当古いピアノという事と別荘に置いてあったと聞くと調律師なら当然虫食いの被害が頭をよぎる!しかし先生曰く「実家の母が遊びで弾くだけなので弾ければいいわ(笑)!」だったがちょっと心配だったので長野県から取引先運送会社に入庫した時点でピアノを見に行った。昭和33年製作のYAMAHA U2だった。湿気の影響で機械の動かない所が数カ所あって音はかなり下がっているが張りの有る良い音はしている。幸いな事に虫食いは、全く無く安心した。このピアノを何か手を加えるとすると途端に色々と交換したくなっちゃうので先生の言いつけを思い出して何にもしないでこのままお届けする事にした。

そうこうしながら並行して建設会社の友人から「リフォームしたお客様宅に永年放置しているピアノが有るので調律頼むよ!」と電話が入った。「お~良いよ!と二つ返事で引き受けた!」すると「物凄く腕の良い調律師て言ってあるから宜しくな(笑)!」と「だったら調律代物凄く高くても良いのか(笑)?」と言うと「そこは、友達だから物凄く安くだろ~(笑)(笑)!まぁ~全て任せっから頼むね~!」といつもの軽い会話で仕事を請け負った。連絡を取ってお伺いすると大変珍しいピアノで大橋ピアノだった。長年放置されて音は大層に狂っているが3本ペダルのそんなに古いピアノでは無かった。鍵盤蓋を開けると「OHHASHI」!お~大橋盤岩さんのOHHASHIピアノだ!と調律師ならだれでも思うだろう。早速調律を始める為に準備をするとピアノ内部のフレーム(鉄骨)に大橋盤岩と刻まれている。この大橋盤岩さんとは、日本のピアノ業界の発展に大きく貢献されてヤマハのピアノ製作の礎を築いた名工です。ヤマハピアノが大量生産に方向転換して行くことに反発し理想のピアノ作りを目指して自ら会社を興してディアパソンPIANOを設計販売した。その後ディアパソンは、河合楽器に吸収されてそれを期に大橋ピアノ研究所を設立し、ご自身の名前のピアノを製作販売した。手間を惜しまずに厳選した素材で職人の手作りによる採算を度外視した大橋盤岩氏の理想のピアノが今回の「OHHASHI」ピアノです。たしか4500台余りの生産台数だったと思います。私は、あの大橋盤岩さんのピアノだと思いピアノに敬意を払って真摯に調律を済ませた。年式の新しさから2代目大橋巌さんの頃のピアノですがとっても丁寧に作られたピアノだった。調律中にピアノ内部をよくよく観察すると細かい部品まで面取りされたベヒシュタインの様な神経の行き届いた惚れ惚れするピアノだった。調律後ピアノを弾いてすっかり良い音を響かせてお客様に「いや~良いピアノですね!ピアノがいらなくなったら直ぐに電話してください。僕が引き取りに来ますから(笑)!」と言うと「息子が使うって言ってるわ!」とけんもほろろに断られた!

長野からのピアノが無事に運送されたので早速調律にお伺いした。我々にとっては、一番馴染みのあるYAMAHAのピアノ。昭和33年製造ですから今から63年前に製造されたピアノです。外観も細部に渡ってかなり手の込んだ作りで最新のピアノでは、到底考えられない手間が掛かっている。長年放置されているので「随分くるってるなぁ~!」と心でつぶやいて調律記録を見てみると納入調律(納品して最初の調律)の欄に辻文明 と書いてあった。思わず背筋が伸びた。もう一度よくよく見てみると昭和33年10月9日 A441Hz 辻 文明 と書き記してあった。この辻文明氏とは、ヤマハが日本が世界的に誇る調律師の代表的な人物。余る才能と技術を開花させてでドイツ・ハンブルグ勤務を経て帰国後にYAMAHA CFⅢを世に出した。業界人では、言わずと知れた名工テクニシャンで調律師の神様的存在。あのピアニスト内田光子さんの調律をした事でも有名な日本が世界に誇るコンサートテクニシャン。昭和33年頃は、辻さんもアップライトピアノの納調に行っていたんだと思うと不思議な感覚に包まれて技術談義をする辻さんの声が頭の中をよぎった。ふと我に返りこの調律記録カードの大先輩の文字が私ににらみを利かしているかのように緊張しながら真摯にピアノに向かった10月の出来事でした。